宝石の呪いで逆ハーになりましたが、やっぱり嬉しくありません!

一花カナウ

文字の大きさ
62 / 309
ヒトの心を捉えし魔物は

*3* 9月7日土曜日、昼【A】

しおりを挟む
 抜折羅《ばさら》の行動に、紅《こう》はすぐさま反応した。蒼衣《あおい》を受け止める体勢を作るが、勢いを殺すには間に合わない。

 ――これじゃあ二人とも壁に叩き付けられるっ!!

「わわっ!?」
「任せてっ!」

 階段で休んでいたはずの遊輝《ゆうき》が飛び出し、紅の背後に移る。
 蒼衣の身体を遊輝と力を合わせることで踏ん張りきり、紅はなんとか受け止めた。

「大丈夫かい、紅ちゃん」
「はい、お陰様で」

 首を僅かに後ろに回し、遊輝を見やりながら礼を言う。いくらか勢いで後退したようだが、壁への衝突は免《まぬが》れたらしかった。

「紅……私には貴女《あなた》が必要なんです。ずっとそばに居てくれると、信じていたのに」

 抱き止めた蒼衣は、紅の腕の中でポツリポツリと呟く。
 紅は蒼衣に視線を戻す。ここはまず説得だ。慎重に言葉を選ぶ。

「蒼衣兄様、落ち着いて。〝紺青《こんじょう》の王〟を頼っていてはいけないわ。お願い、戻ってきて、いつもの優しいお兄様に」

 紺青の王が貼り付く左手を紅は両手で包み込む。

「紅は今の私を否定するのですか?」

 不安げに揺れる蒼衣の瞳。何かに縋《すが》らねば壊れてしまう、そんな脆《もろ》さや危うさを感じさせる。
 紅は言葉を失い、しかしすぐに探し求めた。彼に届く言葉をきちんと選ばねば。

「――そうね。今は正直、受け入れられそうにない。蒼衣兄様の気持ちも、そう。――だけどね」

 言って、紅は蒼衣の腰に腕を回してぎゅっと抱き締める。彼の肩に額をつけるようにして密着した。

「もっとお話をして、距離を埋めていきたいとは思うの。寂しい思いをさせてごめんなさい。あなたの気持ちに気付くことができなくて本当にごめんなさい……」

 素直な気持ちをぶつけると、蒼衣の手が紅の頭に乗せられた。

「困らせていたのは私なのですね……貴女の気持ちを聞けて良かった」

 前髪を持ち上げられたかと思うと、紅の額に口付けが落とされる。優しいキスだ。
 紅が腕に込めていた力を緩めて見上げる。蒼衣は微苦笑を浮かべて静かに後退した。

「少し悪ふざけが過ぎたようですね。自信がないために、思わず力に頼ってしまうところは、反省して治していかねばならない私の欠点だ。白浪《しらなみ》の言う通り」

 ふっと蒼衣は笑うと、制服のポケットからネックレスを取り出す。照り返す強い輝きを放つ石はダイヤモンドだ。遊輝がルイにピアスをつけられてしまったように、蒼衣も彼女から受け取っているみたいだ。

「……蒼衣兄様?」

 何をする気なのだろうか。彼が取り出したダイヤモンドが、魔性石であると理解できただけに紅は不安になる。
 彼は〝紺青の王〟が埋まる左手でダイヤモンドのネックレスを握ると、澄んだ青い光を放つ双眸を閉じた。

「冥界の王プルトよ、我が前に立ちふさがる呪われし運命を正しき道に導きたまえ」

 蒼衣の強い意志の込められた言葉を受けて、〝紺青の王〟が応じたようだ。青い光が左手に集い、そして霧散した。

 ――あたしの〝浄化の炎〟と似ている……?

 紅には、蒼衣が唱えた呪文が魔性石の力に作用したのだと理解できた。少しずつではあるが、〝フレイムブラッド〟以外の魔性石の力を感じ取れるようになってきているらしい。

『サファイアのタリスマントーカーが使う〝導きの光〟ですね』
「フレイムブラッド?」

 久々に聞こえてきたフレイムブラッドの穏やかな声に、紅は思わずその名を呼ぶ。

『ルビーのタリスマントーカーが使う〝浄化の炎〟は魔性の力を祓うものですが、〝導きの光〟は魔性の力が悪しきことに向かうのを防ぐもの。――しかし、彼はまだまだ青いようですね』

 フレイムブラッドの指摘通りだった。蒼衣の長身はふらりと揺れたかと思うと、その場に崩れる。

「蒼衣兄様っ!」

 駆け寄って抱き起こす。蒼衣は両目を閉じたまま、動かない。

「大丈夫。気絶しているだけだから。〝導きの光〟はまだ閣下には扱いきれないものみたいだね」

 慌てた紅の肩に手を置いて、遊輝が告げる。

「良かったぁ……」
「〝アイススフィア〟を使う手間が省けたね。ダイヤモンドの魔性石に便乗するだなんて人が悪いとは思うけど、それだけ必死だということなのかな」

 遊輝は蒼衣の手の中からダイヤモンドのネックレスを引き抜くと、さり気なく自身のポケットにしまい込む。紅が指摘しようとしたところで、彼の台詞が割り込んだ。

「――それにしても紅ちゃん、閣下のことを名前で呼んであげたら? 兄様って呼ぶの、ちょっと酷くない?」

 不憫《ふびん》だと言いたげな様子で問われる。紅は遊輝から視線を外した。

「仕方ないじゃないですか。あたしにとって星章《せいしょう》先輩は兄としか思えない相手なんですから」
「幼なじみってのは面倒な距離感なんだねぇ。――っと」

 言いながら、遊輝は蒼衣を背負う。運び出すつもりのようだ。

「〝鎮静の光〟を浴びてろくに能力を使えなくなった僕は一度引かせてもらうよ。向こうも決着する頃合いだ」

 視線で示された先には抜折羅とルイの姿があった。壁に押し付けられた状態のルイの左手は背後に回されて留められている。抜折羅は拘束に成功したようだ。

「念のため、紅ちゃんはここに残って。万が一のときには、〝フレイムブラッド〟に指示を仰《あお》ぐこと。〝アイススフィア〟の使い方くらいなら、無償で教えてくれると思うよ」
「わかりました。星章先輩をお願いいたします」
「了解。――あぁ、男って重いな。あとで閣下には何かしてもらわないと」

 ぶつくさ言いつつ、遊輝は蒼衣を背負って階段を下って行ってしまった。

 ――あとは、抜折羅がホープを回収してしまえば終わり……。

 紅は黙ったまま、抜折羅たちの決着を待つ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

男が少ない世界に転生して

美鈴
ファンタジー
※よりよいものにする為に改稿する事にしました!どうかお付き合い下さいますと幸いです! 旧稿版も一応残しておきますがあのままいくと当初のプロットよりも大幅におかしくなりましたのですいませんが宜しくお願いします! 交通事故に合い意識がどんどん遠くなっていく1人の男性。次に意識が戻った時は病院?前世の一部の記憶はあるが自分に関する事は全て忘れた男が転生したのは男女比が異なる世界。彼はどの様にこの世界で生きていくのだろうか?それはまだ誰も知らないお話。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

【完結】『大江戸妖怪診療所~奇病を治すは鬼の医者~』

月影 朔
歴史・時代
江戸の町外れ、鬼灯横丁で「玄庵診療所」を営むのは、人間離れした美貌を持つ謎の医師・玄庵。常人には視えぬ妖怪や穢れを視る力で、奇病に苦しむ人間や妖怪たちを癒やしています。ひょんなことから助手を務めることになった町娘のおみつは、妖怪の存在に戸惑いながらも、持ち前の行動力と共感力で玄庵の治療を手伝い、彼と共に成長していきます。 飄々とした情報屋の古狐妖怪・古尾や、言葉を解する化け猫・玉藻など、個性豊かな面々が診療所を彩ります。玄庵の過去にまつわる深い謎、人間と妖怪の間に立つ退魔師・竜胆との衝突、そして世界を混乱に陥れる「穢れ」の存在。様々な事件を通して、人間と妖怪の間に紡がれる絆と、未来への希望が描かれる、和風ファンタジー医療譚です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...