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青玉の求婚は突然に
*13* 7月27日土曜日、20時過ぎ
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薄暗い食堂では、遊輝と蒼衣が互いを見つめるように対峙していた。紅は大きく息を吸い込み、怒鳴った。
「二人とも止めなさい」
紅の凛とした声が食堂に響く。部屋を仕切っていた間仕切りは壊れて床に転がり、テーブルや椅子も無残な姿で部屋の端に落ちている。何をどうしたらこんな状況になるというのだろうか。紅には想像ができない。
「大事な決闘に出てこないで欲しかったのですが」
憎々しげに紅たちを見やる蒼衣。気が立っているのか、敵意どころか殺意すらも感じずにはいられない。
「そうそう。外野が勝負に口を出さないでほしいな」
顔全体を覆う仮面に仕込んだボイスチェンジャーによる応答。怪盗オパールも口調におどけたようすはなく、本気でやり合っていることが窺える。
「そう。じゃあ仕方がないわね。タリスマントーカーとしての力を失うことになるけど良いかしら?」
紅は右手首に着けていたフレイムブラッドを左手に構える。力を使うには右肩に石を触れさせればいい。
――また気絶することになるだろうけど、知ったことかっ!
紅はヤケになっていた。
「ちっ……」
舌打ちをすると、怪盗オパールは銀髪の長い尾をなびかせて、別館に繋がる扉からふわりと立ち去る。
それを見て、蒼衣は構えていた手を下ろした。
「――気を鎮める力を持つサファイアのタリスマントーカーにしては、だいぶ好戦的で欲望に対しても素直でいらっしゃるようですね。学校での評判とも違うようで、いささか幻滅しましたよ、星章先輩」
紅が声を掛ける前に抜折羅が切り出す。
「こちらが私の本性なんですよ。抑えるのに〝紺青の王〟が必要というだけで」
「なるほどね」
「で、何者なんです?」
「直接会話するのは初めてでしたね」
抜折羅はジーンズのポケットから手帳を取り出し、そこにはまっていた社員証を蒼衣に向ける。
「タリスマンオーダー社の者です。星章家の嫡子であるあなたなら、そう名乗るだけで察していただけるかと思ったのですが」
「貴方が、そうか……」
――タリスマンオーダー社?
二人の間では会話が成立するらしい。だが、紅は初めて聞く単語に戸惑う。
「協力していただけますよね?」
「星章家の方針ですからね。できることはしますよ」
「助かります。出水千晶氏が亡くなっていたとは知らず、困っていたんですよ」
「え? 出水千晶って……あたしのお祖母ちゃん?」
火群千晶――旧姓、出水千晶。聞き覚えのある名前に、紅は思わず食いついた。
「そうですよ」
頷いたのは蒼衣だった。
「貴女は千晶さんから後継者として指名された存在なんです。ですが、何も伝えられないまま彼女は亡くなってしまいました。紅が我々のことを知らないのは仕方がないことです」
「えっと……何の話?」
補足をされたような気がするのだが、頭に入ってこない。
「ひょっとして、タリスマンオーダー社についての話も聞いていないのですか?」
きょとんとした顔をしていたのだろう。蒼衣が何かに気付いたらしく問い掛けてきた。
「魔性石を管理している会社か何かかしら?」
「……そこも説明していなかったのですか?」
蒼衣に冷たい視線を向けられて、抜折羅が小さく咳き込む。
「ここまで巻き込むつもりがなかったんだ。そもそも、俺が日本に来たのはホープの回収だ。千晶氏の後継者を捜すことじゃない」
どうやら抜折羅にも言い分があるらしい。彼がきっぱり告げると、蒼衣はふんと小さく鼻を鳴らした。
「タリスマンオーダー社とは、千晶さんがハリー・ウィストン氏に助言して作らせた魔性石を管理、あるいは監視するための機関です。表向きは宝石類の鑑定を行っている会社ですがね」
なるほど、と紅は思う。抜折羅が宝石の鑑定ができるのは、表向きの事情もあるのだろうと想像する。
「そして、我が星章家は千晶さんの協力者なんですよ。彼女の手が回らないときに、手助けしてきました。タリスマンオーダー社の依頼があれば、手伝うようにも言われております。そのために〝紺青の王〟を譲ってもらったので」
タリスマンオーダー社と星章家、それぞれの事情はなんとなく紅は理解できた。そこに自身の祖母が絡んでいる。確認しておきたいことがあった。
「ちょっと待って。……千晶お祖母ちゃんはタリスマントーカーだったってこと?」
「おそらく二十世紀最大の力を持っていたタリスマントーカーだろうな。一番使いこなしていたのは確かだろう」
抜折羅が紅の問いに答える。
「そんなに強力だったの? 水晶を使った占い師として評判が良かったのは知っていたんだけど」
「水晶のタリスマントーカーでしたからね。〝未来を見る〟能力を使っていたのでしょう。彼女の占いの館には、様々な著名人が通っていたはずですし。私の祖父も、元々は千晶さんの顧客だったんですよ」
補足してくれたのは蒼衣だった。
「そんなに長くから付き合いがあったのね……」
祖父母の代から親交があったと聞いていた紅だったが、祖母が中心になっていたとは考えていなかった。蒼衣の祖父も紅の祖父も宝石蒐集の趣味があるので、てっきりそっちの繋がりだと思い込んでいたのだ。
「今はそれだけ話が聞ければ充分だわ」
紅は改めて蒼衣に目を向けた。
「あたし、家に帰りたいからこの手錠を外してくれないかしら? このままだと何を勘ぐられるかわからないわ」
紅の要求に、一瞬むっとした表情を見せた蒼衣だったが、おとなしく錠を外した。
「ありがとう」
礼を言うと、食堂の端に落ちていたポシェットを拾いに走る。中身も含めて無事だったようだ。
「抜折羅、家まで送ってくれない? 嫌なら一人でバスに乗るけど。駅前までは一緒よね?」
一人で帰るには少し怖い。途中まで帰り道が重なる抜折羅と一緒であれば、その気持ちも紛れるだろう。
「車を回してある。火群の家まで送るよ」
「それは気が利くわね。助かるわ」
先に部屋を出る紅。後ろで抜折羅が「またお会いしましょう」と告げる声が聞こえた。
「二人とも止めなさい」
紅の凛とした声が食堂に響く。部屋を仕切っていた間仕切りは壊れて床に転がり、テーブルや椅子も無残な姿で部屋の端に落ちている。何をどうしたらこんな状況になるというのだろうか。紅には想像ができない。
「大事な決闘に出てこないで欲しかったのですが」
憎々しげに紅たちを見やる蒼衣。気が立っているのか、敵意どころか殺意すらも感じずにはいられない。
「そうそう。外野が勝負に口を出さないでほしいな」
顔全体を覆う仮面に仕込んだボイスチェンジャーによる応答。怪盗オパールも口調におどけたようすはなく、本気でやり合っていることが窺える。
「そう。じゃあ仕方がないわね。タリスマントーカーとしての力を失うことになるけど良いかしら?」
紅は右手首に着けていたフレイムブラッドを左手に構える。力を使うには右肩に石を触れさせればいい。
――また気絶することになるだろうけど、知ったことかっ!
紅はヤケになっていた。
「ちっ……」
舌打ちをすると、怪盗オパールは銀髪の長い尾をなびかせて、別館に繋がる扉からふわりと立ち去る。
それを見て、蒼衣は構えていた手を下ろした。
「――気を鎮める力を持つサファイアのタリスマントーカーにしては、だいぶ好戦的で欲望に対しても素直でいらっしゃるようですね。学校での評判とも違うようで、いささか幻滅しましたよ、星章先輩」
紅が声を掛ける前に抜折羅が切り出す。
「こちらが私の本性なんですよ。抑えるのに〝紺青の王〟が必要というだけで」
「なるほどね」
「で、何者なんです?」
「直接会話するのは初めてでしたね」
抜折羅はジーンズのポケットから手帳を取り出し、そこにはまっていた社員証を蒼衣に向ける。
「タリスマンオーダー社の者です。星章家の嫡子であるあなたなら、そう名乗るだけで察していただけるかと思ったのですが」
「貴方が、そうか……」
――タリスマンオーダー社?
二人の間では会話が成立するらしい。だが、紅は初めて聞く単語に戸惑う。
「協力していただけますよね?」
「星章家の方針ですからね。できることはしますよ」
「助かります。出水千晶氏が亡くなっていたとは知らず、困っていたんですよ」
「え? 出水千晶って……あたしのお祖母ちゃん?」
火群千晶――旧姓、出水千晶。聞き覚えのある名前に、紅は思わず食いついた。
「そうですよ」
頷いたのは蒼衣だった。
「貴女は千晶さんから後継者として指名された存在なんです。ですが、何も伝えられないまま彼女は亡くなってしまいました。紅が我々のことを知らないのは仕方がないことです」
「えっと……何の話?」
補足をされたような気がするのだが、頭に入ってこない。
「ひょっとして、タリスマンオーダー社についての話も聞いていないのですか?」
きょとんとした顔をしていたのだろう。蒼衣が何かに気付いたらしく問い掛けてきた。
「魔性石を管理している会社か何かかしら?」
「……そこも説明していなかったのですか?」
蒼衣に冷たい視線を向けられて、抜折羅が小さく咳き込む。
「ここまで巻き込むつもりがなかったんだ。そもそも、俺が日本に来たのはホープの回収だ。千晶氏の後継者を捜すことじゃない」
どうやら抜折羅にも言い分があるらしい。彼がきっぱり告げると、蒼衣はふんと小さく鼻を鳴らした。
「タリスマンオーダー社とは、千晶さんがハリー・ウィストン氏に助言して作らせた魔性石を管理、あるいは監視するための機関です。表向きは宝石類の鑑定を行っている会社ですがね」
なるほど、と紅は思う。抜折羅が宝石の鑑定ができるのは、表向きの事情もあるのだろうと想像する。
「そして、我が星章家は千晶さんの協力者なんですよ。彼女の手が回らないときに、手助けしてきました。タリスマンオーダー社の依頼があれば、手伝うようにも言われております。そのために〝紺青の王〟を譲ってもらったので」
タリスマンオーダー社と星章家、それぞれの事情はなんとなく紅は理解できた。そこに自身の祖母が絡んでいる。確認しておきたいことがあった。
「ちょっと待って。……千晶お祖母ちゃんはタリスマントーカーだったってこと?」
「おそらく二十世紀最大の力を持っていたタリスマントーカーだろうな。一番使いこなしていたのは確かだろう」
抜折羅が紅の問いに答える。
「そんなに強力だったの? 水晶を使った占い師として評判が良かったのは知っていたんだけど」
「水晶のタリスマントーカーでしたからね。〝未来を見る〟能力を使っていたのでしょう。彼女の占いの館には、様々な著名人が通っていたはずですし。私の祖父も、元々は千晶さんの顧客だったんですよ」
補足してくれたのは蒼衣だった。
「そんなに長くから付き合いがあったのね……」
祖父母の代から親交があったと聞いていた紅だったが、祖母が中心になっていたとは考えていなかった。蒼衣の祖父も紅の祖父も宝石蒐集の趣味があるので、てっきりそっちの繋がりだと思い込んでいたのだ。
「今はそれだけ話が聞ければ充分だわ」
紅は改めて蒼衣に目を向けた。
「あたし、家に帰りたいからこの手錠を外してくれないかしら? このままだと何を勘ぐられるかわからないわ」
紅の要求に、一瞬むっとした表情を見せた蒼衣だったが、おとなしく錠を外した。
「ありがとう」
礼を言うと、食堂の端に落ちていたポシェットを拾いに走る。中身も含めて無事だったようだ。
「抜折羅、家まで送ってくれない? 嫌なら一人でバスに乗るけど。駅前までは一緒よね?」
一人で帰るには少し怖い。途中まで帰り道が重なる抜折羅と一緒であれば、その気持ちも紛れるだろう。
「車を回してある。火群の家まで送るよ」
「それは気が利くわね。助かるわ」
先に部屋を出る紅。後ろで抜折羅が「またお会いしましょう」と告げる声が聞こえた。
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