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紅き炎は静かに揺らめく

*1* 9月17日火曜日、放課後

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 九月十七日火曜日。放課後。
 こうは宝杖学院内にある宝物館にいた。
 宝杖学院の敷地には色々な施設が存在するが、一番特色があるのは宝物館だろう。八角形で二階建ての西洋風建築物で、外装も内装もそれ自体が芸術品であるかのような輝きを持っている。展示されているものは宝飾品や珍しい鉱物など、宝石蒐集を趣味とする星章せいしょう家が手に入れたコレクションだ。中には紅の祖母、千晶ちあきが所有していたものもあるらしい。基本的に予約制で、土日祝祭日は生徒たちだけでなく一般の人も予約可能だ。
 かつて紅は、授業の一環で宝物館を訪れたことはあったが、当時はその美しさに心を奪われただけだった。ジュエリーデザイナーを目指すようになってからは一度も見に訪れていなかったため、今なら別の視点からも鑑賞できる。

 ――うわぁ、これ、ミステリーセッティングっていうのよね。本当に爪が見えないわ。

 小さなルビーが蝶の形に敷き詰められている。宝石は爪で固定されるものだが、ミステリーセッティングはそれが見た目からはわからない。お陰でジュエリーのデザインの幅が広がったのだと本で学んだ。
 ガラスケースの中できらめく宝石たちを見ながら、紅は奥へと進む。

「――紅ちゃん、本題を忘れていないかい? ただのデートでいいなら、僕はそれで構わないけど」

 遊輝ゆうきの小さな声が静寂に満ちた室内に響く。宝物館にいるのは監視員と紅、遊輝くらいで、他の客や生徒はいない。
 遊輝と二人きりで行動するつもりはなかったのだが、誘った抜折羅ばさらには仕事を理由に断られ、蒼衣あおいは推薦入試に備えた講習に引っ張られてしまったためにそうなってしまった。探知系のタリスマントーカーたる遊輝が一緒なのは助かるが、彼本人の人柄を思うと少しだけ身の危険を感じなくもない。

 ――白浪しらなみ先輩の言うとおりではあるわね……。

 紅は素直に反省する。
 この宝物館を訪ねたのは勉強のためではない。〝氷雪の精霊〟を探すためだ。七不思議が存在するところは回って損はないだろうと判断しての行動である。

「あぁ、ごめんなさい。宝物館に来るの久し振りで。つい浮かれちゃったわ」
「僕はここの宝石たちより君の方がずっと綺麗だと思うよ? 〝フレイムブラッド〟の輝きと比べたら、どんな石もくすんで見えるね」
「よくそんな台詞がすらすらと出てきますね」

 遊輝の口説き文句は聞き慣れてきた紅だが、こうも次から次に様々な言葉が出てくるものだと感心する。

「心からそう思っているからね。お世辞じゃないよ」

 にっこりと微笑んでそう告げる遊輝を見ていると、その台詞が本音なのか嘘なのかわからなくなる。

「えっと……こういうとき、あたしはどんな反応をすれば良いんでしょう?」
「頬を赤らめて照れてくれれば良いんじゃないかな。ちょうど今みたいに」

 指摘されて、紅は自身の頬に熱が宿っていることに気付いた。慌てて両手で頬を挟む。

「この程度の台詞で君をドキドキさせられるなら、いくらでも囁いてあげるよ? それこそ四六時中、朝から晩まで、お望みであれば朝日が射すまで」
「け、結構ですっ!」
「ふふっ。紅ちゃん可愛い。いつまで経っても初々しい反応だね。抜折羅くんも閣下も、言葉で攻めるのは上手くないもんねぇ」
「からかわないで下さい。――悪かったわよ、本題を忘れて」
「僕は楽しいけど?」
「…………」

 頭痛を覚えずにはいられない。紅は額に手を当てる。距離を取って行動しているため、不意に触れられることはないが油断ならない。だから二人きりは抵抗があったのだ。
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