宝石の呪いで逆ハーになりましたが、やっぱり嬉しくありません!

一花カナウ

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【番外編】キューピットストーンの粋な計らい

★14★

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 タルトを食べ終えて、お皿の片付けも済ませた。時刻は二十一時前で、ほぼ想定通りだ。

こう、そろそろお暇しようか?」

 抜折羅ばさらは壁を向いて立っていた紅に声を掛ける。彼女の視線の先にあるのは、色鮮やかな花柄のフォトフレーム。写真を見ているらしい。

「そうね。もう、いい時間だし」

 緋色のベルトがついた腕時計で時刻を確認して、紅は答える。

「何か気になることでもあるのか? じっと見つめて」

 えー、もう帰っちゃうのー――という遊輝ゆうきの寂しがる声をBGMに、抜折羅は問う。

「家族写真……だと思うんだけど」

 曖昧な言い方をされたので、自分でもその写真を見てみる。
 フォトフレームには幾つかの写真が入るようになっていた。左側の上部には結婚式のときのものと思われる写真が、その下には遊輝と思われる赤ん坊の写真がある。

 ――白浪しらなみ先輩は母親似なんだな。

 彼の母親の顔を知らなかったときは、彫刻家である父親に似た面影があると感じていた。だが、この結婚式の写真の幸せそうな新婦を見ると、今の遊輝は彼女にそっくりだ。女顔だと思ったことはあるが、こうして見ればなるほど納得できる。
 写真の二人は全身が入るように撮影されているために顔は小さいが、顔立ちが整っているだろうことは陰影や輪郭からわかる。燕尾服姿とウェディングドレス姿はシルエットがとても綺麗で、スタイルの良さが窺える。美男美女のカップルなのだろう。

 ――あれ?

 写真は全部で五枚だ。左側の列に二枚、中央に一枚、右側に二枚と並ぶ。中央の写真は七五三の時のものとおぼしき三人が並ぶ写真で、右側の上部にあるのは父親と小学校高学年くらいの遊輝がオブジェの前に並んでいる写真である。
 気になったのは右側の下部にある写真。ポスターの前に、よく似た女性が二人並んでいるように見える。一人は遊輝の母親だろうが、もう一人いる麦わら帽子に白いワンピースを合わせた少女は誰だろう。

「ねぇ、なんか変でしょ?」

 声を潜めて、紅が問い掛けてくる。抜折羅の引っかかりと彼女の疑問は一致していそうだ。

「……なぁ、白浪先輩?」

 抜折羅は思い切って訊いてみることにした。黙っているのは気持ちが悪い。

「ん? なんだい?」

 問い掛けると、いじけていた遊輝はパッと明かりが灯ったみたいな笑顔を作って首を傾げる。

「白浪先輩には妹がいるんですか?」

 一人っ子だと思っていたが、この写真からするとその可能性は否定できない。
 抜折羅が問うと、遊輝は面白そうに笑った。

「いないいない。妹がいてくれたら、どれだけ良かったかって思ったこともあったくらいだよ」
「え、でも、じゃあ、この写真は……?」

 指で示したのは紅だ。遊輝が近付いて覗き込む。

「あ……まさか」

 抜折羅は遊輝の横顔を見て気が付いた。この写真の人物は、今目の前にいる――。

「それは僕だよ。結構、フツーに見えるでしょ?」

 珍しく、彼は苦笑いを浮かべていた。

「なまじ母さんに似ちゃったものだから、母さんの着せ替え人形にされてて。整った顔に産んでもらえたことには感謝しているけど、女顔の自分を好きになれなかった理由はそこだよね。妹を産んでくれたら良いのにって、思春期に入る少し前から本気で願っていたよ」
「嫌なら、写真変えれば良かったんじゃ……」

 抜折羅が小さな声で指摘してやると、遊輝が肩を竦めた。

「そうしたいところなんだけどさ、やたらと偵察がうるさくて。ほら、説明したでしょ? ここ、彼らの愛人が出入りするって。今でもふらりと立ち寄って、様子を両親に報告してるみたいだから、気は抜けないよ。その写真、母さんのお気に入りで、前に引っこ抜いたらとんでもない制裁を加えられたから、もう冒険はしたくない」

 答えて、彼は身体を震わせた。どうも遊輝にとっての天敵は母親のようだ。

 ――まぁ、俺の場合は養母とはいえ、苦手だもんな……。

 悪い人ではないとは思っているが、必要以上に構ってきたり、マナーやルールにうるさかったりと、少々距離が掴みにくい相手だ。さっさと宝石学資格を取得して独り立ちすることにしたのも、魔性石による呪いの解除を早めたかったからだけでなく、そういう事情がある。

「ん……?」

 ポケットに入れていたスマートフォンが震えた。渋々取り出すと、画面には養母の名前が表示されている。条件反射というものらしく、冷や汗が流れ出した。

「……電話?」

 紅の問いに、抜折羅は唾液をゴクリと飲み込んでから頷く。

「すまないが、少し席を外す。すぐに戻るから」

 ブルブル震えるスマートフォンを握り締めたまま、紅と遊輝から離れる。階段を下り掛けて、抜折羅は振り返った。

「白浪先輩は紅に手を出さないでくださいねっ!」

 念のために名指しで告げると、通話状態に切り替えながら薄暗い階段を下りた。
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