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【番外編】ルビーという名の特効薬で
★6★ 10月18日金曜日、放課後
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誰かが身体を揺すっているらしい。それを認識して、抜折羅は自分が眠ってしまっていたことに気が付いた。鈍くなっている身体の感覚が少しずつ戻ってくる。
うっすらと目を開ける。焦点がなかなか合わない。ぼんやりとした視界の中で、抜折羅は懸命に相手の特徴の把握に努めた。
視界は明るい茶色とサファイアブルーが大部分を占めている。明るい茶色の部分はサラサラと揺れて、肩より長く伸ばされた髪だとわかる。サファイアブルーは宝杖学院のブレザージャケットだ。
近付けられた顔、それで詳細な部分が見えてきた。少しつり目で二重、瞳は琥珀色。心配そうに眉根を寄せて、顔を覗き込んでいる。赤くてこじんまりした唇が動いており、何やら声を掛けてきているらしいこともわかった。
――あぁ、彼女は……。
そこにいる相手が誰なのか、ようやっと理解できた。抜折羅は唇を動かして、彼女の名を呼ぶ。
「……紅?」
左手を伸ばして、彼女の頬に触れる。柔らかい感触。幻ではないらしい。
「……どうかしたのか?」
「どうかしたのかって、こっちの台詞よ」
声にまで心配そうな色が滲んでいる。頬に触れた抜折羅の手に、紅は包むように右手を重ねた。
――何だろう。とても心地良い……。
彼女に触れ、触れられている部分から力が流れてくるように感じられる。
「声を掛けてもなかなか反応がなかったから、ものすごく心配した。なんで給湯室で意識失ってんのよ」
「あぁ、それは――」
自分のやらかしたことが情けなすぎて一瞬言いよどむ。紅から顔をそむけて続ける。
「うっかり締め出されたから」
「らしくないミスね」
しょうがないなぁと言いたげに紅は告げると、彼女は立ち上がって抜折羅に手を差し出した。
「こんなことで、あたしのカードキーが役に立つなんてね。大丈夫、中に入れるわよ」
すっかり忘れていた。先日、紅をタリスマンオーダー社のバイトとして雇うにあたり、彼女にここのカードキーを渡していたのだ。
「助かる。――だが、どうして紅が?」
「高熱出して倒れているって聞いたら、様子くらい見に行くわよ」
「そうか……」
紅の手を借りて立ち上がろうとする。が――。
「あっ」
熱が高くて身体がいうことをきいてくれない。徐々に立ち上がったものの、見事にバランスを崩して紅へと身体が傾く。平均的な彼女の背丈で、筋肉質な抜折羅の身体を支えることは当然のように難しい。
「ひゃっ!?」
壁に手をついた衝撃で大きな音が廊下まで響いた。
「すまない……大丈夫か?」
抜折羅は壁に手を置き、壁との間に挟んでしまった紅を見下ろす。
「だ、大丈夫。すごくびっくりしたけど」
こちらを見上げる彼女の顔は赤い。
「身体がだるくて、うまく動かせないんだ。申し訳ない」
「しかたないことじゃない。謝らなくていいわよ。――肩を貸してあげるから、さっさと部屋にいきましょ」
「恩に着る」
壁と紅のおかげで、一人で給湯室に来たときよりも幾分か早く私室に戻ることができた。
二時間ほど給湯室にいただけなのだが、ソファーベッドがとても恋しい。ふかふかのソファーベッドに横たわると、紅が毛布を掛けてくれた。
「本当に助かった。ありがとう」
「いえいえ。まさか抜折羅がこんなピンチに陥っているとは思わなかったから、すっごく驚いたけど」
「うう……面目ない」
この生活をしていて一度もなかったミスだ。こんなタイミングでやらかすなんて、と抜折羅はしきりに反省する。カードキーを再び忘れることがないように、寝るのに邪魔ではあるが首からさげることにした。すでに実行済みだ。
「薬、ちゃんと飲んでる?」
「飲んだが、効き目が弱いらしい」
原因なら思い当たる節がある。ダイヤモンドの効能に《解毒》というものがある。薬と毒が匙加減であれば、解熱剤に対して影響を与えている可能性は捨てられないだろう。ダイヤモンドのタリスマントーカーである以上、条件に応じて発動してしまうダイヤモンドの効能を抑えるのは難しい。
――ん? 待てよ、効能だったら……。
「それは厄介ね。――夕食には少し早いけど、何か用意してあげようか? 体力を回復させないと、どうにもならないってことでしょ?」
「いや、それよりも紅に頼みたいことがある」
買い物に出るつもりらしい紅を、抜折羅はすぐに引き止めた。背を向けていた彼女は不思議そうな顔を抜折羅に向ける。
「……頼みたいこと?」
「少しだけでいい、添い寝を頼めないか?」
うっすらと目を開ける。焦点がなかなか合わない。ぼんやりとした視界の中で、抜折羅は懸命に相手の特徴の把握に努めた。
視界は明るい茶色とサファイアブルーが大部分を占めている。明るい茶色の部分はサラサラと揺れて、肩より長く伸ばされた髪だとわかる。サファイアブルーは宝杖学院のブレザージャケットだ。
近付けられた顔、それで詳細な部分が見えてきた。少しつり目で二重、瞳は琥珀色。心配そうに眉根を寄せて、顔を覗き込んでいる。赤くてこじんまりした唇が動いており、何やら声を掛けてきているらしいこともわかった。
――あぁ、彼女は……。
そこにいる相手が誰なのか、ようやっと理解できた。抜折羅は唇を動かして、彼女の名を呼ぶ。
「……紅?」
左手を伸ばして、彼女の頬に触れる。柔らかい感触。幻ではないらしい。
「……どうかしたのか?」
「どうかしたのかって、こっちの台詞よ」
声にまで心配そうな色が滲んでいる。頬に触れた抜折羅の手に、紅は包むように右手を重ねた。
――何だろう。とても心地良い……。
彼女に触れ、触れられている部分から力が流れてくるように感じられる。
「声を掛けてもなかなか反応がなかったから、ものすごく心配した。なんで給湯室で意識失ってんのよ」
「あぁ、それは――」
自分のやらかしたことが情けなすぎて一瞬言いよどむ。紅から顔をそむけて続ける。
「うっかり締め出されたから」
「らしくないミスね」
しょうがないなぁと言いたげに紅は告げると、彼女は立ち上がって抜折羅に手を差し出した。
「こんなことで、あたしのカードキーが役に立つなんてね。大丈夫、中に入れるわよ」
すっかり忘れていた。先日、紅をタリスマンオーダー社のバイトとして雇うにあたり、彼女にここのカードキーを渡していたのだ。
「助かる。――だが、どうして紅が?」
「高熱出して倒れているって聞いたら、様子くらい見に行くわよ」
「そうか……」
紅の手を借りて立ち上がろうとする。が――。
「あっ」
熱が高くて身体がいうことをきいてくれない。徐々に立ち上がったものの、見事にバランスを崩して紅へと身体が傾く。平均的な彼女の背丈で、筋肉質な抜折羅の身体を支えることは当然のように難しい。
「ひゃっ!?」
壁に手をついた衝撃で大きな音が廊下まで響いた。
「すまない……大丈夫か?」
抜折羅は壁に手を置き、壁との間に挟んでしまった紅を見下ろす。
「だ、大丈夫。すごくびっくりしたけど」
こちらを見上げる彼女の顔は赤い。
「身体がだるくて、うまく動かせないんだ。申し訳ない」
「しかたないことじゃない。謝らなくていいわよ。――肩を貸してあげるから、さっさと部屋にいきましょ」
「恩に着る」
壁と紅のおかげで、一人で給湯室に来たときよりも幾分か早く私室に戻ることができた。
二時間ほど給湯室にいただけなのだが、ソファーベッドがとても恋しい。ふかふかのソファーベッドに横たわると、紅が毛布を掛けてくれた。
「本当に助かった。ありがとう」
「いえいえ。まさか抜折羅がこんなピンチに陥っているとは思わなかったから、すっごく驚いたけど」
「うう……面目ない」
この生活をしていて一度もなかったミスだ。こんなタイミングでやらかすなんて、と抜折羅はしきりに反省する。カードキーを再び忘れることがないように、寝るのに邪魔ではあるが首からさげることにした。すでに実行済みだ。
「薬、ちゃんと飲んでる?」
「飲んだが、効き目が弱いらしい」
原因なら思い当たる節がある。ダイヤモンドの効能に《解毒》というものがある。薬と毒が匙加減であれば、解熱剤に対して影響を与えている可能性は捨てられないだろう。ダイヤモンドのタリスマントーカーである以上、条件に応じて発動してしまうダイヤモンドの効能を抑えるのは難しい。
――ん? 待てよ、効能だったら……。
「それは厄介ね。――夕食には少し早いけど、何か用意してあげようか? 体力を回復させないと、どうにもならないってことでしょ?」
「いや、それよりも紅に頼みたいことがある」
買い物に出るつもりらしい紅を、抜折羅はすぐに引き止めた。背を向けていた彼女は不思議そうな顔を抜折羅に向ける。
「……頼みたいこと?」
「少しだけでいい、添い寝を頼めないか?」
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