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紅き炎は静かに揺らめく
★7★ 9月23日月曜日、早朝
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「――来れば会えるって言われたと言ったが、どういうことだ?」
ステーションワゴンから充分に離れたバス停。自販機のそばで立ち止まると抜折羅は美紅を見ながら問う。
「この子に導いてもらったの」
告げて、美紅はキュロットのポケットから赤い石がついたブレスレットを取り出した。そのこんもりとしたカボションカットの赤い石がカーネリアンであり、魔性石であると瞬時に理解する。
「名前は〝炎の恵み〟。金剛君にもう一度会いたくて、手に入れたの。こういう特別な力を持った石を、君の所属する組織では魔性石って呼んでいるんだってね」
差し出されたブレスレットが揺れて、カーネリアンが秋の陽射しを照り返す。〝炎の恵み〟と名乗るだけあって、炎のような真っ赤な色を持つ美しい魔性石だ。
「君に石と対話する力が備わっているとは思わなかった。その〝炎の恵み〟がここに行くよう促したってことなんだな?」
「そう」
抜折羅が確認すると、美紅はゆっくりと顎を引いて頷く。
「君が〝石憑き〟になっていなくてほっとしたよ」
浄化をするようにと命じられていたはずなので、てっきり石憑きになって魔性石を身体から引き離せないのだろうと覚悟していた。この状態なら彼女にも大きな負担はなかったに違いないと、抜折羅は今までの症例を思い返して安堵する。
「誘惑はされたんだけどね。まぁ、私、君に会えれば石の力なんて興味なかったから」
言って、彼女は小さく肩を竦める。
「俺に会ってどうするつもりだったんだ?」
素朴な疑問。覚えていてくれたことを嬉しく思ったが、しかし彼女が石の力を頼ってまで会いたいと願った理由が想像できない。
率直に問うと、美紅は困ったように笑った。
「だって、金剛君、急にアメリカに行っちゃうんだもん。お別れくらいきちんと言いたかったし、告白をしたかったの。好きだったって」
「…………」
こういうとき、どんな反応をすると良いのか、抜折羅にはわからない。何か言った方がいいんじゃないかと思って、僅かに唇を動かすも、言葉は出てこなかった。
黙っていたからだろう。美紅は続ける。
「六年も経ったからか、今はもうただの思い出なんだけどね。でも伝えたかったから、ずっと〝炎の恵み〟を手放せなかったの。これを君に渡せれば、私は全部を思い出にできる」
――思い出に、か……。
告白をする彼女はとてもすっきりとした表情を浮かべていた。気持ちの整理はできているようだ。
「何で今なんだ?」
このタイミングになった理由が気になって問うと、美紅は小首を傾げた。
「さぁね。運命の巡り合わせってヤツ?」
言って笑い、そして思い出したように真面目な顔を作った。
「あ、言伝を頼まれていたのを忘れるところだったわ」
「言伝?」
「うん。――このブレスレットを売ってくれたお婆さんがね、この石を託す相手に『出水派とウィストン派の動きには気をつけて』って伝えるようにって。意味不明なんだけど、それがかえって頭に残っちゃって」
――出水派とウィストン派って……まさか。
抜折羅は彼女の言うお婆さんが誰であるのか、すぐにイメージできた。出水千晶だ。
「とりあえず伝えたし、受け取ってちょうだい」
美紅は抜折羅の右手を取ると、カーネリアンのブレスレットを握らせた。
「それで私のことは忘れて。私は次の恋を探すことにするから」
「――君はそれで良いのか?」
右手を開いて受け取った〝炎の恵み〟を確認し、続けて美紅を見る。
「いいの。そうすることが一番いいのよ。君を困らせたくないし、これ以上のお願いをしたら引き返せなくなるって、私、知ってるから」
つらい選択だったのだろうと察することができた。美紅は唇を一文字に結んで、何かを堪えている。
抜折羅は視線を外し、足下に向けた。
「悪い。変なことを訊いた。忘れてくれ。俺も仕事だと割り切って、これを受け取るさ」
「うん、そうして」
彼女の足下に落ちる日傘の影がくるくると回る。
「……家の近くまで送ろうか?」
「大丈夫だよ。一人で帰れるから」
無理しているとわかる。でも、掛けるべき言葉は浮かばないし、ここで変に優しくして関係が続いてしまうのは一番避けねばならない。
「……わかった。じゃあ、俺、行くから。気を付けて帰るんだぞ?」
「うん。――バイバイ、金剛君」
美紅を置いて歩き出す。いくらか進んだところで振り返ろうかと考えたが、抜折羅はそのままステーションワゴンに向かって進んだ。
――出会ってしまえば、必ず別れはやってくるもの……。生まれてしまった関係をなかったことにするのは、そう簡単にはできない。そして俺は、どんなに経験しても別れが苦手だ。
自覚して抜折羅の脳裏に過ぎったのは、火群紅の姿だった。月末にはアメリカに戻る。次に日本を訪れるのがいつになるのかわからない。紅には会えなくなるのだ。
――出会う前に戻るだけだ。こういうことをやめたいなら、早くホープを集め終えなくては。
決意を新たに、抜折羅は墓場を後にしたのだった。
ステーションワゴンから充分に離れたバス停。自販機のそばで立ち止まると抜折羅は美紅を見ながら問う。
「この子に導いてもらったの」
告げて、美紅はキュロットのポケットから赤い石がついたブレスレットを取り出した。そのこんもりとしたカボションカットの赤い石がカーネリアンであり、魔性石であると瞬時に理解する。
「名前は〝炎の恵み〟。金剛君にもう一度会いたくて、手に入れたの。こういう特別な力を持った石を、君の所属する組織では魔性石って呼んでいるんだってね」
差し出されたブレスレットが揺れて、カーネリアンが秋の陽射しを照り返す。〝炎の恵み〟と名乗るだけあって、炎のような真っ赤な色を持つ美しい魔性石だ。
「君に石と対話する力が備わっているとは思わなかった。その〝炎の恵み〟がここに行くよう促したってことなんだな?」
「そう」
抜折羅が確認すると、美紅はゆっくりと顎を引いて頷く。
「君が〝石憑き〟になっていなくてほっとしたよ」
浄化をするようにと命じられていたはずなので、てっきり石憑きになって魔性石を身体から引き離せないのだろうと覚悟していた。この状態なら彼女にも大きな負担はなかったに違いないと、抜折羅は今までの症例を思い返して安堵する。
「誘惑はされたんだけどね。まぁ、私、君に会えれば石の力なんて興味なかったから」
言って、彼女は小さく肩を竦める。
「俺に会ってどうするつもりだったんだ?」
素朴な疑問。覚えていてくれたことを嬉しく思ったが、しかし彼女が石の力を頼ってまで会いたいと願った理由が想像できない。
率直に問うと、美紅は困ったように笑った。
「だって、金剛君、急にアメリカに行っちゃうんだもん。お別れくらいきちんと言いたかったし、告白をしたかったの。好きだったって」
「…………」
こういうとき、どんな反応をすると良いのか、抜折羅にはわからない。何か言った方がいいんじゃないかと思って、僅かに唇を動かすも、言葉は出てこなかった。
黙っていたからだろう。美紅は続ける。
「六年も経ったからか、今はもうただの思い出なんだけどね。でも伝えたかったから、ずっと〝炎の恵み〟を手放せなかったの。これを君に渡せれば、私は全部を思い出にできる」
――思い出に、か……。
告白をする彼女はとてもすっきりとした表情を浮かべていた。気持ちの整理はできているようだ。
「何で今なんだ?」
このタイミングになった理由が気になって問うと、美紅は小首を傾げた。
「さぁね。運命の巡り合わせってヤツ?」
言って笑い、そして思い出したように真面目な顔を作った。
「あ、言伝を頼まれていたのを忘れるところだったわ」
「言伝?」
「うん。――このブレスレットを売ってくれたお婆さんがね、この石を託す相手に『出水派とウィストン派の動きには気をつけて』って伝えるようにって。意味不明なんだけど、それがかえって頭に残っちゃって」
――出水派とウィストン派って……まさか。
抜折羅は彼女の言うお婆さんが誰であるのか、すぐにイメージできた。出水千晶だ。
「とりあえず伝えたし、受け取ってちょうだい」
美紅は抜折羅の右手を取ると、カーネリアンのブレスレットを握らせた。
「それで私のことは忘れて。私は次の恋を探すことにするから」
「――君はそれで良いのか?」
右手を開いて受け取った〝炎の恵み〟を確認し、続けて美紅を見る。
「いいの。そうすることが一番いいのよ。君を困らせたくないし、これ以上のお願いをしたら引き返せなくなるって、私、知ってるから」
つらい選択だったのだろうと察することができた。美紅は唇を一文字に結んで、何かを堪えている。
抜折羅は視線を外し、足下に向けた。
「悪い。変なことを訊いた。忘れてくれ。俺も仕事だと割り切って、これを受け取るさ」
「うん、そうして」
彼女の足下に落ちる日傘の影がくるくると回る。
「……家の近くまで送ろうか?」
「大丈夫だよ。一人で帰れるから」
無理しているとわかる。でも、掛けるべき言葉は浮かばないし、ここで変に優しくして関係が続いてしまうのは一番避けねばならない。
「……わかった。じゃあ、俺、行くから。気を付けて帰るんだぞ?」
「うん。――バイバイ、金剛君」
美紅を置いて歩き出す。いくらか進んだところで振り返ろうかと考えたが、抜折羅はそのままステーションワゴンに向かって進んだ。
――出会ってしまえば、必ず別れはやってくるもの……。生まれてしまった関係をなかったことにするのは、そう簡単にはできない。そして俺は、どんなに経験しても別れが苦手だ。
自覚して抜折羅の脳裏に過ぎったのは、火群紅の姿だった。月末にはアメリカに戻る。次に日本を訪れるのがいつになるのかわからない。紅には会えなくなるのだ。
――出会う前に戻るだけだ。こういうことをやめたいなら、早くホープを集め終えなくては。
決意を新たに、抜折羅は墓場を後にしたのだった。
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