御姉様と喚ばないでっ‼︎

一花カナウ

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ユニコーンと神殿

神殿に駆けつけて

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 誰がこんな展開を予想していただろうか。いや、誰がこんな展開を望んだって言うんだ? まだ緑の空の世界にやってきてから一晩しか経っていないと言うのに、あれだこれだと降りかかる事件の数々。平凡な高校生の俺に何をして欲しいんだと文句の一つもつけたくなる。

 俺は馬車にゆられて神殿に向かっている最中だ。トキヤが馬を操作し、車内には俺、レキ、ミキ、修也の四人が顔を合わせていた。

 エリーが神殿の異変を知らせに部屋に駆け込んで来たときのことはよく覚えていない。菜摘がこの世界にやってきてしまったらしいことを知って動揺していた上に神殿の爆発で俺の頭の中がパニックになっていたからだ。おばば様とエリーが二言三言話し、トキヤがおばば様に何か声を掛けていたような気がする。そのあとすぐに家を出たのだ。

 あぁよく考えてみたら、あの爆発のおかげでトキヤが率先して神殿に向かうようになったのだな。爆発がなけりゃぐずぐずしていたに違いない。現在トキヤは最速で神殿まで馬を走らせている。車が不規則に、それも激しく揺れているがそんなのに構っている余裕はなかった。トキヤにしてみれば、大切な信仰対象の神殿なのだ。その神殿に何かあったとなれば居ても立ってもいられないだろう。菜摘の身に何かあったかも知れないと不安に思う俺の気持ちと同じようなものに違いない。




 そしてついに俺たちはユニコーンの神殿にやってきた。本来ならば神殿の真ん前に馬車を停めるなんてことはせず、もう少し離れた敷地の入口から歩くとのことだが今回は特別だ。なんせ個人的な緊急事態ではなく、町にとっての一大事でもあるからな。

 乱暴に馬を停めたトキヤがひらりと飛び降り、がくんと急停車した車内から俺たちは外に出る。ドレスは動きにくく、慌てていたので転けそうになったが、そこはレキがしっかりと受け止めてくれた(もちろん、ミキのエスコートもしていたけど)。

 そんな俺たちの目に飛び込んできた神殿は、もはや神殿の形をしていなかった。初めの爆発のあと、ここに着くまでにも何発か爆音が響いていた。小さな窓から見える煙も本数が増え、やがて一つの太いものにまとまっていたくらいだ。神殿が無事である保証は元からなかったのだが……。

「なんてひどいことを……」

 入口であったらしい柱が折れて横たわっている。中に続くらしい扉はその柱が邪魔で開けられそうにない。やや高い場所に建てられた神殿に続く階段を上ると、トキヤは柱に触れながら悄然とした様子で呟いた。怒りの気持ちも起きないくらいに落ち込んでしまっている。彼にとっての心の支えであっただろうに、こんな無惨な姿になっては当然か。

 かく言う俺は菜摘の姿を探して辺りをきょろきょろと見回していた。時折リダイアルするが、返事も、着信音も聞こえてこない。

「一体どこに……」

 思わず呟く。するとレキが俺の肩に手を置いた。

「さっき話していた相手が心配なのか?」

 俺は黙ったまま頷く。きっと不安な気持ち、落ち着かない気持ちが表に出ていたのだろう。

「アサヒナって叫んでいたが、親しい間柄だったのか?」

 再び頷いて答える。――ん、それはそうと。

「みなさんはミレイさんを捜さなくていいんですか? ユニコーンにさらわれたってことは、彼女、ここにいる可能性が高いんでしょう?」

「そう思ったんだけどな」

 俺の肩から手を離し、しばし神殿周辺を注視する。

「――俺の目には女の子の姿は映らないわけだ」

「いないってこと? ちょっと待て、女の子以外も目に入らないのか?」

 だだっ広い草原で眠っていた俺を発見したというレキの女の子センサーに引っ掛からないということは、少なくともここに女の子はいないということだろうか。

「ミキ、誰かいる気配はあるか?」

 トキヤのそばに立って神殿の様子を探っていたミキにレキは声を掛ける。

「誰かが動いているって感じはしないわ。――それにしてもかなり派手に吹き飛んだわね。中に人がいたら下敷きになっている上にただじゃ済まないでしょうに」

 ――ん? ミキのその台詞、なんか変じゃないか?

「ってことは、初めっからここが無人だったか、一回目の爆発に気付いて逃げ出したかってところか」

「でも、逃げるってどうやって? さらわれた女の子の数からすると、結構な人数がいたはずでしょう? 一気に逃げられるわけないし、町以外に向かって逃げるのは逃げるだけ無駄じゃない。ここは野犬も多い場所なんだもの、安全とはいえないわ」

 ミキの「野犬」の発言にトキヤの肩が震えるのが見えた。そっか、トキヤの恋人は野犬に殺されたんだっけ。――ってそうじゃない。俺が注目したいのは。

「あの、ミキさん? どうして神殿の中に人がいないって断言できるんです? そこからだって中の様子は分からないでしょう?」

 扉は閉まっているし、柱は倒れているしで中の様子が窺えるはずがない。神殿の天井は崩れて半壊状態になっていたけれど、この位置からは全く見えないはずだ。

「どっちにしても助からないだろうってだけですよ」

 何でもないようにミキは答える。なんか様子がおかしいように思えるのだが。この引っ掛かりが、ミキのやけになっている状態に対してならいいのだけど。

「まぁ、それはそうでしょうけども……」

 俺はトキヤたちがいる扉のそばの柱に続く階段を上る。真っ白な石でできているそれの上には細かな砂塵が降り積もっていた。神殿の欠片だろう。そしてまだ真っ白な欠片が舞っている。

 俺は全身が白抜き表示になっているトキヤの肩を叩いて意識を回復させる。

「トキヤさん、気をしっかり持ってください」

「あぁ、わかっている……だが……」

 トキヤは小さく頭を振り、意識を集中させようとしているようだがうまくいかないようだった。顔面蒼白状態なのもそろそろ見慣れてきたかも。

「あれ? そういえばあの少年はどこに行ったんだ?」

 階段を上ってきたレキが不意に問う。俺も言われて辺りを見回す。

「え?」

 修也の姿がなかった。まさかこんな妙なタイミングで元の世界に帰ったりはしないと思うのだが。

「おかしいわね。車を降りるまでは一緒にいたはずなのに」

 言って視線を巡らすミキの視線が途中で止まり、顔を青くさせた。その様子に気付いて、俺は彼女の視線の先に目をやる。

「!」

「おい、待てよ、これ」

 レキも気付いたらしい。さすがのトキヤも俺たちの異常を知らせる気配を読み取ったのだろう。みんな同じ方向を注目し、固まった。
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