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世界の変容を認めるか/認められるか
自白するとき
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じゃあ、 どうしたらよかったの?
追いつめられて、さとされて、私は混乱する。
こんなつもりじゃなかった――そう告げたところで彼が許してくれるわけがない。こんなことをしないで、我慢していればよかったのだと告げてそれっきりになるだろう。
私はずっと我慢していた。我慢し続けてきた。これは【私の問題】なのだからと、解決のために奔走してきた。
少しでも解決できるようにと強くなった。一人でできることがとても増えた。お仕事もちゃんとやった。私にしかできない難易度の仕事が増えて、でもやりがいはあって、私なりにきちんと終わらせてきた。
でも、【私の問題】はちっとも解決できない。
たくさんのお仕事を通じてわかってきたことはあったけれど、直接的には役に立たなくて。
ずっとずっと我慢して、じんわりじんわり苛立ちが増してきて。
限界! ってなって、プツンと切れちゃった。あーあ。
世界のことわりを超越する力を持っているって厄介だよね?
砂塵が舞う。灰に覆われて真っ白に染まった魔養樹の森を風が駆け抜けた。かつてヒトであった灰が私たちを撫でて――いや、鋭く引っ掻いていく。
「――終わらせないよ?」
私はもう一度繰り返す。風に流される長い髪を押さえて、しっかりとアウルを睨んだ。
彼は拒絶の表情で唇を動かし、でも声はしなかった。
全部、アウルのせいだよ? あなた、私の番《つがい》なのに、ちゃんと子どもを作ろうってしないから。
世界が望んでいるのに、どうしてアウルは私を拒むの?
私は機能だから、その機能を果たすだけ。アウルにはそういう機能はないの?
じゃあ、私は、なんでここにいるの?
「返してよ。リリィの赤ちゃん。その子を連れて、《世界の果て》の奥にこもるから。人間に被害が出ないようにおとなしくしているから」
「断る」
「返せ! リリィにはその人形が必要なの! それがニセモノでも、リリィがリリィであるために必要なの!」
「断る!」
短い返答は木々たちを揺らすほど大きく響いた。
「いやだ! リリィは、リリィはっ‼︎」
取り乱した私を、アウルは冷たく見下ろす。
「なんで? どうして? アウルだって私と一緒のはずなのにっ! 無関係な人間を巻き込んだのはリリィが意図したことじゃないのに! 悪くないのにっ‼︎」
「だとしても、やっていいことと悪いことはある」
アウルの腕の中にいた小さき者の身体が光りだす。魔力の粒に置き換わって消えようとしているのだ。
「や、やだ! いやだ!」
小さき者は怯え、首を横に振る。泣き喚くようになったのを、アウルは慰めようともしなかった。
「元の場所に帰りな。次は正規の手順で喚んでやるから」
アウルの声は私の声のせいで聞こえなかったが、かすかに動いた唇からはそう読み取れた。
「気づいてやれなくて悪かった」
「うわぁぁぁん」
幼き声が森の中に吸い込まれ、やがて消えた。
風が頬を撫でる。打つように、のほうがしっくりくるくらいに痛みを覚える風だったけれど、加減を知らないだけ。触れて、撫でたいのだろうと思えてしまう。
「ひどいよ。ひどいよ、アウルっ‼︎」
何もできなかった。抵抗することだってできたはずなのに、動けなかった。
私の、大事な子ども。
同族に、奪われてしまった。
「返せ‼︎ あの子を返せ‼︎」
どうしていまさら。
私の身体がやっと動いて、アウルに殴りかかった。強化魔法を乗せて、瞬間移動をしたくらいの速度で間合いを詰めて、全てを込めた拳をアウルのいけ好かない顔に打ち込む。
「別に、被害者ヅラしようとは思ってねえよ」
手応えはあった。当たったと思ったのに、アウルは無傷で、私の拳は掴まれていた。
私は薄く笑う。
「傍観者を決め込もうとしていたんじゃなかったのか? それとも、犯人を捕まえて英雄気取りか? 返せ! あの子を返せ‼︎」
「俺は、この世界のことわりを超越してまで、自分を優先しようとは思えない。それに、もう、俺はこの国を守護する役目がある。世界のために働けと命じられれば、国を裏切る覚悟はあるが、今はそうじゃない」
「死にたがりの大賢者さまが、なにを偉そうに」
「俺は人間の定義からずれる存在だと認めてはいるが、だからって永遠に変わらない精神を持っているわけじゃない。成長もするし老化もする。俺は期待される俺であるだけだ」
「私は――」
「リリィ。少し、二人で過ごそうか」
「……アウル?」
殺気が消えたからだろうか。アウルは私の拳を手放した。そして改めて手を握る。
「やっておきたいことがある」
困ったように笑って、アウルはもう一人の同行者である眼鏡の青年、ルーンを見やった。
「ルーン。俺たち、しばらく失踪するから、あとのこと任せるわ。大賢者代理として、励んでほしい」
「え、ええ?」
「よろしくな!」
アウルが杖を振るうと、ルーンは転送されていった。
ついに、二人だけ。
「アウル……」
「リリィ。俺はお前と向き合わなきゃいけない。付き合ってほしい」
アウルがなにを考えているのかわからない。でも、このままではいけないとは思えたから、私は静かに顎を引いて承諾を示したのだった。
《終わり》
追いつめられて、さとされて、私は混乱する。
こんなつもりじゃなかった――そう告げたところで彼が許してくれるわけがない。こんなことをしないで、我慢していればよかったのだと告げてそれっきりになるだろう。
私はずっと我慢していた。我慢し続けてきた。これは【私の問題】なのだからと、解決のために奔走してきた。
少しでも解決できるようにと強くなった。一人でできることがとても増えた。お仕事もちゃんとやった。私にしかできない難易度の仕事が増えて、でもやりがいはあって、私なりにきちんと終わらせてきた。
でも、【私の問題】はちっとも解決できない。
たくさんのお仕事を通じてわかってきたことはあったけれど、直接的には役に立たなくて。
ずっとずっと我慢して、じんわりじんわり苛立ちが増してきて。
限界! ってなって、プツンと切れちゃった。あーあ。
世界のことわりを超越する力を持っているって厄介だよね?
砂塵が舞う。灰に覆われて真っ白に染まった魔養樹の森を風が駆け抜けた。かつてヒトであった灰が私たちを撫でて――いや、鋭く引っ掻いていく。
「――終わらせないよ?」
私はもう一度繰り返す。風に流される長い髪を押さえて、しっかりとアウルを睨んだ。
彼は拒絶の表情で唇を動かし、でも声はしなかった。
全部、アウルのせいだよ? あなた、私の番《つがい》なのに、ちゃんと子どもを作ろうってしないから。
世界が望んでいるのに、どうしてアウルは私を拒むの?
私は機能だから、その機能を果たすだけ。アウルにはそういう機能はないの?
じゃあ、私は、なんでここにいるの?
「返してよ。リリィの赤ちゃん。その子を連れて、《世界の果て》の奥にこもるから。人間に被害が出ないようにおとなしくしているから」
「断る」
「返せ! リリィにはその人形が必要なの! それがニセモノでも、リリィがリリィであるために必要なの!」
「断る!」
短い返答は木々たちを揺らすほど大きく響いた。
「いやだ! リリィは、リリィはっ‼︎」
取り乱した私を、アウルは冷たく見下ろす。
「なんで? どうして? アウルだって私と一緒のはずなのにっ! 無関係な人間を巻き込んだのはリリィが意図したことじゃないのに! 悪くないのにっ‼︎」
「だとしても、やっていいことと悪いことはある」
アウルの腕の中にいた小さき者の身体が光りだす。魔力の粒に置き換わって消えようとしているのだ。
「や、やだ! いやだ!」
小さき者は怯え、首を横に振る。泣き喚くようになったのを、アウルは慰めようともしなかった。
「元の場所に帰りな。次は正規の手順で喚んでやるから」
アウルの声は私の声のせいで聞こえなかったが、かすかに動いた唇からはそう読み取れた。
「気づいてやれなくて悪かった」
「うわぁぁぁん」
幼き声が森の中に吸い込まれ、やがて消えた。
風が頬を撫でる。打つように、のほうがしっくりくるくらいに痛みを覚える風だったけれど、加減を知らないだけ。触れて、撫でたいのだろうと思えてしまう。
「ひどいよ。ひどいよ、アウルっ‼︎」
何もできなかった。抵抗することだってできたはずなのに、動けなかった。
私の、大事な子ども。
同族に、奪われてしまった。
「返せ‼︎ あの子を返せ‼︎」
どうしていまさら。
私の身体がやっと動いて、アウルに殴りかかった。強化魔法を乗せて、瞬間移動をしたくらいの速度で間合いを詰めて、全てを込めた拳をアウルのいけ好かない顔に打ち込む。
「別に、被害者ヅラしようとは思ってねえよ」
手応えはあった。当たったと思ったのに、アウルは無傷で、私の拳は掴まれていた。
私は薄く笑う。
「傍観者を決め込もうとしていたんじゃなかったのか? それとも、犯人を捕まえて英雄気取りか? 返せ! あの子を返せ‼︎」
「俺は、この世界のことわりを超越してまで、自分を優先しようとは思えない。それに、もう、俺はこの国を守護する役目がある。世界のために働けと命じられれば、国を裏切る覚悟はあるが、今はそうじゃない」
「死にたがりの大賢者さまが、なにを偉そうに」
「俺は人間の定義からずれる存在だと認めてはいるが、だからって永遠に変わらない精神を持っているわけじゃない。成長もするし老化もする。俺は期待される俺であるだけだ」
「私は――」
「リリィ。少し、二人で過ごそうか」
「……アウル?」
殺気が消えたからだろうか。アウルは私の拳を手放した。そして改めて手を握る。
「やっておきたいことがある」
困ったように笑って、アウルはもう一人の同行者である眼鏡の青年、ルーンを見やった。
「ルーン。俺たち、しばらく失踪するから、あとのこと任せるわ。大賢者代理として、励んでほしい」
「え、ええ?」
「よろしくな!」
アウルが杖を振るうと、ルーンは転送されていった。
ついに、二人だけ。
「アウル……」
「リリィ。俺はお前と向き合わなきゃいけない。付き合ってほしい」
アウルがなにを考えているのかわからない。でも、このままではいけないとは思えたから、私は静かに顎を引いて承諾を示したのだった。
《終わり》
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