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【番外編】キューピットストーンの粋な計らい
★17★
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養母からの電話は、近況報告とクリスマスパーティーの話だった。冬休みに入ったらすぐにワシントンの本社に顔を出すように、とのことだ。
――何も、このタイミングで電話してこなくても良いだろうに……。
本人に言うと十倍以上になって返ってくるし、電話をさっさと切り上げたかった抜折羅としては、電話の前でうんうんと頷くしかできなかった。社長業で忙しい養母が電話を掛けてくるのは稀だが、それだけに蔑ろにすればあとが面倒くさい。だから、気が乗らなくても電話に出る選択肢しかないのだ。
「……って」
階段を上って目に入った光景に、思わず頭に血が上った。明らかに何かあった様子で床に座り込み首に手を当てている紅と、いかにも無関係を装って距離を取っている遊輝の姿があったからだ。
「紅っ!?」
抜折羅は急いで紅の前に回ると、視線を合わせるために膝立ちになって彼女の肩に手を載せた。
「悪い。白浪先輩に何かされたんだろ?」
問いに、紅は顔を伏せて小さく頷く。
「また、逃げ遅れちゃった。あたしが悪いの。抜折羅の所為じゃない」
「だが」
「ごめん」
「…………」
しゅんとしている彼女を責めるつもりはない。反省はしてくれている。ただ、反省が活かせないだけ。相手が悪い。
抜折羅は立ち上がると、遊輝に向き直った。
「紅に何をした?」
いつもならうまく隠せている感情が、声にしっかりと反映されている。激しさを伴う怒りの感情は簡単に抑えられないようだ。
抜折羅の問いに対し、遊輝は困ったように笑った。
「キスと少々。抜折羅くんが紅ちゃんを満足させてあげられているのかな、って思って」
「余計なことを……」
人の勝手ではないか。それぞれのペースで、それぞれの関係を築いていけばそれで構わないはずだ。他人にとやかく言われたくないし、探られたくもない。
ムスッとしていると、遊輝が続ける。
「あと、抜折羅くんの、紅ちゃんを独占したいって気持ちがわかったから、お兄さん的には安心したかも」
「俺は独占したいとは思っちゃいないっ!」
反論すると、遊輝は不思議そうな顔をする。
「そう? 彼女が他の男に触れられるのが嫌だと思う気持ちは、自分だけのものにしておきたいって気持ちから来るものだと思うんだけど……違うのかい?」
「俺は紅の気持ちに応えたいだけだ。彼女が望むことをさせてやりたいし、彼女が望まないことは極力取り除いてやりたい。――紅はあんたを受け入れたわけじゃないんだろ? 拒んだんじゃないのか?」
紅が自分から誘うような女ではないことはよくわかっているつもりだ。
抜折羅自身も詳しい方ではないが、彼女は恋愛のノウハウというものを理解しているようには見えない。抱きついてきたり、自分からキスをしてみたりと、多少大胆に振る舞うこともあるのだが、どことなくぎこちなくて初々しい。男を誘える女なら、もっとうまくやりそうな気がする。
――あの照れや恥じらいが俺を釣るための演技だったら、衝撃的だがな……。
「そう主張するなら、そういうことにしておいてあげる。――強引な手を使うのを避けているから時間が掛かっているけど、僕はかなりの確率で彼女を落とせると思っているよ? 紅ちゃん、なんだかんだ口では言っても、身体は素直なんだもの。準備して挑めば、より確実だよね」
「その機会が来ないように、全力で阻止してやるっ!」
「うん、頑張って」
馬鹿にされているとしか思えない、遊輝の満面の笑み。だが、彼が対抗してくる気配がなく、のらりくらりとかわしているような感じで手応えがないので、怒りの気持ちは萎えてしまった。
――白浪先輩の手のひらの上で踊らされている気がする……。
怒りは引いたが、不満な気持ちはくすぶったままだ。どうしたら充たされるのか、あるいは解消されるのか、抜折羅には方法がわからない。
「良かったね、紅ちゃん。抜折羅くんに愛されていて」
「そんなの、言われなくてもわかってますよっ!」
「ふふっ、照れちゃってー。二人とも可愛いなぁ」
やっぱり、からかわれている。
遊輝が紅を本当に好いているのかは、実のところよくわからない。彼は「彼女を好きだ」と、ところかまわず言いふらしているわけだが、抜折羅が紅に寄せている感情とは違う気がするのだ。原因は不明だが、なんとなく。
――何も、このタイミングで電話してこなくても良いだろうに……。
本人に言うと十倍以上になって返ってくるし、電話をさっさと切り上げたかった抜折羅としては、電話の前でうんうんと頷くしかできなかった。社長業で忙しい養母が電話を掛けてくるのは稀だが、それだけに蔑ろにすればあとが面倒くさい。だから、気が乗らなくても電話に出る選択肢しかないのだ。
「……って」
階段を上って目に入った光景に、思わず頭に血が上った。明らかに何かあった様子で床に座り込み首に手を当てている紅と、いかにも無関係を装って距離を取っている遊輝の姿があったからだ。
「紅っ!?」
抜折羅は急いで紅の前に回ると、視線を合わせるために膝立ちになって彼女の肩に手を載せた。
「悪い。白浪先輩に何かされたんだろ?」
問いに、紅は顔を伏せて小さく頷く。
「また、逃げ遅れちゃった。あたしが悪いの。抜折羅の所為じゃない」
「だが」
「ごめん」
「…………」
しゅんとしている彼女を責めるつもりはない。反省はしてくれている。ただ、反省が活かせないだけ。相手が悪い。
抜折羅は立ち上がると、遊輝に向き直った。
「紅に何をした?」
いつもならうまく隠せている感情が、声にしっかりと反映されている。激しさを伴う怒りの感情は簡単に抑えられないようだ。
抜折羅の問いに対し、遊輝は困ったように笑った。
「キスと少々。抜折羅くんが紅ちゃんを満足させてあげられているのかな、って思って」
「余計なことを……」
人の勝手ではないか。それぞれのペースで、それぞれの関係を築いていけばそれで構わないはずだ。他人にとやかく言われたくないし、探られたくもない。
ムスッとしていると、遊輝が続ける。
「あと、抜折羅くんの、紅ちゃんを独占したいって気持ちがわかったから、お兄さん的には安心したかも」
「俺は独占したいとは思っちゃいないっ!」
反論すると、遊輝は不思議そうな顔をする。
「そう? 彼女が他の男に触れられるのが嫌だと思う気持ちは、自分だけのものにしておきたいって気持ちから来るものだと思うんだけど……違うのかい?」
「俺は紅の気持ちに応えたいだけだ。彼女が望むことをさせてやりたいし、彼女が望まないことは極力取り除いてやりたい。――紅はあんたを受け入れたわけじゃないんだろ? 拒んだんじゃないのか?」
紅が自分から誘うような女ではないことはよくわかっているつもりだ。
抜折羅自身も詳しい方ではないが、彼女は恋愛のノウハウというものを理解しているようには見えない。抱きついてきたり、自分からキスをしてみたりと、多少大胆に振る舞うこともあるのだが、どことなくぎこちなくて初々しい。男を誘える女なら、もっとうまくやりそうな気がする。
――あの照れや恥じらいが俺を釣るための演技だったら、衝撃的だがな……。
「そう主張するなら、そういうことにしておいてあげる。――強引な手を使うのを避けているから時間が掛かっているけど、僕はかなりの確率で彼女を落とせると思っているよ? 紅ちゃん、なんだかんだ口では言っても、身体は素直なんだもの。準備して挑めば、より確実だよね」
「その機会が来ないように、全力で阻止してやるっ!」
「うん、頑張って」
馬鹿にされているとしか思えない、遊輝の満面の笑み。だが、彼が対抗してくる気配がなく、のらりくらりとかわしているような感じで手応えがないので、怒りの気持ちは萎えてしまった。
――白浪先輩の手のひらの上で踊らされている気がする……。
怒りは引いたが、不満な気持ちはくすぶったままだ。どうしたら充たされるのか、あるいは解消されるのか、抜折羅には方法がわからない。
「良かったね、紅ちゃん。抜折羅くんに愛されていて」
「そんなの、言われなくてもわかってますよっ!」
「ふふっ、照れちゃってー。二人とも可愛いなぁ」
やっぱり、からかわれている。
遊輝が紅を本当に好いているのかは、実のところよくわからない。彼は「彼女を好きだ」と、ところかまわず言いふらしているわけだが、抜折羅が紅に寄せている感情とは違う気がするのだ。原因は不明だが、なんとなく。
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