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神さま(?)拾いました【本編完結】
19.電話の相手
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スマホから充電ケーブルを引っこ抜いて、私は画面を見ずに電話に出た。
「もしもし?」
「……弓弦?」
声を聞いて、さっと血の気がひいた。
この声、この発音は兄のものじゃない。
「……ケイスケ」
「ああ、よかった。何度も電話してるのに繋がらなくてさ。着信拒否されてるのかと思った」
ケイスケは何を言っているんだろう。向こうは動揺を隠すように笑っているが、私は着信拒否設定はしていないはずだし、そもそも履歴に彼の電話番号は残っていなかったはずである。
私は冷静を装う。
「今更何のよう? 私、ヨリを戻すつもりなんてないけど」
想定していたよりもずっと冷ややかな声が出た。
「でも、俺、弓弦に説明していないし、謝ってもいないだろ?」
「説明して謝罪したらケジメをつけたってことになるとでも? 馬鹿にしないで!」
「黙っていたのは悪かったよ。話すつもりではいたんだ」
「ふざけんな!」
私はスマホを壁に投げつけるすんでのところで思いとどまり、電話を切った。すぐにスマホが震えたので、私は電源を落としてやる。
「話すことなんてなにもないわよ」
ケイスケは誤解だとは言わなかった。それだけで証拠は充分だ。
私はベッドの上に膝を抱えて座り、そのままパタンと横になった。
頭の中がぐるぐるする。
ケイスケがしたことは非難されるような裏切り行為だ。おそらく、私が友人知人に触れ回れば、みんなきっと私に味方をしてケイスケを責めることだろう。
でも、こうなったことで私は気づいてしまった。ケイスケと私の関係は恋人と言えるような関係を築けていなかったことに。私のごっこ遊びに、ケイスケは付き合ってくれていただけなのだ。
だから、このままなかったことにしてしまえばいい。説明なんてしないで、ケジメをつけたフリなんてしないで、そのまま放置して、うやむやにしてしまいたい。
「アニキは……ケイスケと話したのかな……」
私の預かり知らぬところで婚約者にされていたケイスケは、アニキのお叱言をくらっているのかもしれないが、そんなの知ったことではない。もう終わったこととして処理してほしい。
「……弓弦ちゃん?」
部屋の入り口で神様さんがこちらの様子を窺っている。部屋に入ってこないのは何故だろう。
「なんですか?」
「電話、梓くんからじゃなかったんだね」
「そうですね」
私が電話を待っていた相手が誰なのか、彼はわかっていたようだ。まあ、私宛の電話を勝手に取って切ってしまったのだから、もう一度かかってくることを期待していたのだろうとは思うが。
「彼氏さん、かな?」
「元カレです」
もう過去の男だ。私ははっきりと指摘した。
彼は困ったように笑う。
「話を聞かなくてよかったのかい?」
「話すことなんてないですよ。ヨリを戻すつもりは互いにないんですから、このまま関係を解消しておしまいでいいじゃないですか」
この話題にはもう触れたくはない。私は拒絶の意志をもって枕を彼に投げつけた。
たいした勢いが出なかった枕はふんわりと放物線を描く。彼は素直に受け止めた。
「本当にいいのかい?」
確認しながら、神様さんは私に近づいてくる。
「少なくとも今は、話せるような気分じゃないです。それに、電話口で済ませようだなんて、失礼じゃないですかね?」
「そういう意見は確かにあるねえ」
枕を私に押し付けて、彼は隣に腰を下ろした。
「でも、弓弦ちゃんだって伝えないといけないことがあるんじゃないのかい? 君が傷ついたのは事実だけども、君が彼と別れを選ぶ理由も話さないといけないんじゃないかなって僕は思うよ」
「裏切ったのは向こうです。話すことはないです」
「そう?」
私の脚を彼はそっと撫でる。
「こうして君のそばに僕がついていることと、彼氏さんのそばに見知らぬ女の子がいることは、そう違うこととも思えないんだけどなあ」
言われてみると、そう違わないような気はしてしまう。
いやいや。
私は首を横に振った。
「あなたは怪異の一種です。人間じゃないですよ」
「それはそうだけど」
答えて、彼は私に覆い被さるように身体を移動させた。私は逃げるタイミングを逃して、身動きが取れない。
「……思うんだけどさ。本気ですべてなかったことにしたいなら、僕に願えばいいんじゃないかな。このまま縁を切ることを願えば、綺麗さっぱり金輪際顔を合わすことがないようにできるよ?」
「願いませんよ。私は自分にあった出来事として記憶をして、糧にして生きていきます。余計なことはしないでください」
「君がツラそうにしている姿は見ていられないんだよ」
唇が触れ合いそうになる。顔を背けたら無防備な首を吸われた。あまりの心地よさについ甘い声が漏れ出す。
「つ、ツラいのは今だけですから。折り合いをつけるまでの間だけなんで」
流されてしまいそうだ。逃げたくてもがけば、ただの身じろぎにしかならなかった。
彼が耳元に唇を寄せる。
「それもわかってはいるつもりだよ」
「だったら」
「君が不安定になる要因のすべてを、僕は取り除きたいんだ」
顔の向きを変えられて、深く口づけられる。呼吸ができないくらいの口吸い。
「ん、やっ」
「今の僕なら君に触れられるからさ、少しでも嫌なことを忘れられるように直接働きかけることができる。ねえ、僕を利用してよ。人間にするようにでいいから」
「それは――」
拒む言葉を告げる前に、ぐぅと大きな腹の音が鳴った。シリアスな空気がぶち壊しである。
彼は仕方がないと言いたげに笑って、私の上から退いた。
「昼食にしようか。ちゃんと食べてからのほうがいいよね」
私の返事を待たずに、彼は部屋を出ていってしまった。
胸がドキドキしている。ときめいているということを認めないわけにはいかないだろう。
「……ずるいよなあ」
その言葉は神様さんに向けたものでもあり、私自身に向けたものでもあった。
「もしもし?」
「……弓弦?」
声を聞いて、さっと血の気がひいた。
この声、この発音は兄のものじゃない。
「……ケイスケ」
「ああ、よかった。何度も電話してるのに繋がらなくてさ。着信拒否されてるのかと思った」
ケイスケは何を言っているんだろう。向こうは動揺を隠すように笑っているが、私は着信拒否設定はしていないはずだし、そもそも履歴に彼の電話番号は残っていなかったはずである。
私は冷静を装う。
「今更何のよう? 私、ヨリを戻すつもりなんてないけど」
想定していたよりもずっと冷ややかな声が出た。
「でも、俺、弓弦に説明していないし、謝ってもいないだろ?」
「説明して謝罪したらケジメをつけたってことになるとでも? 馬鹿にしないで!」
「黙っていたのは悪かったよ。話すつもりではいたんだ」
「ふざけんな!」
私はスマホを壁に投げつけるすんでのところで思いとどまり、電話を切った。すぐにスマホが震えたので、私は電源を落としてやる。
「話すことなんてなにもないわよ」
ケイスケは誤解だとは言わなかった。それだけで証拠は充分だ。
私はベッドの上に膝を抱えて座り、そのままパタンと横になった。
頭の中がぐるぐるする。
ケイスケがしたことは非難されるような裏切り行為だ。おそらく、私が友人知人に触れ回れば、みんなきっと私に味方をしてケイスケを責めることだろう。
でも、こうなったことで私は気づいてしまった。ケイスケと私の関係は恋人と言えるような関係を築けていなかったことに。私のごっこ遊びに、ケイスケは付き合ってくれていただけなのだ。
だから、このままなかったことにしてしまえばいい。説明なんてしないで、ケジメをつけたフリなんてしないで、そのまま放置して、うやむやにしてしまいたい。
「アニキは……ケイスケと話したのかな……」
私の預かり知らぬところで婚約者にされていたケイスケは、アニキのお叱言をくらっているのかもしれないが、そんなの知ったことではない。もう終わったこととして処理してほしい。
「……弓弦ちゃん?」
部屋の入り口で神様さんがこちらの様子を窺っている。部屋に入ってこないのは何故だろう。
「なんですか?」
「電話、梓くんからじゃなかったんだね」
「そうですね」
私が電話を待っていた相手が誰なのか、彼はわかっていたようだ。まあ、私宛の電話を勝手に取って切ってしまったのだから、もう一度かかってくることを期待していたのだろうとは思うが。
「彼氏さん、かな?」
「元カレです」
もう過去の男だ。私ははっきりと指摘した。
彼は困ったように笑う。
「話を聞かなくてよかったのかい?」
「話すことなんてないですよ。ヨリを戻すつもりは互いにないんですから、このまま関係を解消しておしまいでいいじゃないですか」
この話題にはもう触れたくはない。私は拒絶の意志をもって枕を彼に投げつけた。
たいした勢いが出なかった枕はふんわりと放物線を描く。彼は素直に受け止めた。
「本当にいいのかい?」
確認しながら、神様さんは私に近づいてくる。
「少なくとも今は、話せるような気分じゃないです。それに、電話口で済ませようだなんて、失礼じゃないですかね?」
「そういう意見は確かにあるねえ」
枕を私に押し付けて、彼は隣に腰を下ろした。
「でも、弓弦ちゃんだって伝えないといけないことがあるんじゃないのかい? 君が傷ついたのは事実だけども、君が彼と別れを選ぶ理由も話さないといけないんじゃないかなって僕は思うよ」
「裏切ったのは向こうです。話すことはないです」
「そう?」
私の脚を彼はそっと撫でる。
「こうして君のそばに僕がついていることと、彼氏さんのそばに見知らぬ女の子がいることは、そう違うこととも思えないんだけどなあ」
言われてみると、そう違わないような気はしてしまう。
いやいや。
私は首を横に振った。
「あなたは怪異の一種です。人間じゃないですよ」
「それはそうだけど」
答えて、彼は私に覆い被さるように身体を移動させた。私は逃げるタイミングを逃して、身動きが取れない。
「……思うんだけどさ。本気ですべてなかったことにしたいなら、僕に願えばいいんじゃないかな。このまま縁を切ることを願えば、綺麗さっぱり金輪際顔を合わすことがないようにできるよ?」
「願いませんよ。私は自分にあった出来事として記憶をして、糧にして生きていきます。余計なことはしないでください」
「君がツラそうにしている姿は見ていられないんだよ」
唇が触れ合いそうになる。顔を背けたら無防備な首を吸われた。あまりの心地よさについ甘い声が漏れ出す。
「つ、ツラいのは今だけですから。折り合いをつけるまでの間だけなんで」
流されてしまいそうだ。逃げたくてもがけば、ただの身じろぎにしかならなかった。
彼が耳元に唇を寄せる。
「それもわかってはいるつもりだよ」
「だったら」
「君が不安定になる要因のすべてを、僕は取り除きたいんだ」
顔の向きを変えられて、深く口づけられる。呼吸ができないくらいの口吸い。
「ん、やっ」
「今の僕なら君に触れられるからさ、少しでも嫌なことを忘れられるように直接働きかけることができる。ねえ、僕を利用してよ。人間にするようにでいいから」
「それは――」
拒む言葉を告げる前に、ぐぅと大きな腹の音が鳴った。シリアスな空気がぶち壊しである。
彼は仕方がないと言いたげに笑って、私の上から退いた。
「昼食にしようか。ちゃんと食べてからのほうがいいよね」
私の返事を待たずに、彼は部屋を出ていってしまった。
胸がドキドキしている。ときめいているということを認めないわけにはいかないだろう。
「……ずるいよなあ」
その言葉は神様さんに向けたものでもあり、私自身に向けたものでもあった。
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