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青玉の求婚は突然に

★8★ 7月27日土曜日、夕方

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 そのやり取りまでを遠くから見守ってきた抜折羅ばさら遊輝ゆうき。結局彼らが合流してから今の今までずっと尾行してきたことになる。

「家に入っちゃったし、どうする? 白浪しらなみ先輩」

 これまで見ていたところ、とりわけ触れることなどなく、昼食、買い物をこなしているようだった。それは兄妹のように仲むつましく感じられるほどだ。

 ――こうにとって星章せいしょう蒼衣あおいは兄貴みたいなもんなのかな。俺にとっての赤縞あかしま沙織さおりみたいに。

 抜折羅は本当の姉のように接してきた沙織のことをふと思い出す。そう言えばこの任務についてから連絡していなかったな――などとふけっていたところに遊輝の唸り声が割って入った。

「なんかおかしい」

 腕組みをして、屋敷を見つめている。

「こ洒落たレストランで優雅にランチして、宝石店を物色。靴と鞄も見ていたな。しまいにはドレスの試着と購入だ。舞踏会にでも出るのか? どこの貴族だ、ここは日本だぞ!! ブルジョワがっ!」

 月に数百万を稼ぐ白浪家の人間がよく言うな、と思いつつ抜折羅は返すことにする。

「まぁ、そうだな。パーティーに行く準備には見える。各企業のトップが集うような会に出たとき、義母さんがそんな感じだったし」

 さらりと告げられた抜折羅の過去を示唆しさする台詞に、遊輝は片方の眉を器用に上げた。

「――君、何者?」
「想像にお任せしますよ、先輩」

 自分語りは好きじゃない。過去の不幸を同情されることも、現在の優遇された立場をうらやまれることも間に合っている。
 抜折羅はふっと笑うと続ける。

「で、ここで張り込むつもりですか? 俺、そこまで暇じゃないんですが」
「ふぅん。――僕一人なら中に入るのは容易いんだけど、予告状も出しちゃったことだし、様子見かな。抜折羅くんは帰ってもいいよ。お疲れさん」
「では、俺はこれで」

 ねぎらいの言葉は社交辞令的なニュアンスであれ、言われ慣れない抜折羅には少しだけ嬉しかった。
 遊輝と別れると抜折羅は辺りを警戒する。スマートフォンを取り出して、まずは電話をかけたのだった。
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