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アフターストーリー【不定期更新】
カツサンドで験担ぎ
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どうしてこの時期に全国でテストなんぞするんだろう。
急な寒さが押し寄せて、天気も荒れやすいのは自明じゃないのか。私が関係するようになってから意識し出したとはいえ、その頃の天候といえば概ね寒いし曇天だし、なんなら雨もぱらつくわで、受験生のみなさんはさぞかし対策が大変だと思いを馳せるのだった。
「――珍しいですね、私よりも帰宅が遅いだなんて」
帰宅して化粧を落としている間に彼が家に帰ってきた。フルタイムで働く私よりパートタイムで働く彼のほうが帰宅時間は早いはずなのだが、今日は違った。
彼は帰るなりキッチンの方で手洗いうがいを済ませて調理に入る。
「明日は大きな試験があるんでしょう? 験担ぎにかつさんどを食べたいって注文が殺到して、帰りそびれたんだよねえ。揚げ物は胃の負担になるから、大事な試験の前に食べるのはお勧めしないんだけどな」
そう返すと、鍋の準備を始めた。鍋野菜セットと肉があればすぐに準備できる。買い置きしてあったらしく、冷蔵庫からそれらを取り出すと手際よく鍋に放り込んで火にかける。
「験担ぎねえ……」
「明日も予約が入っているんだって。僕は平日のみの契約だから、入れるようならって誘われたけど仕事は断ってきた」
「あー、毎年そうみたいね。揚げ物は見たくないってアニキから聞いてる」
「手がまわらないなら、やめればいいのに」
私は化粧水で肌を整えてダイニングに戻る。鍋がコトコトと鳴っている。
「あの店の揚げ物は肉を使っていないから、需要があるんですよ」
「ああ、なるほどなるほど」
「それはそれとして、私も揚げ物を大切な試験の前に食べるのをお勧めしないのは同意ですね」
「ふふ、意見が一致して嬉しいよ」
彼が冷蔵庫を覗く。
「今夜は鶏肉の鍋だけど、ほかになにか欲しいものはあるかい?」
「シメがおじやだったら嬉しいですねえ」
「うんうん。それならお安い御用さ。卵も小葱もあるねえ」
「あ。豆腐を鍋に追加できますか? お腹が空いているんで、ちょっと重めにしたいんです」
「ありゃ。絹ごししかない」
「崩れても問題ないです」
「了解」
蓋をあけると湯気が立つ。鍋の中に豆腐が入った。
「……卓上コンロ、買います?」
「うーん、そうだねえ。災害に備える意味でも、買ってもいいかもしれないねえ」
「災害、来る予定でもあるんですか?」
「この時期だと、ふと思い出すから――ああ、弓弦ちゃんは産まれる前だったね」
「地震の話、ですか?」
「そう。あのときは僕も無関係じゃなかったから、なんとなく思い出すんだよねえ」
私たちは今でこそ東京に住んでいるが、元々は西に住んでいた。なので、実家のあたりも、あのときの地震は大変だったと聞いている。
「へえ……」
「明日か明後日、買い物に行こうか。家にいたら応援に呼ばれてしまいそうだし」
「それはそうですね。善は急げってことで」
美味しそうな匂いが、部屋を満たす。いつまでもこうして平穏な生活が続くといいなあと私は願った。
《終わり》
急な寒さが押し寄せて、天気も荒れやすいのは自明じゃないのか。私が関係するようになってから意識し出したとはいえ、その頃の天候といえば概ね寒いし曇天だし、なんなら雨もぱらつくわで、受験生のみなさんはさぞかし対策が大変だと思いを馳せるのだった。
「――珍しいですね、私よりも帰宅が遅いだなんて」
帰宅して化粧を落としている間に彼が家に帰ってきた。フルタイムで働く私よりパートタイムで働く彼のほうが帰宅時間は早いはずなのだが、今日は違った。
彼は帰るなりキッチンの方で手洗いうがいを済ませて調理に入る。
「明日は大きな試験があるんでしょう? 験担ぎにかつさんどを食べたいって注文が殺到して、帰りそびれたんだよねえ。揚げ物は胃の負担になるから、大事な試験の前に食べるのはお勧めしないんだけどな」
そう返すと、鍋の準備を始めた。鍋野菜セットと肉があればすぐに準備できる。買い置きしてあったらしく、冷蔵庫からそれらを取り出すと手際よく鍋に放り込んで火にかける。
「験担ぎねえ……」
「明日も予約が入っているんだって。僕は平日のみの契約だから、入れるようならって誘われたけど仕事は断ってきた」
「あー、毎年そうみたいね。揚げ物は見たくないってアニキから聞いてる」
「手がまわらないなら、やめればいいのに」
私は化粧水で肌を整えてダイニングに戻る。鍋がコトコトと鳴っている。
「あの店の揚げ物は肉を使っていないから、需要があるんですよ」
「ああ、なるほどなるほど」
「それはそれとして、私も揚げ物を大切な試験の前に食べるのをお勧めしないのは同意ですね」
「ふふ、意見が一致して嬉しいよ」
彼が冷蔵庫を覗く。
「今夜は鶏肉の鍋だけど、ほかになにか欲しいものはあるかい?」
「シメがおじやだったら嬉しいですねえ」
「うんうん。それならお安い御用さ。卵も小葱もあるねえ」
「あ。豆腐を鍋に追加できますか? お腹が空いているんで、ちょっと重めにしたいんです」
「ありゃ。絹ごししかない」
「崩れても問題ないです」
「了解」
蓋をあけると湯気が立つ。鍋の中に豆腐が入った。
「……卓上コンロ、買います?」
「うーん、そうだねえ。災害に備える意味でも、買ってもいいかもしれないねえ」
「災害、来る予定でもあるんですか?」
「この時期だと、ふと思い出すから――ああ、弓弦ちゃんは産まれる前だったね」
「地震の話、ですか?」
「そう。あのときは僕も無関係じゃなかったから、なんとなく思い出すんだよねえ」
私たちは今でこそ東京に住んでいるが、元々は西に住んでいた。なので、実家のあたりも、あのときの地震は大変だったと聞いている。
「へえ……」
「明日か明後日、買い物に行こうか。家にいたら応援に呼ばれてしまいそうだし」
「それはそうですね。善は急げってことで」
美味しそうな匂いが、部屋を満たす。いつまでもこうして平穏な生活が続くといいなあと私は願った。
《終わり》
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