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ヒトの心を捉えし魔物は
★1★ 9月7日土曜日、昼
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野猿《やえん》街道を目的の場所に向け、タリスマンオーダー社のステーションワゴンで移動中。後部座席にいる遊輝《ゆうき》がスマートフォンで学内ネットワークを検索している。
「ホープの所有者は宝杖《ほうじょう》学院高等部一年B組に所属している石神《いしがみ》ルイという少女だね。父親が国会議員だし、僕が接触したのはおそらく彼女だと思うよ」
「待て。一年B組の生徒なら、どうして俺のホープに引っ掛からなかった? ホープ限定なら、能力使用状態じゃなくとも一〇メートルまで近付けば感知できるのに」
助手席に座っていた抜折羅《ばさら》は後部座席側に身体を向けて問う。抜折羅も紅《こう》も、一年A組に所属している。隣のクラスであれば感知できる範囲のはずだ。
「それは僕にも同じことが言えるはずだよ。なのに見つけられなかった理由――それは、彼女が学校に来ていなかったからだ」
「登校拒否……確かに隣のクラスにそういう子がいるって話は聞いたことがあるわ。入学してまもなく、学校に来なくなったって」
紅が遊輝の台詞に補足する。
「入学してまもなくって……何がきっかけなんだ?」
「ちょっと待って。過去ログを漁るから。――あぁ、どうも母親を亡くしたからみたいだね。入学式のあと、割とすぐの頃のようだ」
サイトを頻繁に利用しているのだろう。遊輝の検索はとても早い。
「母親を、ね……」
抜折羅は遊輝の台詞を繰り返す。自身の両親を失った原因にホープが関係していると思っている抜折羅にとって、その情報は嬉しくはない。ルイの母親も、おそらくはホープの呪いの犠牲者なのだろう。
――すべてのホープを集めて、早いところこの不幸の連鎖を止めないと……。
決意を新たに固める抜折羅に、スマートフォンをさらにせわしく弄《いじ》る遊輝が続ける。
「彼女の家庭は少し複雑っぽい。彼女は母親側の連れ子で、現在の父親、石神《いしがみ》清貴《きよたか》とは血の繋がりがないらしい」
そこまで告げたところで何かに気付いたらしい。遊輝は再びスマートフォンの画面に集中する。
「なるほど、そういうことか。――ホープは彼女の母親の物だったみたいだ。清貴はホープを手に入れるために結婚したんだと噂されている。清貴もその父、ルイにとっては祖父に当たるけど、その人物も宝石蒐集が趣味だからね。コレクションに加えるためにそうしたんだろう。青いダイヤモンドなんてなかなか手に入る代物じゃないし」
「そうなると、どうして娘のルイがホープを所有しているんだ? コレクションに加えることが目的なら、娘の手に渡る可能性は低いと思うんだが」
抜折羅の問いに、紅が割り込んだ。
「母親の形見を手元に置きたい気持ちはあると思うんだけど、どう? あたしだって、千晶《ちあき》お祖母ちゃんの形見である〝フレイムブラッド〟を持ち歩いているわけだし」
右手首にブレスレットとして身に付けているスタールビーの原石を指しながら意見する紅に、遊輝は頷いて同意を示す。
「そうだね。僕も紅ちゃんと同意見だ。だとすると、これは仮定だけど、ルイはホープの指輪を継父から奪い返したんじゃないかな。そしてタリスマントーカーの力に覚醒してしまったってところだろうね」
「ふむ……」
「ルイのホープが何を〝使命〟として与えているのかはわからないけど、激しく歪んだ憎悪を持っているのは直接対決をした分だけよくわかる。抜折羅くんがホープダイヤモンドだけでなく水晶も扱えるみたいに、彼女も他の魔性石を使えるようだから厄介だよ。僕にも魔性石をオマケしてくれたし、利用された連中も何かしらの魔性石を身に付けていたわけだから、ほぼ間違いない。どんな手を使ってくるのかはわからないけど、記憶に留めておいたほうがいい」
遊輝が注意を促すように告げると、紅の表情が曇った。
「その上で星章《せいしょう》先輩が向こうについたら、本当にまずいわよね……。思いとどまってくれればいいんだけど」
「そうだねぇ。閣下も必死みたいだから、確率は五分五分に思えるよ」
あまり期待しない方がいいと言いたげに、遊輝が肩を竦める。
「それは〝紺青《こんじょう》の王〟の使用条件という意味で?」
遊輝の反応を見て、紅が不思議そうに問う。
「まぁ、〝使命〟という点でもそうなんだろうけど、ずっと恋い焦がれていた相手がどこかに行きそうだから、って部分が大きいんじゃない?」
からかい半分といった様子で、遊輝はしれっと言う。
「あたしはどこにも行きませんよ?」
「どうかな? 君自身に行く気がなくても、僕が君を攫《さら》うかも知れないし、抜折羅くんが君を連れ去るかも知れないよ?」
「白浪《しらなみ》先輩はもう少しあたしの主張を考慮してくださいっ!」
遊輝が伸ばしてきた手を叩き落として、紅はじっと窺《うかが》うように見つめる。
「――ってか、どこまで星章先輩の事情を知っているんですか?」
探るような紅の視線を受けて、遊輝は視線を僅《わず》かに外す。
なかなか喋ろうとしない遊輝に、紅は続けて訊ねる。
「地学室であたしを助けてくれたとき、白浪先輩は言っていましたよね、〝紺青の王〟についてのことを。何かご存知なんじゃないですか?」
問い質《ただ》す紅をちらりと見やり、遊輝は頬を軽く掻く。そのあとで、観念したように小さく息を吐き出した。
「そうだねぇ。〝使命〟については心当たりがあるよ。事情は恋敵という意味合いでなんとなくわかってるつもり。閣下とは何気に中学時代から付き合いがあるから、性格的な面も想像がつくんだよね。紅ちゃんよりわかる部分も多いかも」
「で、〝紺青の王〟の〝使命〟って、一体何なのですか?」
「それを僕が言うのは反則じゃないかな。誰かの秘密を暴露するのは僕のポリシーからも外れるから、断りたいところだね」
「むっ……」
遊輝にそう言われてしまうと、紅でも困るようだ。次の台詞が出てこないのか、彼女は黙ってしまった。
「……一つ言えるとすれば」
しばらく沈黙をしていたが、遊輝が口を開いた。
「彼が〝石憑き〟になる覚悟を決めたのは、紅ちゃんのためを思ってのことだよ、きっと。報われないことかも知れないと思いながらも、運命から逃げたくなかったんじゃないかな。紅ちゃんは、ちゃんと星章先輩から話を聞いた方がいいと思う」
それは本音なのだろう。茶化す様子なく、遊輝は告げて紅の頭を撫でた。
「実のところ、星章閣下とはあまり敵対関係になりたくないんだけどね。腹が立つことも多いけど、それなりに尊敬してるし。前に対決してみて、相性悪いの実感しちゃったしさぁ。もし、閣下が立ち塞《ふさ》がることがあったら、紅ちゃん、穏便にことが進むように全力を尽くしてね」
「全力を尽くしたくても、情報が少な過ぎですよっ」
言いながら、紅は遊輝の手を迷惑そうに払う。
「――さ、目的地だ。覚悟を決めて挑もうじゃないかっ!」
明らかなごまかし。だが、遊輝のその台詞と同時にステーションワゴンは停車する。
「行くぞ、紅」
車から降りた抜折羅は、むすっとしながら遊輝を睨《にら》んでいる紅に声を掛ける。
「わかってるわよ、急かさないで」
紅が視線を外すと、遊輝は口の端を笑みの形に変えた。勝ち目があるということだろうか――抜折羅は彼に一言告げようかと思ったが、うまくまとまらないので結局黙っていた。
石神邸の前に三人で並ぶ。そのときに、紅が身に付けているヘアピンの宝石〝アイススフィア〟が曇っていることに抜折羅は気付いた。
――スターサファイアが曇るってことは、星章先輩、裏切ってくれたみたいだな。
サファイアは不実に会うと輝きを失うと言われている。星章先輩からの誕生日プレゼントなのだと紅から説明されていたことを思い出すと、わざわざ会わなくとも結果は知れたようなものだ。
――星章先輩が紅に拘《こだわ》らなくてはならない理由って……。
「……ところで、どうやって中に入れてもらうつもり?」
紅の素朴な問いに、抜折羅の思考は中断される。
「確かに。勝手に入ったら犯罪だよな?」
肝心の部分を何も考えていなかった。ホープの所有者は特定できたが、部屋に引きこもっているという彼女にどうやって接触したら良いのかノープランだ。
「まぁ、ここは僕に任せてよ」
「鍵を壊しちゃダメですよ?」
すたすたと歩き始めた遊輝に、紅が釘を刺す。そんな彼女に、心配するなと言いたげに軽く手を振って返してきた。
不安な気持ちで抜折羅が見守っていると、遊輝はまず最初にインターフォンを確認。続いて普通にインターフォンを鳴らした。
「石神清貴さん宛てに書留ですー」
しれっと嘘をつく遊輝を前に、抜折羅は思わず紅と顔を見合わせる。
まずは玄関を突破しようということのようだ。やがて出て来た使用人らしき人に遊輝は能力も使って素早く接近。何をしているのか通りからは見えなかったが、しばらくすると手招きしてきた。警戒しながら、紅とともに玄関に向かう。
「――白浪先輩、何をしたんだ?」
使用人の姿はすでにない。書留の配達を装ったことはバレていてもおかしくないはずであるのに、屋敷は静かなままだ。この様子だと、通報に行かれてしまったわけでもないのだろう。
抜折羅の小声での問いに、遊輝は楽しそうに微笑んだ。
「僕のとっておき。――オパールは〝魔術的な力を持つ石〟とも呼ばれているんだよね。魔性の力が全快していれば、他人を操って人払い程度のことは朝飯前だよ」
「ずいぶんと便利な能力だな、おい」
驚きと呆れが、抜折羅の台詞を作る。
ダイヤモンドは古くから人々に愛され、どんな困難に対しても力を貸してくれる、などと万能扱いをされている。抜折羅の能力がダイヤモンドにまつわる言い伝えやパワーを拠り所としているお陰で、石の力を引き出せれば割と何でもこなせてしまう。
そんなダイヤモンドに、オパールにまつわる言い伝えやパワーのバリエーションは優るとも劣らないようだ。少なくとも目の前にいる遊輝はそれらの知識をきちんと持ち合わせ、自分のものに出来ている。
――オパールがここまで便利に使える魔性石になるとは……。〝スティールハート〟が入れ知恵でもしているのか?
前々から感じていたが、遊輝の知識はなかなかしっかりしている。抜折羅は鑑定士として最低限の知識を持ち合わせているつもりだが、彼の発言に感心したことは実は数知れない。遊輝を頼りたくなるのも、そういう面が気になるからなのだろうと今更に思った。
「っても、消耗が激しいから、何度も使えるようなものじゃないよ。――さぁ、進もうか。部屋の場所ならサーチできているし。魔性石同士の戦闘に入ると僕、戦力外だから」
言って、家の中に入る。階段を上ったところで、遊輝は立ち止まった。
「ホープの所有者は宝杖《ほうじょう》学院高等部一年B組に所属している石神《いしがみ》ルイという少女だね。父親が国会議員だし、僕が接触したのはおそらく彼女だと思うよ」
「待て。一年B組の生徒なら、どうして俺のホープに引っ掛からなかった? ホープ限定なら、能力使用状態じゃなくとも一〇メートルまで近付けば感知できるのに」
助手席に座っていた抜折羅《ばさら》は後部座席側に身体を向けて問う。抜折羅も紅《こう》も、一年A組に所属している。隣のクラスであれば感知できる範囲のはずだ。
「それは僕にも同じことが言えるはずだよ。なのに見つけられなかった理由――それは、彼女が学校に来ていなかったからだ」
「登校拒否……確かに隣のクラスにそういう子がいるって話は聞いたことがあるわ。入学してまもなく、学校に来なくなったって」
紅が遊輝の台詞に補足する。
「入学してまもなくって……何がきっかけなんだ?」
「ちょっと待って。過去ログを漁るから。――あぁ、どうも母親を亡くしたからみたいだね。入学式のあと、割とすぐの頃のようだ」
サイトを頻繁に利用しているのだろう。遊輝の検索はとても早い。
「母親を、ね……」
抜折羅は遊輝の台詞を繰り返す。自身の両親を失った原因にホープが関係していると思っている抜折羅にとって、その情報は嬉しくはない。ルイの母親も、おそらくはホープの呪いの犠牲者なのだろう。
――すべてのホープを集めて、早いところこの不幸の連鎖を止めないと……。
決意を新たに固める抜折羅に、スマートフォンをさらにせわしく弄《いじ》る遊輝が続ける。
「彼女の家庭は少し複雑っぽい。彼女は母親側の連れ子で、現在の父親、石神《いしがみ》清貴《きよたか》とは血の繋がりがないらしい」
そこまで告げたところで何かに気付いたらしい。遊輝は再びスマートフォンの画面に集中する。
「なるほど、そういうことか。――ホープは彼女の母親の物だったみたいだ。清貴はホープを手に入れるために結婚したんだと噂されている。清貴もその父、ルイにとっては祖父に当たるけど、その人物も宝石蒐集が趣味だからね。コレクションに加えるためにそうしたんだろう。青いダイヤモンドなんてなかなか手に入る代物じゃないし」
「そうなると、どうして娘のルイがホープを所有しているんだ? コレクションに加えることが目的なら、娘の手に渡る可能性は低いと思うんだが」
抜折羅の問いに、紅が割り込んだ。
「母親の形見を手元に置きたい気持ちはあると思うんだけど、どう? あたしだって、千晶《ちあき》お祖母ちゃんの形見である〝フレイムブラッド〟を持ち歩いているわけだし」
右手首にブレスレットとして身に付けているスタールビーの原石を指しながら意見する紅に、遊輝は頷いて同意を示す。
「そうだね。僕も紅ちゃんと同意見だ。だとすると、これは仮定だけど、ルイはホープの指輪を継父から奪い返したんじゃないかな。そしてタリスマントーカーの力に覚醒してしまったってところだろうね」
「ふむ……」
「ルイのホープが何を〝使命〟として与えているのかはわからないけど、激しく歪んだ憎悪を持っているのは直接対決をした分だけよくわかる。抜折羅くんがホープダイヤモンドだけでなく水晶も扱えるみたいに、彼女も他の魔性石を使えるようだから厄介だよ。僕にも魔性石をオマケしてくれたし、利用された連中も何かしらの魔性石を身に付けていたわけだから、ほぼ間違いない。どんな手を使ってくるのかはわからないけど、記憶に留めておいたほうがいい」
遊輝が注意を促すように告げると、紅の表情が曇った。
「その上で星章《せいしょう》先輩が向こうについたら、本当にまずいわよね……。思いとどまってくれればいいんだけど」
「そうだねぇ。閣下も必死みたいだから、確率は五分五分に思えるよ」
あまり期待しない方がいいと言いたげに、遊輝が肩を竦める。
「それは〝紺青《こんじょう》の王〟の使用条件という意味で?」
遊輝の反応を見て、紅が不思議そうに問う。
「まぁ、〝使命〟という点でもそうなんだろうけど、ずっと恋い焦がれていた相手がどこかに行きそうだから、って部分が大きいんじゃない?」
からかい半分といった様子で、遊輝はしれっと言う。
「あたしはどこにも行きませんよ?」
「どうかな? 君自身に行く気がなくても、僕が君を攫《さら》うかも知れないし、抜折羅くんが君を連れ去るかも知れないよ?」
「白浪《しらなみ》先輩はもう少しあたしの主張を考慮してくださいっ!」
遊輝が伸ばしてきた手を叩き落として、紅はじっと窺《うかが》うように見つめる。
「――ってか、どこまで星章先輩の事情を知っているんですか?」
探るような紅の視線を受けて、遊輝は視線を僅《わず》かに外す。
なかなか喋ろうとしない遊輝に、紅は続けて訊ねる。
「地学室であたしを助けてくれたとき、白浪先輩は言っていましたよね、〝紺青の王〟についてのことを。何かご存知なんじゃないですか?」
問い質《ただ》す紅をちらりと見やり、遊輝は頬を軽く掻く。そのあとで、観念したように小さく息を吐き出した。
「そうだねぇ。〝使命〟については心当たりがあるよ。事情は恋敵という意味合いでなんとなくわかってるつもり。閣下とは何気に中学時代から付き合いがあるから、性格的な面も想像がつくんだよね。紅ちゃんよりわかる部分も多いかも」
「で、〝紺青の王〟の〝使命〟って、一体何なのですか?」
「それを僕が言うのは反則じゃないかな。誰かの秘密を暴露するのは僕のポリシーからも外れるから、断りたいところだね」
「むっ……」
遊輝にそう言われてしまうと、紅でも困るようだ。次の台詞が出てこないのか、彼女は黙ってしまった。
「……一つ言えるとすれば」
しばらく沈黙をしていたが、遊輝が口を開いた。
「彼が〝石憑き〟になる覚悟を決めたのは、紅ちゃんのためを思ってのことだよ、きっと。報われないことかも知れないと思いながらも、運命から逃げたくなかったんじゃないかな。紅ちゃんは、ちゃんと星章先輩から話を聞いた方がいいと思う」
それは本音なのだろう。茶化す様子なく、遊輝は告げて紅の頭を撫でた。
「実のところ、星章閣下とはあまり敵対関係になりたくないんだけどね。腹が立つことも多いけど、それなりに尊敬してるし。前に対決してみて、相性悪いの実感しちゃったしさぁ。もし、閣下が立ち塞《ふさ》がることがあったら、紅ちゃん、穏便にことが進むように全力を尽くしてね」
「全力を尽くしたくても、情報が少な過ぎですよっ」
言いながら、紅は遊輝の手を迷惑そうに払う。
「――さ、目的地だ。覚悟を決めて挑もうじゃないかっ!」
明らかなごまかし。だが、遊輝のその台詞と同時にステーションワゴンは停車する。
「行くぞ、紅」
車から降りた抜折羅は、むすっとしながら遊輝を睨《にら》んでいる紅に声を掛ける。
「わかってるわよ、急かさないで」
紅が視線を外すと、遊輝は口の端を笑みの形に変えた。勝ち目があるということだろうか――抜折羅は彼に一言告げようかと思ったが、うまくまとまらないので結局黙っていた。
石神邸の前に三人で並ぶ。そのときに、紅が身に付けているヘアピンの宝石〝アイススフィア〟が曇っていることに抜折羅は気付いた。
――スターサファイアが曇るってことは、星章先輩、裏切ってくれたみたいだな。
サファイアは不実に会うと輝きを失うと言われている。星章先輩からの誕生日プレゼントなのだと紅から説明されていたことを思い出すと、わざわざ会わなくとも結果は知れたようなものだ。
――星章先輩が紅に拘《こだわ》らなくてはならない理由って……。
「……ところで、どうやって中に入れてもらうつもり?」
紅の素朴な問いに、抜折羅の思考は中断される。
「確かに。勝手に入ったら犯罪だよな?」
肝心の部分を何も考えていなかった。ホープの所有者は特定できたが、部屋に引きこもっているという彼女にどうやって接触したら良いのかノープランだ。
「まぁ、ここは僕に任せてよ」
「鍵を壊しちゃダメですよ?」
すたすたと歩き始めた遊輝に、紅が釘を刺す。そんな彼女に、心配するなと言いたげに軽く手を振って返してきた。
不安な気持ちで抜折羅が見守っていると、遊輝はまず最初にインターフォンを確認。続いて普通にインターフォンを鳴らした。
「石神清貴さん宛てに書留ですー」
しれっと嘘をつく遊輝を前に、抜折羅は思わず紅と顔を見合わせる。
まずは玄関を突破しようということのようだ。やがて出て来た使用人らしき人に遊輝は能力も使って素早く接近。何をしているのか通りからは見えなかったが、しばらくすると手招きしてきた。警戒しながら、紅とともに玄関に向かう。
「――白浪先輩、何をしたんだ?」
使用人の姿はすでにない。書留の配達を装ったことはバレていてもおかしくないはずであるのに、屋敷は静かなままだ。この様子だと、通報に行かれてしまったわけでもないのだろう。
抜折羅の小声での問いに、遊輝は楽しそうに微笑んだ。
「僕のとっておき。――オパールは〝魔術的な力を持つ石〟とも呼ばれているんだよね。魔性の力が全快していれば、他人を操って人払い程度のことは朝飯前だよ」
「ずいぶんと便利な能力だな、おい」
驚きと呆れが、抜折羅の台詞を作る。
ダイヤモンドは古くから人々に愛され、どんな困難に対しても力を貸してくれる、などと万能扱いをされている。抜折羅の能力がダイヤモンドにまつわる言い伝えやパワーを拠り所としているお陰で、石の力を引き出せれば割と何でもこなせてしまう。
そんなダイヤモンドに、オパールにまつわる言い伝えやパワーのバリエーションは優るとも劣らないようだ。少なくとも目の前にいる遊輝はそれらの知識をきちんと持ち合わせ、自分のものに出来ている。
――オパールがここまで便利に使える魔性石になるとは……。〝スティールハート〟が入れ知恵でもしているのか?
前々から感じていたが、遊輝の知識はなかなかしっかりしている。抜折羅は鑑定士として最低限の知識を持ち合わせているつもりだが、彼の発言に感心したことは実は数知れない。遊輝を頼りたくなるのも、そういう面が気になるからなのだろうと今更に思った。
「っても、消耗が激しいから、何度も使えるようなものじゃないよ。――さぁ、進もうか。部屋の場所ならサーチできているし。魔性石同士の戦闘に入ると僕、戦力外だから」
言って、家の中に入る。階段を上ったところで、遊輝は立ち止まった。
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