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黒曜石は鋭さを増して
*7* 10月2日水曜日、放課後【♭♯】
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将人の黒曜石のように真っ黒な瞳が蒼衣を捉えた。
「久し振りだな、蒼衣にい。二人揃って、学内デートか?」
「そちらは校内見学――というわけではなさそうですね」
蒼衣の視線が将人の手元に移動する。紅の視界にも将人の手から伸びる振り子が入っていた。
――ダウジング?
将人は黒い石でできたペンジュラムを手に、何かを捜していたように見える。そんなものを持って校内見学をする人間はおよそいるまい。
「隠す必要もなさそうだな」
ふっと小さく笑って、将人は睨んだ。
「単刀直入に訊く。〝氷雪の精霊〟はどこだ?」
――将人も捜している?
紅は〝氷雪の精霊〟の名を聞いてピクリと反応してしまったが、蒼衣は落ち着いた様子で返した。
「何のことでしょうか。もし、知っていても、貴様にだけは教えませんが」
底冷えのする恐ろしい声は威嚇のためだろう。蒼衣は素早く左手を構えた。彼の薬指に埋まるサファイアの魔性石〝紺青の王〟が発動する。空気が一瞬でピリピリとした緊張感で満たされた。
それを見て、将人はニヤリと笑む。
「へえ……補助型のタリスマントーカーが、浄化型の俺とやり合おうってか?」
くるりとペンジュラムを回して手のひらに収めたかと思うと、その中から黒光りする一本の槍が現れた。
「まぁ、おれの場合、浄化能力よりも近接戦闘の方が得意なんだけどなっ!!」
言い放って、将人は地面を蹴った。槍を構える姿は様になっている。
近付いてくる将人に、蒼衣は紅をさらに下がらせた。
「紺青の王よ、我に力をっ!」
力強い声に応じて、青白い光が走る。〝紺青の王〟が持つ力を鎮める能力《鎮静の光》だ。
将人は槍を振るい、形状を楯に変えて突進する。
「悪いな。対策済みだ」
楯から槍に再び変化させると、さっと横に薙いだ。将人の腕の長さと槍の組み合わせは射程を効果的に延ばす。
蒼衣は避けきれないと悟ったらしく、紅を護るように抱き締め、それでも傷が最小限になるよう横に転がった。
「兄様っ!?」
「ちっ、浅いな」
紅はすぐに上体を起こすと、蒼衣を抱き起こす。
彼の半袖のワイシャツに鮮血が滲んでいた。肩口を切られているようだ。蒼衣の顔に苦痛の色が広がる。
「将人、どうしてこんなことをっ!?」
二、三歩ほど離れた場所から見下ろしてくる将人を睨む。彼は冷たい笑みを浮かべた。
「目障りなんだよ。生まれたときから全てを持っている蒼衣にいが。財産もあるし、勉学面でも優秀。人望や地位や名誉なんかもちゃっかり持ってやがる。その上、好きな女を侍らせているときた。こんな不公平が許されるなんて納得できるかよ」
不満げに吐き捨てて、将人はゆっくりと近付く。
「来るなっ!!」
怪我で呻いていた蒼衣が、傷を負っていない右手で紅を庇う。
そんな蒼衣を将人は容赦なく蹴り飛ばした。助け起こそうとする紅の前にしゃがみ、邪魔をする。
「紅、おれの女になれよ」
蒼衣を一瞥し、紅に視線を戻すと顎を取る。
「そしたら、蒼衣にいには手を出さないでいてやるからさ」
身体は恐怖におののいて震えてしまっている。だけど、心は折れていなかった。
「ふざけないで」
告げながら、心の中でフレイムブラッドに命じる。《浄化の炎》で威嚇せよと。
「あたしはあなたのものにはならないわ」
気力で将人の手を払うと、追い討ちのように紅蓮の炎が舞った。魔性石の力を祓うフレイムブラッドの能力《浄化の炎》だ。火力が弱いのは、呪文を省略した影響に違いない。
紅の不意打ちにはさすがに驚いたらしい。将人は素早く後方に飛び退いて避難した。
「そんなに蒼衣にいが大事か?」
「あなたのやり方が嫌なのよ」
「ふぅん……」
つまらなそうに呟いて槍を消すと、黒い石のペンジュラムをポケットの中に押し込んだ。
「紅、一つ有益なことを教えてやる。――あんたは蒼衣にいとは結婚できない。つっても、相手はおれでもないんだがな。ただ、あんたが一番望まない相手だってことはわかる。頭の片隅に入れておけ」
そう告げる彼の瞳には憐れみの色が広がっていた。
「――ここはあんたを口説き落とすのに失敗した手前、一度退いてやるよ。せいぜい仮初めの時間を婚約者ごっこでもして楽しむことだな」
将人は何かを飲み込んだような顔を一瞬見せると、踵を返して立ち去った。
「久し振りだな、蒼衣にい。二人揃って、学内デートか?」
「そちらは校内見学――というわけではなさそうですね」
蒼衣の視線が将人の手元に移動する。紅の視界にも将人の手から伸びる振り子が入っていた。
――ダウジング?
将人は黒い石でできたペンジュラムを手に、何かを捜していたように見える。そんなものを持って校内見学をする人間はおよそいるまい。
「隠す必要もなさそうだな」
ふっと小さく笑って、将人は睨んだ。
「単刀直入に訊く。〝氷雪の精霊〟はどこだ?」
――将人も捜している?
紅は〝氷雪の精霊〟の名を聞いてピクリと反応してしまったが、蒼衣は落ち着いた様子で返した。
「何のことでしょうか。もし、知っていても、貴様にだけは教えませんが」
底冷えのする恐ろしい声は威嚇のためだろう。蒼衣は素早く左手を構えた。彼の薬指に埋まるサファイアの魔性石〝紺青の王〟が発動する。空気が一瞬でピリピリとした緊張感で満たされた。
それを見て、将人はニヤリと笑む。
「へえ……補助型のタリスマントーカーが、浄化型の俺とやり合おうってか?」
くるりとペンジュラムを回して手のひらに収めたかと思うと、その中から黒光りする一本の槍が現れた。
「まぁ、おれの場合、浄化能力よりも近接戦闘の方が得意なんだけどなっ!!」
言い放って、将人は地面を蹴った。槍を構える姿は様になっている。
近付いてくる将人に、蒼衣は紅をさらに下がらせた。
「紺青の王よ、我に力をっ!」
力強い声に応じて、青白い光が走る。〝紺青の王〟が持つ力を鎮める能力《鎮静の光》だ。
将人は槍を振るい、形状を楯に変えて突進する。
「悪いな。対策済みだ」
楯から槍に再び変化させると、さっと横に薙いだ。将人の腕の長さと槍の組み合わせは射程を効果的に延ばす。
蒼衣は避けきれないと悟ったらしく、紅を護るように抱き締め、それでも傷が最小限になるよう横に転がった。
「兄様っ!?」
「ちっ、浅いな」
紅はすぐに上体を起こすと、蒼衣を抱き起こす。
彼の半袖のワイシャツに鮮血が滲んでいた。肩口を切られているようだ。蒼衣の顔に苦痛の色が広がる。
「将人、どうしてこんなことをっ!?」
二、三歩ほど離れた場所から見下ろしてくる将人を睨む。彼は冷たい笑みを浮かべた。
「目障りなんだよ。生まれたときから全てを持っている蒼衣にいが。財産もあるし、勉学面でも優秀。人望や地位や名誉なんかもちゃっかり持ってやがる。その上、好きな女を侍らせているときた。こんな不公平が許されるなんて納得できるかよ」
不満げに吐き捨てて、将人はゆっくりと近付く。
「来るなっ!!」
怪我で呻いていた蒼衣が、傷を負っていない右手で紅を庇う。
そんな蒼衣を将人は容赦なく蹴り飛ばした。助け起こそうとする紅の前にしゃがみ、邪魔をする。
「紅、おれの女になれよ」
蒼衣を一瞥し、紅に視線を戻すと顎を取る。
「そしたら、蒼衣にいには手を出さないでいてやるからさ」
身体は恐怖におののいて震えてしまっている。だけど、心は折れていなかった。
「ふざけないで」
告げながら、心の中でフレイムブラッドに命じる。《浄化の炎》で威嚇せよと。
「あたしはあなたのものにはならないわ」
気力で将人の手を払うと、追い討ちのように紅蓮の炎が舞った。魔性石の力を祓うフレイムブラッドの能力《浄化の炎》だ。火力が弱いのは、呪文を省略した影響に違いない。
紅の不意打ちにはさすがに驚いたらしい。将人は素早く後方に飛び退いて避難した。
「そんなに蒼衣にいが大事か?」
「あなたのやり方が嫌なのよ」
「ふぅん……」
つまらなそうに呟いて槍を消すと、黒い石のペンジュラムをポケットの中に押し込んだ。
「紅、一つ有益なことを教えてやる。――あんたは蒼衣にいとは結婚できない。つっても、相手はおれでもないんだがな。ただ、あんたが一番望まない相手だってことはわかる。頭の片隅に入れておけ」
そう告げる彼の瞳には憐れみの色が広がっていた。
「――ここはあんたを口説き落とすのに失敗した手前、一度退いてやるよ。せいぜい仮初めの時間を婚約者ごっこでもして楽しむことだな」
将人は何かを飲み込んだような顔を一瞬見せると、踵を返して立ち去った。
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