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黒き石に降り積もる雪
★10★ 10月11日金曜日、昼休み
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「――で、黒曜将人はなんのタリスマントーカーなんです?」
将人と蒼衣が衝突したのは先週の水曜日。あれから十日近く経っているし、探知系の遊輝が戻ってきて四日は経過している。それだけの時間があれば何かしらの情報は出ているのだろうと思って抜折羅が問うと、二人とも表情を曇らせた。
「……え? 〝スティールハート〟でもわからないって、よっぽどじゃありませんか?」
まさかと思って問うと、遊輝は自身の長い銀髪の先をくるくると指に巻きながら苦笑する。
「なんかうまく避けられちゃうんだよね。僕の探知も万能じゃないわけで、苦手なところを的確に突かれている感じかな。使えない子でごめんね」
言って、肩を竦める。紅が絡んでいるだけに、遊輝が手抜きをしているとは思えない。本当にお手上げなのだろう。
「的確に……偶然ではないとしたら、対策を練ってきているってことですよね?」
ふむと唸って腕を組むと、抜折羅の疑問に蒼衣が答えた。
「可能性は高いかも知れませんね。私と対峙したとき、対策済みだと宣言されましたから」
「なるほど……。他に能力的特徴は? 何か言っていませんでした?」
抜折羅が促すと、蒼衣は小さく唸る。
「そうですね……黒い石のペンジュラムを槍や盾に変形させていましたね。《鎮静の光》を防がれてしまいました。あとは、浄化型だとも」
「そう聞くと、完敗って感じだね。閣下が戦闘向きじゃないのは自明のことだけど」
「悪かったですね。サファイアは後方支援向きの能力なんですよ? 前線での戦いに赴くことが想定されるルビーやダイヤモンドとは違います」
資金援助なら誰にも負けない自信があるのですが――と続く呟きは聞かなかったことにしようと抜折羅は思う。確かにサファイアの効能には財力運の強化はあるのだが、金で解決しようという考えにはどうにも賛同できない。
「結局、紅ちゃんに追っ払ってもらったんだもんね」
むすっとする蒼衣に、からかうように遊輝が指摘する。
「ほっといてください。芸術と美容に特化しているはずなのに、便利な使い方をしている誰かさんにはわかってもらえない悩みなようで」
蒼衣にきっぱり言われて、遊輝は目をキラキラさせた。
「おー。閣下もちゃんと勉強してくれているんだね。ちょっと前と比べたら、面白いくらいには色々返せるようになっていて素直に嬉しい」
「当然です。紅を渡すわけにはいきませんからね」
ふんっと鼻を鳴らす蒼衣に、遊輝はにたぁっと笑む。
「で、そんなに勉強熱心なのに、黒曜くんの魔性石の正体がわからないわけね」
「確証が得られなくて悩んでいるだけです」
不愉快そうに返して、蒼衣はちらりと抜折羅を見る。遊輝も抜折羅に目を向けた。
「抜折羅くんはどう思う? 僕は一応見当がついているんだけど」
その発言は抜折羅への挑戦なのだろう。二人を見て、抜折羅は思った通りのことを答えることにする。
「……そうですね。黒を基調とした石で、浄化型の守りを得意とした石となると、おそらく黒曜将人はオブシディアンのタリスマントーカーでしょう。それもなかなかの使い手である上に、魔性石を抜いた本人のスペックも高そうだ。対決するときには注意が必要ですね」
もらった情報がすべて正しいのなら、ほぼそれで決まりだ。
抜折羅の回答に遊輝が首を傾げる。
「え? 守りが得意なの?」
「えぇ。槍はオブシディアンの物性を活かしたものだと推測できます。オブシディアンって、つまりは黒曜石ですよ。鏃なんかに使うって歴史の授業あたりに出てきたでしょう? あれです」
「遠隔武器にされなくて良かったかも」
血色の悪い顔で遊輝が呟く。
「矢にすると石が手元から離れることになりますから、形状は自分の身体能力に合わせて決めたのだと思いますよ。物性を活かすには身体から石を離すわけにもいかないはずなので」
様々なタリスマントーカーと対峙してきた抜折羅だが、物性を使うにはそういう制限があるらしいと経験則から言える。実際にやってみなければわかり得ないことだ。
「一方、盾は物性ではないです。盾として単体で使用された石はそうありませんし。――だとすると、こちらが本来の魔性石の特性。タリスマントーカー以外にも効力を発揮する《鎮静の光》を弾くのなら、守りを主とした石だと考えて良いでしょう。そうなると、該当するのはオブシディアンです」
「おー、プロが言うと箔がつくね」
遊輝が茶化してくるが、抜折羅は無視して続ける。
「ただ、一点気になることがあるんです」
「気になること、ですか?」
返してきた蒼衣に頷いて応える。
「話によれば、黒曜将人はペンジュラムを使っています。使いこなしているように感じられることから、彼は〝石憑き〟のはずなんです。だのに、どうしてわざわざ別の個体を使っているのか、と」
「それって、抜折羅くんが低レベルな浄化に水晶のクラスターを使っているのと似た理由じゃないの?」
抜折羅の懸念に対し、真面目な顔で遊輝が意見を言う。
「だとしたら、より厄介なことになりそうで……」
おそらく何かしらのタネが仕込まれているのだろう。注意を怠るわけにはいかない。
「――とにかく、一つの能力はオブシディアンと思って間違いないはずです。ただ、他の能力を隠し持っている可能性は捨てがたいということもお忘れなく」
言えることだけは全て伝える。警戒はしておくべきだと、これまでの経験から感じずにはいられない。
「二連敗にならないように注意はしますよ」
「だねー。負けっぱなしは面白くないし。気を引き締めてかからなくちゃ」
抜折羅の注意喚起に、二人は各々の反応をした。
「――星章先輩、貴重な時間を俺に割いてくださってありがとうございました」
そろそろ昼休みが終わる。思いの外時間が掛かった。
「いえ。必要なことでしたから、お気になさらず」
「んじゃ、次は放課後かな?」
遊輝が尋ねたところで、五限開始の五分前を示すチャイムが鳴る。
「ですね。今回は俺も参加しますよ」
「集合場所はあとでメールします。――では、次は放課後に」
蒼衣が場を締めると、三人は生徒会室から出たのだった。
(第四章 黒き石に降り積もる雪 完)
将人と蒼衣が衝突したのは先週の水曜日。あれから十日近く経っているし、探知系の遊輝が戻ってきて四日は経過している。それだけの時間があれば何かしらの情報は出ているのだろうと思って抜折羅が問うと、二人とも表情を曇らせた。
「……え? 〝スティールハート〟でもわからないって、よっぽどじゃありませんか?」
まさかと思って問うと、遊輝は自身の長い銀髪の先をくるくると指に巻きながら苦笑する。
「なんかうまく避けられちゃうんだよね。僕の探知も万能じゃないわけで、苦手なところを的確に突かれている感じかな。使えない子でごめんね」
言って、肩を竦める。紅が絡んでいるだけに、遊輝が手抜きをしているとは思えない。本当にお手上げなのだろう。
「的確に……偶然ではないとしたら、対策を練ってきているってことですよね?」
ふむと唸って腕を組むと、抜折羅の疑問に蒼衣が答えた。
「可能性は高いかも知れませんね。私と対峙したとき、対策済みだと宣言されましたから」
「なるほど……。他に能力的特徴は? 何か言っていませんでした?」
抜折羅が促すと、蒼衣は小さく唸る。
「そうですね……黒い石のペンジュラムを槍や盾に変形させていましたね。《鎮静の光》を防がれてしまいました。あとは、浄化型だとも」
「そう聞くと、完敗って感じだね。閣下が戦闘向きじゃないのは自明のことだけど」
「悪かったですね。サファイアは後方支援向きの能力なんですよ? 前線での戦いに赴くことが想定されるルビーやダイヤモンドとは違います」
資金援助なら誰にも負けない自信があるのですが――と続く呟きは聞かなかったことにしようと抜折羅は思う。確かにサファイアの効能には財力運の強化はあるのだが、金で解決しようという考えにはどうにも賛同できない。
「結局、紅ちゃんに追っ払ってもらったんだもんね」
むすっとする蒼衣に、からかうように遊輝が指摘する。
「ほっといてください。芸術と美容に特化しているはずなのに、便利な使い方をしている誰かさんにはわかってもらえない悩みなようで」
蒼衣にきっぱり言われて、遊輝は目をキラキラさせた。
「おー。閣下もちゃんと勉強してくれているんだね。ちょっと前と比べたら、面白いくらいには色々返せるようになっていて素直に嬉しい」
「当然です。紅を渡すわけにはいきませんからね」
ふんっと鼻を鳴らす蒼衣に、遊輝はにたぁっと笑む。
「で、そんなに勉強熱心なのに、黒曜くんの魔性石の正体がわからないわけね」
「確証が得られなくて悩んでいるだけです」
不愉快そうに返して、蒼衣はちらりと抜折羅を見る。遊輝も抜折羅に目を向けた。
「抜折羅くんはどう思う? 僕は一応見当がついているんだけど」
その発言は抜折羅への挑戦なのだろう。二人を見て、抜折羅は思った通りのことを答えることにする。
「……そうですね。黒を基調とした石で、浄化型の守りを得意とした石となると、おそらく黒曜将人はオブシディアンのタリスマントーカーでしょう。それもなかなかの使い手である上に、魔性石を抜いた本人のスペックも高そうだ。対決するときには注意が必要ですね」
もらった情報がすべて正しいのなら、ほぼそれで決まりだ。
抜折羅の回答に遊輝が首を傾げる。
「え? 守りが得意なの?」
「えぇ。槍はオブシディアンの物性を活かしたものだと推測できます。オブシディアンって、つまりは黒曜石ですよ。鏃なんかに使うって歴史の授業あたりに出てきたでしょう? あれです」
「遠隔武器にされなくて良かったかも」
血色の悪い顔で遊輝が呟く。
「矢にすると石が手元から離れることになりますから、形状は自分の身体能力に合わせて決めたのだと思いますよ。物性を活かすには身体から石を離すわけにもいかないはずなので」
様々なタリスマントーカーと対峙してきた抜折羅だが、物性を使うにはそういう制限があるらしいと経験則から言える。実際にやってみなければわかり得ないことだ。
「一方、盾は物性ではないです。盾として単体で使用された石はそうありませんし。――だとすると、こちらが本来の魔性石の特性。タリスマントーカー以外にも効力を発揮する《鎮静の光》を弾くのなら、守りを主とした石だと考えて良いでしょう。そうなると、該当するのはオブシディアンです」
「おー、プロが言うと箔がつくね」
遊輝が茶化してくるが、抜折羅は無視して続ける。
「ただ、一点気になることがあるんです」
「気になること、ですか?」
返してきた蒼衣に頷いて応える。
「話によれば、黒曜将人はペンジュラムを使っています。使いこなしているように感じられることから、彼は〝石憑き〟のはずなんです。だのに、どうしてわざわざ別の個体を使っているのか、と」
「それって、抜折羅くんが低レベルな浄化に水晶のクラスターを使っているのと似た理由じゃないの?」
抜折羅の懸念に対し、真面目な顔で遊輝が意見を言う。
「だとしたら、より厄介なことになりそうで……」
おそらく何かしらのタネが仕込まれているのだろう。注意を怠るわけにはいかない。
「――とにかく、一つの能力はオブシディアンと思って間違いないはずです。ただ、他の能力を隠し持っている可能性は捨てがたいということもお忘れなく」
言えることだけは全て伝える。警戒はしておくべきだと、これまでの経験から感じずにはいられない。
「二連敗にならないように注意はしますよ」
「だねー。負けっぱなしは面白くないし。気を引き締めてかからなくちゃ」
抜折羅の注意喚起に、二人は各々の反応をした。
「――星章先輩、貴重な時間を俺に割いてくださってありがとうございました」
そろそろ昼休みが終わる。思いの外時間が掛かった。
「いえ。必要なことでしたから、お気になさらず」
「んじゃ、次は放課後かな?」
遊輝が尋ねたところで、五限開始の五分前を示すチャイムが鳴る。
「ですね。今回は俺も参加しますよ」
「集合場所はあとでメールします。――では、次は放課後に」
蒼衣が場を締めると、三人は生徒会室から出たのだった。
(第四章 黒き石に降り積もる雪 完)
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