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アフターストーリー【不定期更新】
投票用紙と短冊と
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昨日の午後は急な雷雨でびっくりしたものだが、今日は今日で炎天下で勘弁してほしいところである。
鉄筋コンクリート構造のアパートは熱を溜め込みやすいようで、昨日から室温は下がりにくくなっている。
「外に出たくないけど、外に出ないと蒸されちゃいそうね……」
遮光カーテンを閉めて部屋に熱が入るのを防いでいるが、エアコンに頑張ってもらっても室温が三十度止まりで下がらない。参ったものだ。
「涼しい場所ねえ……」
彼は私に麦茶を差し出してふむと唸った。
「こんな暑い中、投票所に行かずに済んだのは僥倖ではあるんですけど」
「ね。先に済ませてよかったでしょ?」
「助言、ありがたかったわ」
急な仕事で投票できないかもしれないんだから、余裕のある時に期日前投票をしたほうがいいとアニキから伝言を預かってきたとのことで、ぶつくさ言いながらも昨日行ってきたのだった。帰りにかなり激しい雷雨に巻き込まれて面倒だったけれど、この夏はずっとそんな塩梅なのでもう文句は出まい。
「――今年の夏はこういう感じなのかねえ」
「どうなるかはまだわからないさ」
「もうちょっと、三十度以下の日が増えてもいいと思うのよ。仕事ばかりであんまり外に出ない身だとはいえ、エアコンがしんどい音を立てているのを聞くとちょっと怖い」
「おや、ずいぶんと古い物を使っているんだね」
「新調する余裕がないんだって」
古いビルに職場があるからか、どうも設備が軒並み古い。業務用エアコンを新調するくらいなら、引っ越しをするのがいいのではないかと物件を探していると聞いた。私が入社してから会社の規模も変化したわけで、社屋が変わるのも道理ではあるのだろう。
「エアコンが止まったら、パソコンも動かないし。早めに決まるといいんだけどね」
「じゃあ、会社のお引っ越しが決まるまでは、僕たちも動かないほうがいいのかな」
「ここの引っ越し、先延ばしにしたものね……あ、ひょっとして会社の移転が決まりそうだってのを察知してた?」
「弓弦ちゃんの会社の移転がどうということは別に察していなかったけど、急がないほうが良さそうというのは、ね」
「そっか」
よく冷えた麦茶を飲む。彼がこまめにやかんで作ってくれる麦茶は市販品よりも濃いめで美味しい。
「投票用紙に名前書くのもいいけど、せっかく七夕だし、短冊にお願いも書きたいよね」
「うん? 叶えたいことがあるなら僕に言えばいいのに」
もっともらしく言われて、私は目を瞬かせた。
「ありゃ、僕に言えないことなのかい?」
可愛らしく首を傾げられてしまった。
いや、確かに神様なのだし、その神通力の影響範囲がいかほどなのかも目にしているから知ってはいるけど。
「……頼んだら叶いそうだからやめておきます」
「遠慮しなくていいのに」
彼は残念そうだ。
自分が生まれた頃の気候にしてほしいと願ったら実現してしまいそうだけども、その事実を背負えるほど私は強くない。私は普通の人間なのだ。
「まあ、なんでも僕にお願いしておくれよ。できる限り叶えてあげるから」
「じゃあ、今夜の晩酌にはビールに合うおつまみをつけて欲しいです」
無難なことを依頼しておこう。大きなことを頼むと対価が怖いし、なにも頼まないでいると彼は拗ねてしまう。ビールにおつまみくらいがちょうどいい。
私がにこっと笑って告げると、彼はうんうんと頷いた。
「ふふ。任せて」
「……それにしても暑いな」
晩酌と言わず、もうビールタイムでも許される気がする。
「お風呂に入るかい?」
「……意味深な視線をおくらないでほしいんですが」
「僕だって暑いからね」
暑そうには見えないが、我慢しているということだろう。彼がティーシャツを引っ張ってパタパタとあおぐと、引き締まった腹が見えた。綺麗に割れた腹筋はセクシーだと思う。
「…………」
「ふふ、見惚れてる?」
「卑怯です」
「弓弦ちゃんもやっていいよ?」
「そういう問題じゃないと思いますが」
麦茶を一気飲み。ふぅとひと息はいて立ち上がる。
「わかりました。一緒にシャワーしましょう」
「ふふ。誘ってくれて嬉しいよ」
「汗を流すだけですからね!」
「たくさん汗をかいてから、しっかり流せばいいと思うよ」
脱衣所に向かう私のあとを、彼は上機嫌な様子でついてくるのだった。
《終わり》
鉄筋コンクリート構造のアパートは熱を溜め込みやすいようで、昨日から室温は下がりにくくなっている。
「外に出たくないけど、外に出ないと蒸されちゃいそうね……」
遮光カーテンを閉めて部屋に熱が入るのを防いでいるが、エアコンに頑張ってもらっても室温が三十度止まりで下がらない。参ったものだ。
「涼しい場所ねえ……」
彼は私に麦茶を差し出してふむと唸った。
「こんな暑い中、投票所に行かずに済んだのは僥倖ではあるんですけど」
「ね。先に済ませてよかったでしょ?」
「助言、ありがたかったわ」
急な仕事で投票できないかもしれないんだから、余裕のある時に期日前投票をしたほうがいいとアニキから伝言を預かってきたとのことで、ぶつくさ言いながらも昨日行ってきたのだった。帰りにかなり激しい雷雨に巻き込まれて面倒だったけれど、この夏はずっとそんな塩梅なのでもう文句は出まい。
「――今年の夏はこういう感じなのかねえ」
「どうなるかはまだわからないさ」
「もうちょっと、三十度以下の日が増えてもいいと思うのよ。仕事ばかりであんまり外に出ない身だとはいえ、エアコンがしんどい音を立てているのを聞くとちょっと怖い」
「おや、ずいぶんと古い物を使っているんだね」
「新調する余裕がないんだって」
古いビルに職場があるからか、どうも設備が軒並み古い。業務用エアコンを新調するくらいなら、引っ越しをするのがいいのではないかと物件を探していると聞いた。私が入社してから会社の規模も変化したわけで、社屋が変わるのも道理ではあるのだろう。
「エアコンが止まったら、パソコンも動かないし。早めに決まるといいんだけどね」
「じゃあ、会社のお引っ越しが決まるまでは、僕たちも動かないほうがいいのかな」
「ここの引っ越し、先延ばしにしたものね……あ、ひょっとして会社の移転が決まりそうだってのを察知してた?」
「弓弦ちゃんの会社の移転がどうということは別に察していなかったけど、急がないほうが良さそうというのは、ね」
「そっか」
よく冷えた麦茶を飲む。彼がこまめにやかんで作ってくれる麦茶は市販品よりも濃いめで美味しい。
「投票用紙に名前書くのもいいけど、せっかく七夕だし、短冊にお願いも書きたいよね」
「うん? 叶えたいことがあるなら僕に言えばいいのに」
もっともらしく言われて、私は目を瞬かせた。
「ありゃ、僕に言えないことなのかい?」
可愛らしく首を傾げられてしまった。
いや、確かに神様なのだし、その神通力の影響範囲がいかほどなのかも目にしているから知ってはいるけど。
「……頼んだら叶いそうだからやめておきます」
「遠慮しなくていいのに」
彼は残念そうだ。
自分が生まれた頃の気候にしてほしいと願ったら実現してしまいそうだけども、その事実を背負えるほど私は強くない。私は普通の人間なのだ。
「まあ、なんでも僕にお願いしておくれよ。できる限り叶えてあげるから」
「じゃあ、今夜の晩酌にはビールに合うおつまみをつけて欲しいです」
無難なことを依頼しておこう。大きなことを頼むと対価が怖いし、なにも頼まないでいると彼は拗ねてしまう。ビールにおつまみくらいがちょうどいい。
私がにこっと笑って告げると、彼はうんうんと頷いた。
「ふふ。任せて」
「……それにしても暑いな」
晩酌と言わず、もうビールタイムでも許される気がする。
「お風呂に入るかい?」
「……意味深な視線をおくらないでほしいんですが」
「僕だって暑いからね」
暑そうには見えないが、我慢しているということだろう。彼がティーシャツを引っ張ってパタパタとあおぐと、引き締まった腹が見えた。綺麗に割れた腹筋はセクシーだと思う。
「…………」
「ふふ、見惚れてる?」
「卑怯です」
「弓弦ちゃんもやっていいよ?」
「そういう問題じゃないと思いますが」
麦茶を一気飲み。ふぅとひと息はいて立ち上がる。
「わかりました。一緒にシャワーしましょう」
「ふふ。誘ってくれて嬉しいよ」
「汗を流すだけですからね!」
「たくさん汗をかいてから、しっかり流せばいいと思うよ」
脱衣所に向かう私のあとを、彼は上機嫌な様子でついてくるのだった。
《終わり》
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