西の大賢者様。愛弟子たちは自覚が足らないようです。

一花カナウ

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世界の変容を認めるか/認められるか

直観であっても

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 直観というものは、その分野に精通していれば精通しているほど磨かれていく。理屈で語れなくとも、はっきりと【それである】とわかってしまうのだ。

 そして、この状況も。

 俺はわかりたくなかった。




 空から舞い落ちてくる白いものが、かつては人間であったことに気づいて、濃い色のローブにつく粉を払うのをやめた。ともに行動していたルーンとリリィも気づいていたのだろう、普段なら払っているだろう白い粉はそのままにしていた。

「被害はひろがっているんだね」

 通常のこの時季の《世界の果て》と呼ばれる地域は植物で生い茂っていると聞いている。緑を中心に花の明るい色が映える景色が広がっていそうなところなのに、一面は白い光を返す。あたりに生える太い魔養樹も表面が白く塗られたようになっていた。
 かつて人間だった真っ白な砂が生に執着してまとわりついているのだと考えると心が軋む。

「もっと早く手を打つべきだった」
「原因がわからなかったのですから、アウルが必要以上に気に病むことはないですよ」

 ルーンが慰めの言葉をくれるが、俺は舌打ちで返した。
 たくさんの命が奪われてしまった。意図せずに。
 きっとこれは不可逆な現象で、砂になってしまった命はもとの形には戻らない。

「でもさ、アウル。本当にこの子が原因なのかわからないでしょ? どうやって確かめるの?」

 抱きかかえていた俺そっくりの小さき者を、リリィは手放すまいとギュッと抱きしめた。
 世界の異変はこの小さき者が生まれたときから起こっている。
 無関係だ、偶然だと、幼くて愛らしい小さき者からこの現象を切り離したいと願ってきたが、確認をせずにはいられなかった。

 俺の直観が、目をそらすなと告げているから。

「少々手荒ではあるが、時間がないからこうする」

 軽く杖を振ると、リリィの腕の中から俺の腕の中に小さき者が移動した。

「アウル!」
「起きろ、チビ。いつまでガキのフリしてんだ? 何が目的だ?」

 腕の中の小さき者を揺すると、彼はゆっくりと目を開けた。瞳が金色に輝いている。これまでとは様子が違った。

「……こわいよ」
「そりゃあ脅しているからな。――あんただろ、 人間から魔力吸って灰に変えてるのは。俺やリリィだけから吸ってればいいもんを、無差別に吸い取って殺しているんだ」

 俺が恫喝すると、小さき者はあからさまに怯える表情を浮かべた。やりにくい。
 だが、これは俺がやるべきことだ。小さき者は俺に似ているから。
 もっとキツイ言い方をして言葉を引き出してやろうかと俺は口を開いたが、小さき者が顎を引いたので待つ。

「……そうだよ。でも、なんでおこられなきゃいけないの? ひとだって、ほかのいきものをたべるよ。たべもののどういなんてえていないよ? ボクはひととおなじだよ」
「ああ、そうだ」

 俺は否定しなかった。
 小さき者が悪意なく、ただ生きるために世界を改変してしまったのだろうことは察していた。
 遊びのために、人を殺すことを選んだわけではない。
 人を喰らうときに相手に苦痛を与えているわけではない。
 生きる場所が違っていれば、こんな悲劇は生み出されなかった。

「あんたが生きるためにそうしたことは否定しないし、否定できない。人間とは違うんだから」
「じゃあ、なんでおこってるの? ボクはあなたのたいせつなひとはきずつけないようにしたよ。とおいひとからえらんでたべた。あなたをきずつけたくなかったから。ボクはあなたにあいされたい」

 愛されたい。

 小さき者ははっきりとそう告げた。舌ったらずな喋り方しかしないと思っていた彼が、「愛されたい」だけ、やたらはっきりと告げた。

「悪いな。家族ごっこなんかしてしまったばかりに、歪んでしまったんだな」

 この世界のことわりに合わせて生まれてくるべきだったのだ。
 俺が拒んだせいで、この世界のルールから外れた形で顕現してしまった。

「ゆがんでないよ。これもかたちだよ」
「違う」

 俺はリリィを見やった。彼女は悲しそうな、ツラいと訴える表情でこちらを見ている。

「リリィ。もう終わりにしてくれ。幻覚程度で満足していればよかったのに、どうしてだ?」

 わかっていた。
 この子どもが、リリィの魔法でできた人形であることを。
 こんな副作用をもたらすものであると、気づけなかった未熟な自分を恨まずにいられようか。

「……終わらせないよ」

 リリィが薄く笑う。
 この世界の在り方は、果たして。

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