欲望の神さま拾いました【本編完結】

一花カナウ

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アフターストーリー【不定期更新】

寒い夜にはブリ大根に日本酒で

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 立春を過ぎれば強風の日が増える。南風が強ければ春一番が吹いたとニュースになるところだが、あいにく現状は北風に軍配があがるようだ。春が恋しい。

「さぁむぅいぃぃぃぃ」

 私は帰宅するなり身体を震わせながら叫んだ。ご近所迷惑だろうが、身体が冷えすぎて繊細な音量の調整などできないのだ。

「おかえり、弓弦ちゃん」

 エプロン姿の彼がキッチンからひょこっと顔を出した。

「ありゃ、顔が白くなってしまったねえ」

 私の顔を見るなり、彼は私の頬を両手で包み込んだ。あたたかい。

「これは冷え冷えだ。寒いと赤くなるものだと思っていたのだけど、これで少しは血行が良くなるかな?」
「駅からここまで寒風に吹かれてしまって、乾燥もひどいんですよ……」
「今夜のお風呂は入浴剤を入れてしっかり温めないとだね」

 鍋の蓋がカタンと鳴って、彼の手が離れていく。
 私の意識がコンロに向けられたのに気づいたのか、彼はちらりとそちらを見てから私に目を合わせてニコリと笑んだ。

「今夜は生姜をたっぷり添えたブリ大根だよ。日本酒もつけようか」
「わーい」
「だから、身支度を整えておいで。風邪をひくとよくないからね」

 確かに、去年は風邪が長引いた。今季は体調を大きく崩さずにここまできているが、油断は禁物である。
 私は頷く。

「そうですね。手洗いうがいをしっかりして、ささっとメイクも落としちゃいますね」
「終わる頃には食事もできているよ」
「了解」

 彼は私が帰る時間を知らせておくとちょうどいいタイミングで夕食を出してくれる。彼と同棲するまでは外で夕食を済ませてから帰宅していたので、こんな時間に家にいることはなかった。
 ほんと、神様の無駄遣いなんだけど。
 自称神様の怪異である彼はこうして私に世話を焼いてくれるが、それでいいのだろうか。
 しかも、料理のレパートリーは増えてるし腕も上がっているんだが。私の手料理が壊滅的なので、役には立っているけども、いろいろ後ろめたくなることもあるよね!

「弓弦ちゃん」

 化粧を落として部屋着に着替えている途中で声をかけられた。

「なんですか?」
「僕はこの生活、楽しいと思っているからね。君も楽しめばいいと思うよ」
「急にどうしたんですか?」
「後ろめたく感じる必要はないんだよって伝えたかっただけ」

 そう告げるとひらひらと手を振ってキッチンに戻る。心を読まれたらしい。
 心配させちゃったかな。私は私なりにエンジョイしているんだけど。

「あの、神様さん、今夜は――」

 たまには自分から誘ってみようかな。寒さを理由に。
 そんなことを考えながら、私はダイニングに向かうのだった。

《終わり》
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