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黒曜石は鋭さを増して
*8* 10月2日水曜日、放課後【♯】
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「――蒼衣兄様っ!!」
紅は将人の姿が見えなくなるなり、蒼衣に駆け寄った。肩を押さえる右手が赤く濡れている。出血が酷い。
「紅、貴女に怪我は?」
「あたしなら大丈夫。兄様、そんなことより、早く止血をしないと。蹴られた怪我の治療も」
ハンカチを取り出し、傷口よりも心臓に近い位置をきつく縛る。しかしそれだけでは流れる血を止めることができそうにない。
紅は焦る。
「まずいわね……助けを呼びましょう」
ポケットからスマートフォンを取り出す。
「ですが――」
蒼衣の顔が青ざめてきている。将人は浅いと言っていたが、とんでもない怪我だ。
「怪我の理由なんていくらでも捏造できるわ。命に関わるかもしれないのに――待って」
誰に連絡するのが適当なのか迷ってアドレス帳を見ていた紅は、抜折羅の名前を見つけてあることを思い出した。すぐに画面を切り替えてメールを探す。
「……何か妙案でも?」
「ルビーの効能にあるの、こういうときに使えそうなやつが」
抜折羅から貰っていた目的のメールを表示する。ルビーについてまとめたレポートだ。
紅が指先でスクロールすれば、期待した文言にたどり着いた。
「フレイムブラッド、あたしに力を貸して」
右肩に埋まるスタールビーの魔性石〝フレイムブラッド〟に声を掛けると、身体中にその力を感じ取る。
『――ワタシの力を求めますか?』
亡くなった祖母に似た声が耳元でした。フレイムブラッドの声だ。
「えぇ、お願い。蒼衣兄様の傷を癒やしたいの。協力して」
『承知いたしました。《治癒の炎》の力を貸し出しましょう』
身体中に漲っていた力が右手に収束し、柔らかな炎を生む。
『その炎を傷口に流し込んでください』
「了解」
蒼衣の左腕を取ると、十数センチにわたるだろう裂傷に炎を当てる。触れた箇所から炎が体内に流れていく様が幻想的で、思わず見入ってしまう。
――これが《治癒の炎》か……。
意識がぼんやりとして、身体が前に傾く。それを蒼衣は受け止めてくれた。
「もう大丈夫です。紅、力の使いすぎは身体に障ります。やめて下さい」
言われて、はっとした。この力は紅の体力を消耗して、相手を回復させるものなのだ。
「あぁ、うん」
紅は右手を傷から離す。まもなく炎は消え去った。
「血は止まったみたいね」
確認のために血をそっと拭うと、赤い線となって腫れているくらいでほとんど治っていた。
「血色も良くなったみたいだし、これで安心ね。――蒼衣兄様、あたしを護ってくれてありがとう。でも、無茶はしないで。あたしはあなたが傷付く姿は見たくないよ」
蒼衣の瞳を真っ直ぐ見つめて告げる。
自分のために頑張ってくれるのは嬉しいが、約束してもらわないと心配だ。蒼衣が紅を護るために幽閉することを考えてしまう程度には、彼を護るために遠ざけることをつい考えてしまう。でも、それは互いの願うところではないだろう。
紅の視線から蒼衣は逃れるように顔を背けた。
「お気持ちは嬉しいのですが……。私は貴女さえ護れるのであれば、命も惜しくはありませんよ。貴女を手に入れられないなら、私自身など要らないと願ってしまった以上に強く思っているのです」
「蒼衣兄様」
名を呼んで、彼の右手を取り両手で包む。彼の手のひらは血で濡れていたが、そんなことは構わなかった。
蒼衣は顔を背けたままだったが、すっと視線を包まれた手に向け、紅の顔に戻した。それを見て、紅は続ける。
「蒼衣兄様はもっと自分を大切にして。あたしはあなたに犠牲を強いることは望んでない。あなたならできると信じて期待しているあたしの気持ちを裏切って欲しくないの。わかってくれないかしら」
「紅……」
彼の瞳が揺れる。悩むような間を挟んで、蒼衣は向き直り微笑んだ。
「……わかりました。努力しましょう」
左手を添えられて、彼の右手を解放すると、ぎゅっと抱き締められる。
心地よい腕の中にいると、このままの関係を続けていけそうな幻想を抱く。しかし、蒼衣はこの兄妹のような、温かだが煮え切らない関係は望まないのだろう。もっと深く繋がりたいと願っているのだろう。
――胸が苦しいよ……。
蒼衣は紅を離すと立ち上がり、手を差し出した。
「なんとしても、黒曜より先に〝氷雪の精霊〟を見つけましょう。彼の好き勝手にはさせません」
差し出された右手を紅は取り、ゆっくりと立ち上がる。
「そうね。目的が何なのかはわからないけど、先に手に入れた方が良さそうね。――大怪我を負わせておきながら申し訳ないんだけど、協力をお願いできるかしら?」
「えぇ、喜んで」
――今は蒼衣の好意に甘えておこう。
自分は狡いと思いながら、紅は蒼衣に微笑んだのだった。
その後も幾つかの施設を回ったが、進展はなかった。指定の期日もどんどん迫る。
紅は将人の姿が見えなくなるなり、蒼衣に駆け寄った。肩を押さえる右手が赤く濡れている。出血が酷い。
「紅、貴女に怪我は?」
「あたしなら大丈夫。兄様、そんなことより、早く止血をしないと。蹴られた怪我の治療も」
ハンカチを取り出し、傷口よりも心臓に近い位置をきつく縛る。しかしそれだけでは流れる血を止めることができそうにない。
紅は焦る。
「まずいわね……助けを呼びましょう」
ポケットからスマートフォンを取り出す。
「ですが――」
蒼衣の顔が青ざめてきている。将人は浅いと言っていたが、とんでもない怪我だ。
「怪我の理由なんていくらでも捏造できるわ。命に関わるかもしれないのに――待って」
誰に連絡するのが適当なのか迷ってアドレス帳を見ていた紅は、抜折羅の名前を見つけてあることを思い出した。すぐに画面を切り替えてメールを探す。
「……何か妙案でも?」
「ルビーの効能にあるの、こういうときに使えそうなやつが」
抜折羅から貰っていた目的のメールを表示する。ルビーについてまとめたレポートだ。
紅が指先でスクロールすれば、期待した文言にたどり着いた。
「フレイムブラッド、あたしに力を貸して」
右肩に埋まるスタールビーの魔性石〝フレイムブラッド〟に声を掛けると、身体中にその力を感じ取る。
『――ワタシの力を求めますか?』
亡くなった祖母に似た声が耳元でした。フレイムブラッドの声だ。
「えぇ、お願い。蒼衣兄様の傷を癒やしたいの。協力して」
『承知いたしました。《治癒の炎》の力を貸し出しましょう』
身体中に漲っていた力が右手に収束し、柔らかな炎を生む。
『その炎を傷口に流し込んでください』
「了解」
蒼衣の左腕を取ると、十数センチにわたるだろう裂傷に炎を当てる。触れた箇所から炎が体内に流れていく様が幻想的で、思わず見入ってしまう。
――これが《治癒の炎》か……。
意識がぼんやりとして、身体が前に傾く。それを蒼衣は受け止めてくれた。
「もう大丈夫です。紅、力の使いすぎは身体に障ります。やめて下さい」
言われて、はっとした。この力は紅の体力を消耗して、相手を回復させるものなのだ。
「あぁ、うん」
紅は右手を傷から離す。まもなく炎は消え去った。
「血は止まったみたいね」
確認のために血をそっと拭うと、赤い線となって腫れているくらいでほとんど治っていた。
「血色も良くなったみたいだし、これで安心ね。――蒼衣兄様、あたしを護ってくれてありがとう。でも、無茶はしないで。あたしはあなたが傷付く姿は見たくないよ」
蒼衣の瞳を真っ直ぐ見つめて告げる。
自分のために頑張ってくれるのは嬉しいが、約束してもらわないと心配だ。蒼衣が紅を護るために幽閉することを考えてしまう程度には、彼を護るために遠ざけることをつい考えてしまう。でも、それは互いの願うところではないだろう。
紅の視線から蒼衣は逃れるように顔を背けた。
「お気持ちは嬉しいのですが……。私は貴女さえ護れるのであれば、命も惜しくはありませんよ。貴女を手に入れられないなら、私自身など要らないと願ってしまった以上に強く思っているのです」
「蒼衣兄様」
名を呼んで、彼の右手を取り両手で包む。彼の手のひらは血で濡れていたが、そんなことは構わなかった。
蒼衣は顔を背けたままだったが、すっと視線を包まれた手に向け、紅の顔に戻した。それを見て、紅は続ける。
「蒼衣兄様はもっと自分を大切にして。あたしはあなたに犠牲を強いることは望んでない。あなたならできると信じて期待しているあたしの気持ちを裏切って欲しくないの。わかってくれないかしら」
「紅……」
彼の瞳が揺れる。悩むような間を挟んで、蒼衣は向き直り微笑んだ。
「……わかりました。努力しましょう」
左手を添えられて、彼の右手を解放すると、ぎゅっと抱き締められる。
心地よい腕の中にいると、このままの関係を続けていけそうな幻想を抱く。しかし、蒼衣はこの兄妹のような、温かだが煮え切らない関係は望まないのだろう。もっと深く繋がりたいと願っているのだろう。
――胸が苦しいよ……。
蒼衣は紅を離すと立ち上がり、手を差し出した。
「なんとしても、黒曜より先に〝氷雪の精霊〟を見つけましょう。彼の好き勝手にはさせません」
差し出された右手を紅は取り、ゆっくりと立ち上がる。
「そうね。目的が何なのかはわからないけど、先に手に入れた方が良さそうね。――大怪我を負わせておきながら申し訳ないんだけど、協力をお願いできるかしら?」
「えぇ、喜んで」
――今は蒼衣の好意に甘えておこう。
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