喫茶店オルゴールの不可思議レシピ

一花カナウ

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雨の思い出 ~ You sing a song for me ~

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 ――――……
 確かその頃も梅雨のまっただ中だった。節の家は芸術に優れた家系で、主に絵画の方面に長けていたが、節の両親も彼自身もとりわけ才能があるというわけではなかった。ごくごく平凡な三人家族。父も母も働きに出ている。少子高齢化が顕著であるこの都市周辺では珍しくない、ありふれた家である。
 川を挟んで商業地と住宅地に分かれ、その住宅地の高層集合住宅地区に彼らは住んでいた。この地区は子どもを持つ世代が多く住み、学校などの教育機関が集中している。子どもの少ない、そして老人が異様に多い社会において、学校が成立するにはこういう現象が起きて当然だろう。
 小学校五年生くらいのことだったと節は記憶している。この頃に風読みの能力を自覚した。
 きっかけは音楽の授業で使うリコーダーだった。節の力は吹奏楽器に合うらしく、異変に気付くのにそうかからなかった。それまで大して楽器に触れなかったのだが、これを機に音楽に興味を持つようになった。クラブ活動もそういった方面に積極的に参加した。
 幸い精神的に安定していた節は、力が暴走することもなく、悪用することもなかった。能力的に弱かったからというのもあるかも知れない。節が楽しい時に奏でる音は周りを陽気にさせ、不機嫌であればそれは直ちに周囲に伝わり陰鬱にさせた。
 力に気付いた最初の時期、節のそばには幼なじみがいた。保育園からずっと同じクラスで、その子は女の子だった。低学年までは頻繁に遊んでいたが、高学年に進むにつれて互いに距離を感じるようになってきた。それでも他の誰よりも仲が良かった。
 彼女の名前はシノミヤレンという。
 レンはリーダーシップを発揮する活発な少女だ。節もどちらかというと活発な少年であったので、二人で学級委員をしていた。

 そんなある日のことだ。

 どういうわけか、その日のケンカは今までなかったほど大きなケンカとなってしまった。大人になった今の節は、その原因が一体何であったのか思い出せない。些細なことだったのか……はたまた、彼自身が重要に感じていなかったが、レンにとって重要なことだったのかも知れない。男の子と女の子の考え方は、どこか違うと思うからだ。
 放課後、ほとんどのクラスメートが帰宅してしまったあとだ。梅雨の晴れ間で、ずっと部屋にこもっていた彼らにとって、今日は絶好の外で遊ぶチャンスだ。だから、普段ならまだ教室に誰かがいそうな時分であったが、この日は節とレンの二人しか残っていなかった。ちょうど委員会の仕事があったのだ。
「――だから、そう言ってるでしょ? せっちゃんの意見じゃ絶対にまとらないよ!」
 レンは机を叩いて立ち上がった。教室に大きな音が響く。
 まもなく二つ目の音が教室を震わせた。机を向かい合わせにして座っていた節が張り合うように叩いて立ち上がったのだ。
「レンのアイデアは面白いかも知れないけど、突飛すぎるよ! 夏休みまでに形になるわけないじゃないか!」
「やれるわよ! だってわたしがやるんだから!」
「どんな基準てものを言っているんだよ。あと一カ月しかないんだ。それはわかっているんだろ?」
 節がきっぱり言うと、レンは顔を真っ赤にして膨れた。
「じゃあ、わたしが企画書をまとめてくるから、せっちゃんはせっちゃんでいい企画、出しておきなさいよね! とりあえず、今出したせっちゃんの案は、わたしが却下するから」
 レンは言い捨てると、鞄に端末機を押し込んだ。
「帰るの?」
 その様子をぼんやり眺めながら節は問う。
「今話し合ってもうまくいかないもの。明日、また続きをやるわよ! 覚悟しておくことね!」
 鞄を背負うと、彼女はさっさと出て行ってしまう。
 そんな調子だったので、一緒に帰ろうとも言えず、節はため息をつきながら時間をずらして教室を出た。
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