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さあ、婚約破棄から始めましょう!

主要人物たちの思惑 3

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「くくっ、ずいぶんと素直なんだね。君はやっぱり僕の知っているヴァランティーヌじゃないのか」
「あなた……私のことを知ってたの?」
「それはどっちの意味?」

 どっちの意味……ときましたか……。

 すぐに返答しないといけない質問に、私はつい考えすぎていた。
 エルベルは楽しそうに笑う。

「そっか。本当に別人なんだね。彼の直感は正しかった……というか、彼の愛は本物だったってことか」
「エルベル、あなた、何を言っているの? ってか、彼って誰のこと?」

 もうなりふり構っていられない。バレてしまったなら繕うだけ無駄だと判断して疑問をそのまま口にする。
 エルベルはまだ笑っている。
 私は苛立って鎖を強く引っ張った。

「答えなさい!」

 エルベルはそこでようやく笑うのをやめた。

 え、なに?

 急に気配が変わった。背筋がゾクゾクする。騎士が本気になったら、こういう気配を出せるのだろうか。
 私はしっかりと鎖を両手で握り直す。

「――ねえ、僕と取引しませんか?」
「しません。私にはやらなければならないことがありますので」
「やらなければならないことって何? 君は、このままだと死ぬんだよ?」

 語調も変わった。
 エルベルが動く。思わぬ方向に一瞬引っ張られただけで拘束が緩み、毛布がはらりと落ちた。
 烏の濡羽色の髪に色白の肌の美青年がそこにいた。眼鏡の奥の瞳が私を射抜く。

「ヴァランティーヌ、君には生きていてもらわないと困るんだ。このままでは僕たちは狂ってしまう。ゴーティエ王子だって、そろそろ保たない。ソフィエットがこの世界の真実に気づいてしまったら、崩壊が始まる。それは阻止しないといけない」
「ま、待って! どういう……こと? 生きていてもらわないと……って、あなた、私を殺しにきたんじゃないの?」

 私が問えば、彼は苛立った顔をして髪をくしゃっと掻きむしった。

「なんだ、【気付いた側】じゃないのか……」
「え?」

 何が何だかわからない。
 わかったことといえば、彼は私がヴァランティーヌなのかを確認するためにここを一人で訪れたということくらいか。

 ってか、ノーヒントすぎて、何も情報がないのに等しいんですけど。

 私がさらに情報を引き出そうと口を動かすと、エルベルが音を立てずに私に接近して口を塞いだ。

「ごめん、ちょっと黙って。ゴーティエ王子たちが戻る。僕がここにいると勘繰られるから、話を合わせて」

 耳を澄ませばゴーティエ王子とアロルドの声が聞こえている。こちらに近づいてきているのも明白だ。
 私は静かに頷く。
 エルベルは私を解放して距離をとった。瞬間移動じゃないかと思えるくらいに静かで、素早い。

 そんだけ動けるなら、わざと罠にかかったのね、この人……。

 やがて扉が叩かれた。
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