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神さま(?)拾いました【本編完結】
25.出来ることが限られているからこそ
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「細かいことを気にするのはよくないよ。大らかに生きよう!」
「いや、気にしたほうがいいと思いますよ」
さておき。
あまり思い出したくないことではあるが、私の前に泥棒猫が現れたらしいことと、渦中の通り魔に出会ってしまったらしいことを確認したところである。
あの記憶が真実だとしたら、泥棒猫はあそこで事件が起こることを知っていたことになる。手引きしたのが彼女だと考えることもできるが……どうしたものだろう。
「弓弦ちゃん、眉間に皺が寄ってるよ?」
寝転んだままの私の眉間に指先を当てて撫でてくる。私は膨れた。
「いいですか、神様さん。そもそもはあの日の夜に何があったのかを確認するためだったんですからね。得られた情報を検討しないと意味がないじゃないですか」
「僕はもう少し余韻に浸っていてもいいと思うんだけどな」
余韻……
私は快楽に引っ張られそうになる意識を現実に引き戻す。
「充分休みましたよ」
「嫌なことを積極的に思い出す必要はないよ。僕たちに出来ることは限られているんだし」
出来ることが限られているからこそ、やれることはやっておきたい性分なのだが。
私は家から出なくても協力できそうなことを考えて、手をポンっと合わせた。
「あ。犯人の人相を警察に伝えないと!」
「説明できるほど覚えているのかい? 君はしゃがんでいたから、相手の背丈もよくわからないでしょう?」
「それは……そうですけど」
確かに顔は見たがはっきり見えたわけではない。街灯が頭上にある都合で逆光なのだ。男であることは声からも想像できたが、それ以外の細部が答えられるかと言えばぼんやりとしている。
「でもですね、あの女に聞くといいって警察に伝えることはできるんじゃないですかね。犯行時に近くにいた人物には違いないわけで」
「連絡先、知っているのかい?」
「それは……」
ケイスケに頼めばいいと言おうとして口をつぐむ。電話に出たくなくてスマホの電源を落としているくらいなのに、あの泥棒猫の居場所を教えろと電話をすることが果たしてできるだろうか。
黙り込んでしまった私を、彼は小さく笑った。
「無理しない無理しない。君は君自身を癒すことだけ考えて」
優しく頭を撫でられるととろんとしてしまう。気怠さが眠気を呼ぶらしい。
「シャワー先に浴びる?」
「そうですね……」
このまま眠ってしまったら夜眠れなくなってしまう。私はゆっくり上半身を起こして伸びをした。
「お言葉に甘えて先にシャワーを浴びます」
シャワーを浴びたらスッキリするだろう。考えをまとめるのはそのあとだ。
そっとベッドから降りると彼の視線が気になった。
「……あの?」
じっと見られている。肌を舐めるような視線にゾクリとして彼を見ると、険しい表情からふんわりしたものに変わる。
「僕好みだなあって思って」
好みなのは嘘ではないのだろうけれど、そこがメインじゃないことは明白だ。
「何かついていたりします?」
「君にとって困るようなものは憑いてないよ。僕の加護を君にたっぷり注いだからね」
「加護……」
「婉曲表現じゃないよ?」
ニコニコしながら冗談めかして彼が言うので、私は追及を諦めた。
「一応、神様さんのことは信用しているので、それで納得しておきます。シャワー、行ってきますね」
「行ってらっしゃい」
彼が手をひらひらと振るので、私は浴室に向かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
考えないといけないことはたくさんある。
あの日の夜にまつわるあれやこれやはややこしいことになっている。一つ一つを切り分けて片付けていきたいところだ。
そのためにはケイスケとやり取りをする必要がありそうで頭が痛い。感情に任せて電話を切ってしまったことを悔やむものの、あの状況で冷静にやり取りができたなんてちっとも思えなくて、詰んだなあと頭を抱えた。
浴室の鏡に映る自分は見慣れた姿で、これといった違和感はない。朝に気づいた打撲痕はもうほとんど消えたようだった。
背中側も問題ない。肌がツヤツヤしてきたような気がするが、理由については深く考えないようにしよう。
体を洗っているとき、インターフォンが鳴ったことに気がついた。誰か訪ねてきたようだが、こうも泡だらけではすぐには出られそうにない。
「弓弦ちゃん?」
浴室のドアが叩かれた。細く開けると、部屋着に着替えた彼が立っている。
「インターフォン鳴りましたよね。誰だったんです?」
「梓くん」
「アニキですか」
まあ、プロジェクターを貸してくれることになっていたし、夜には訪ねるって話になっていたよね。
予定に狂いはないはずだが、彼がおろおろしているのが気になる。
「何か問題でも?」
「すごく怒ってる」
「ん?」
怒っている?
なにかやらかしただろうか。外出するなと言われたから引きこもっていたのに。
「弓弦ちゃん、どのくらいで準備できる?」
「五分以上かかりそうですが」
髪を洗い始めたところなのだ。綺麗にすすぐことを考えると、そんなに早くは終わらない。
「むむ……。梓くん、上ってきているみたいだから、僕が対応するってことでいいかい?」
「ええ、まあ、問題ないかと」
「わかった。場を繋いでおく」
神妙な顔をして頷くのが面白い。私は笑ってお願いをした。
「いや、気にしたほうがいいと思いますよ」
さておき。
あまり思い出したくないことではあるが、私の前に泥棒猫が現れたらしいことと、渦中の通り魔に出会ってしまったらしいことを確認したところである。
あの記憶が真実だとしたら、泥棒猫はあそこで事件が起こることを知っていたことになる。手引きしたのが彼女だと考えることもできるが……どうしたものだろう。
「弓弦ちゃん、眉間に皺が寄ってるよ?」
寝転んだままの私の眉間に指先を当てて撫でてくる。私は膨れた。
「いいですか、神様さん。そもそもはあの日の夜に何があったのかを確認するためだったんですからね。得られた情報を検討しないと意味がないじゃないですか」
「僕はもう少し余韻に浸っていてもいいと思うんだけどな」
余韻……
私は快楽に引っ張られそうになる意識を現実に引き戻す。
「充分休みましたよ」
「嫌なことを積極的に思い出す必要はないよ。僕たちに出来ることは限られているんだし」
出来ることが限られているからこそ、やれることはやっておきたい性分なのだが。
私は家から出なくても協力できそうなことを考えて、手をポンっと合わせた。
「あ。犯人の人相を警察に伝えないと!」
「説明できるほど覚えているのかい? 君はしゃがんでいたから、相手の背丈もよくわからないでしょう?」
「それは……そうですけど」
確かに顔は見たがはっきり見えたわけではない。街灯が頭上にある都合で逆光なのだ。男であることは声からも想像できたが、それ以外の細部が答えられるかと言えばぼんやりとしている。
「でもですね、あの女に聞くといいって警察に伝えることはできるんじゃないですかね。犯行時に近くにいた人物には違いないわけで」
「連絡先、知っているのかい?」
「それは……」
ケイスケに頼めばいいと言おうとして口をつぐむ。電話に出たくなくてスマホの電源を落としているくらいなのに、あの泥棒猫の居場所を教えろと電話をすることが果たしてできるだろうか。
黙り込んでしまった私を、彼は小さく笑った。
「無理しない無理しない。君は君自身を癒すことだけ考えて」
優しく頭を撫でられるととろんとしてしまう。気怠さが眠気を呼ぶらしい。
「シャワー先に浴びる?」
「そうですね……」
このまま眠ってしまったら夜眠れなくなってしまう。私はゆっくり上半身を起こして伸びをした。
「お言葉に甘えて先にシャワーを浴びます」
シャワーを浴びたらスッキリするだろう。考えをまとめるのはそのあとだ。
そっとベッドから降りると彼の視線が気になった。
「……あの?」
じっと見られている。肌を舐めるような視線にゾクリとして彼を見ると、険しい表情からふんわりしたものに変わる。
「僕好みだなあって思って」
好みなのは嘘ではないのだろうけれど、そこがメインじゃないことは明白だ。
「何かついていたりします?」
「君にとって困るようなものは憑いてないよ。僕の加護を君にたっぷり注いだからね」
「加護……」
「婉曲表現じゃないよ?」
ニコニコしながら冗談めかして彼が言うので、私は追及を諦めた。
「一応、神様さんのことは信用しているので、それで納得しておきます。シャワー、行ってきますね」
「行ってらっしゃい」
彼が手をひらひらと振るので、私は浴室に向かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
考えないといけないことはたくさんある。
あの日の夜にまつわるあれやこれやはややこしいことになっている。一つ一つを切り分けて片付けていきたいところだ。
そのためにはケイスケとやり取りをする必要がありそうで頭が痛い。感情に任せて電話を切ってしまったことを悔やむものの、あの状況で冷静にやり取りができたなんてちっとも思えなくて、詰んだなあと頭を抱えた。
浴室の鏡に映る自分は見慣れた姿で、これといった違和感はない。朝に気づいた打撲痕はもうほとんど消えたようだった。
背中側も問題ない。肌がツヤツヤしてきたような気がするが、理由については深く考えないようにしよう。
体を洗っているとき、インターフォンが鳴ったことに気がついた。誰か訪ねてきたようだが、こうも泡だらけではすぐには出られそうにない。
「弓弦ちゃん?」
浴室のドアが叩かれた。細く開けると、部屋着に着替えた彼が立っている。
「インターフォン鳴りましたよね。誰だったんです?」
「梓くん」
「アニキですか」
まあ、プロジェクターを貸してくれることになっていたし、夜には訪ねるって話になっていたよね。
予定に狂いはないはずだが、彼がおろおろしているのが気になる。
「何か問題でも?」
「すごく怒ってる」
「ん?」
怒っている?
なにかやらかしただろうか。外出するなと言われたから引きこもっていたのに。
「弓弦ちゃん、どのくらいで準備できる?」
「五分以上かかりそうですが」
髪を洗い始めたところなのだ。綺麗にすすぐことを考えると、そんなに早くは終わらない。
「むむ……。梓くん、上ってきているみたいだから、僕が対応するってことでいいかい?」
「ええ、まあ、問題ないかと」
「わかった。場を繋いでおく」
神妙な顔をして頷くのが面白い。私は笑ってお願いをした。
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