西の大賢者様。愛弟子たちは自覚が足らないようです。

一花カナウ

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世界の終焉について

鎮魂祭

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 それはすっかり忘れていたことだった。

「――って、聞いています?」
「ああ……どうぞ、続けて」

 国からの使いの女性は、心配そうな顔をしたのちに業務用の顔をして書状を読み上げる。

 ――確かにあれから四年は経っているな……。代理人を立てて仕事に出ておくべきだった。

 今さら後悔しても遅い。
 これまで西の大賢者様がおこなってきた国の行事は、必ず誰かが引き継がねばならない。現在、西の大賢者の座は不在だからだ。その人が亡くなってからもう二年は経過していた。

「……だいたいのことはわかったが、現在の適任はルーンだ。話はこちらからも回しておくから、そっちに言っておいてくれ」
「そうおっしゃられましても、この仕事は王太子様からの御推薦です。それなりの理由をしたためていただきませんと、私どもで勝手なことはできないのです」
「わかった。ではすぐに辞退する旨を書簡にして渡す」

 伝言の仕事でやってきただけの彼女に交渉したところで無駄だとわかり、俺は手紙を書く準備を始める。さっさとお引き取り願おう。
 追い返す準備を始めるなり、ノックもなしに勢いよく扉が開かれた。

 ――魔法で簡単には開けられないようにしてあったんだが……

 こんな芸当で無粋な入場をしてくる人間には一人しか心当たりがない。

「ウォル、いい加減にしろ。君以外に適任者がいるとは思えない」
「へえ、王太子様直々にお出ましとは、たいそうお時間にゆとりがあるのでしょうね、羨ましいことで」

 わざとらしく俺が煽ると、こんな小汚い部屋には似合わない煌びやかな王太子様は雑多なものが溢れた俺の執務机にツカツカと歩み寄って蹴り飛ばした。

「そりゃあ君が優秀すぎて国が平和だからねえ。火遊びついでに手を出してくるような愚かな国も、協定を破ってまで侵略したい魔物もいないってもんだろ」
「別に俺は何もしていないよ。ルーンとリリィが仕事をしているにすぎない」

 仕事を評価してくれるのは魔道士として認められているようで嬉しいが、自分一人の活躍で済まされるような成果ではないこともよくわかっている。過大評価だ。

「そのルーンとリリィからの推薦でもある。諦めろ」
「あいつら……」

 眼鏡の青年と長髪を右側にまとめた美少女の姿が脳裏をよぎって、盛大にため息をついた。二人で結託して王太子様を送りつけてきたに違いない。
 実際、王太子様は激務のはずなのだ。なんせ、四年に一度の盛大な祭りの準備期間であり、現国王が病に伏しているためにその仕事を全て引き継いでいるはずだからだ。

「後継者の自覚を持っていることをお互いに示し、私と一緒にこの事業に取り組もうじゃないか」
「だから嫌なんじゃないか。後継者に相応しいと言えるか? こんな俺が、先代に並ぶなんて」
「今は言えなくても、それでいいじゃないかアウル。どうせ大賢者と呼ぶに相応しいかどうかは、残った人間が決めることなんだ。今、動くときだと言っている。私に従え」

 二人きりになっているのを確認した上で、通称から本名での呼び方に変えてくるのが憎らしい。
 アウルの名は、西の大賢者様から最初にもらったものだから、それだけに重く響く。

「……あなたに従う気は微塵もない」
「肩書きとしては国のお抱えではない以上、縛りつけることはできないのはわかっている」
「そう告げながらも、こうして乗り込んでくるのはいささか卑怯じゃないか?」
「私が乗り込んできた以上、周囲はさぞかし期待するだろうね。腹を決めたのだろうって」

 俺はもう一度大きく息を吐き出す。

「後悔しても知らんぞ」
「同じ舟で沈めばいいじゃないか」

 ――同じ舟で……。

 嫌なことを思い出す。きっとこれからも何度もそれを思い出すに違いない。

「沈みかけたら見捨てるからな」
「ははっ、それはある意味頼もしい」

 王太子様にも俺と同じような部分があるのを知っている。だから、そうは言っても助けることに全力を尽くすことだろう。




 この国で行われる四年に一度の祭りは鎮魂祭だ。この国で起きたたくさんの戦争や戦闘で失われた命と向き合う儀式である。
 だから、この国と民を守る王族と、この地に平和をもたらすための力の象徴である大賢者が中心に祭りを盛り上げるのだ。

 ――いつか俺は、そう思われる日が来るのだろうか……。

 祭りの喧騒が響く空を見上げながら俺は思った。

《終わり》
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