宝石の呪いで逆ハーになりましたが、やっぱり嬉しくありません!

一花カナウ

文字の大きさ
96 / 309
黒曜石は鋭さを増して

*8* 10月2日水曜日、放課後【♯】

しおりを挟む
「――蒼衣あおい兄様っ!!」

 こうは将人の姿が見えなくなるなり、蒼衣に駆け寄った。肩を押さえる右手が赤く濡れている。出血が酷い。

「紅、貴女に怪我は?」
「あたしなら大丈夫。兄様、そんなことより、早く止血をしないと。蹴られた怪我の治療も」

 ハンカチを取り出し、傷口よりも心臓に近い位置をきつく縛る。しかしそれだけでは流れる血を止めることができそうにない。
 紅は焦る。

「まずいわね……助けを呼びましょう」

 ポケットからスマートフォンを取り出す。

「ですが――」

 蒼衣の顔が青ざめてきている。将人は浅いと言っていたが、とんでもない怪我だ。

「怪我の理由なんていくらでも捏造ねつぞうできるわ。命に関わるかもしれないのに――待って」

 誰に連絡するのが適当なのか迷ってアドレス帳を見ていた紅は、抜折羅ばさらの名前を見つけてあることを思い出した。すぐに画面を切り替えてメールを探す。

「……何か妙案でも?」
「ルビーの効能にあるの、こういうときに使えそうなやつが」

 抜折羅から貰っていた目的のメールを表示する。ルビーについてまとめたレポートだ。
 紅が指先でスクロールすれば、期待した文言にたどり着いた。

「フレイムブラッド、あたしに力を貸して」

 右肩に埋まるスタールビーの魔性石〝フレイムブラッド〟に声を掛けると、身体中にその力を感じ取る。

『――ワタシの力を求めますか?』

 亡くなった祖母に似た声が耳元でした。フレイムブラッドの声だ。

「えぇ、お願い。蒼衣兄様の傷を癒やしたいの。協力して」
『承知いたしました。《治癒の炎》の力を貸し出しましょう』

 身体中に漲っていた力が右手に収束し、柔らかな炎を生む。

『その炎を傷口に流し込んでください』
「了解」

 蒼衣の左腕を取ると、十数センチにわたるだろう裂傷れっしょうに炎を当てる。触れた箇所から炎が体内に流れていく様が幻想的で、思わず見入ってしまう。

 ――これが《治癒の炎》か……。

 意識がぼんやりとして、身体が前に傾く。それを蒼衣は受け止めてくれた。

「もう大丈夫です。紅、力の使いすぎは身体にさわります。やめて下さい」

 言われて、はっとした。この力は紅の体力を消耗して、相手を回復させるものなのだ。

「あぁ、うん」

 紅は右手を傷から離す。まもなく炎は消え去った。

「血は止まったみたいね」

 確認のために血をそっと拭うと、赤い線となって腫れているくらいでほとんど治っていた。

「血色も良くなったみたいだし、これで安心ね。――蒼衣兄様、あたしを護ってくれてありがとう。でも、無茶はしないで。あたしはあなたが傷付く姿は見たくないよ」

 蒼衣の瞳を真っ直ぐ見つめて告げる。
 自分のために頑張ってくれるのは嬉しいが、約束してもらわないと心配だ。蒼衣が紅を護るために幽閉することを考えてしまう程度には、彼を護るために遠ざけることをつい考えてしまう。でも、それは互いの願うところではないだろう。
 紅の視線から蒼衣は逃れるように顔を背けた。

「お気持ちは嬉しいのですが……。私は貴女さえ護れるのであれば、命も惜しくはありませんよ。貴女を手に入れられないなら、私自身など要らないと願ってしまった以上に強く思っているのです」
「蒼衣兄様」

 名を呼んで、彼の右手を取り両手で包む。彼の手のひらは血で濡れていたが、そんなことは構わなかった。
 蒼衣は顔を背けたままだったが、すっと視線を包まれた手に向け、紅の顔に戻した。それを見て、紅は続ける。

「蒼衣兄様はもっと自分を大切にして。あたしはあなたに犠牲をいることは望んでない。あなたならできると信じて期待しているあたしの気持ちを裏切って欲しくないの。わかってくれないかしら」
「紅……」

 彼の瞳が揺れる。悩むような間を挟んで、蒼衣は向き直り微笑んだ。

「……わかりました。努力しましょう」

 左手を添えられて、彼の右手を解放すると、ぎゅっと抱き締められる。

 心地よい腕の中にいると、このままの関係を続けていけそうな幻想を抱く。しかし、蒼衣はこの兄妹のような、温かだが煮え切らない関係は望まないのだろう。もっと深く繋がりたいと願っているのだろう。

 ――胸が苦しいよ……。

 蒼衣は紅を離すと立ち上がり、手を差し出した。

「なんとしても、黒曜より先に〝氷雪の精霊〟を見つけましょう。彼の好き勝手にはさせません」

 差し出された右手を紅は取り、ゆっくりと立ち上がる。

「そうね。目的が何なのかはわからないけど、先に手に入れた方が良さそうね。――大怪我を負わせておきながら申し訳ないんだけど、協力をお願いできるかしら?」
「えぇ、喜んで」

 ――今は蒼衣の好意に甘えておこう。

 自分はずるいと思いながら、紅は蒼衣に微笑んだのだった。
 


 
 その後も幾つかの施設を回ったが、進展はなかった。指定の期日もどんどん迫る。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

男が少ない世界に転生して

美鈴
ファンタジー
※よりよいものにする為に改稿する事にしました!どうかお付き合い下さいますと幸いです! 旧稿版も一応残しておきますがあのままいくと当初のプロットよりも大幅におかしくなりましたのですいませんが宜しくお願いします! 交通事故に合い意識がどんどん遠くなっていく1人の男性。次に意識が戻った時は病院?前世の一部の記憶はあるが自分に関する事は全て忘れた男が転生したのは男女比が異なる世界。彼はどの様にこの世界で生きていくのだろうか?それはまだ誰も知らないお話。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

【完結】『大江戸妖怪診療所~奇病を治すは鬼の医者~』

月影 朔
歴史・時代
江戸の町外れ、鬼灯横丁で「玄庵診療所」を営むのは、人間離れした美貌を持つ謎の医師・玄庵。常人には視えぬ妖怪や穢れを視る力で、奇病に苦しむ人間や妖怪たちを癒やしています。ひょんなことから助手を務めることになった町娘のおみつは、妖怪の存在に戸惑いながらも、持ち前の行動力と共感力で玄庵の治療を手伝い、彼と共に成長していきます。 飄々とした情報屋の古狐妖怪・古尾や、言葉を解する化け猫・玉藻など、個性豊かな面々が診療所を彩ります。玄庵の過去にまつわる深い謎、人間と妖怪の間に立つ退魔師・竜胆との衝突、そして世界を混乱に陥れる「穢れ」の存在。様々な事件を通して、人間と妖怪の間に紡がれる絆と、未来への希望が描かれる、和風ファンタジー医療譚です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...