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【番外編】不機嫌なブルーサファイア(R-18)
*12*【番外編完結】
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いつの間にか寝ていたらしい。正確には、昼間起きたことを夢で追体験していた。全身に汗をかいており、動悸が激しい。
握ったままになっていたスマートフォンを思わず操作して、電話を掛けてしまった。繋がらないならそれでいい。
時刻は二時を少し回ったところだ。早寝早起きを心掛けているらしい彼は眠っている時間だ。
コール音はほとんどしないで繋がった。
「もしもし? 紅なのか?」
寝起きとは思えない感じの調子で話し掛けてきたのは抜折羅だった。
「うん……抜折羅、ごめんね」
「いや。メッセージもなしに電話してきたことってなかったような気がしたから、ちょっと驚きはしたが……」
「でも、寝ていたんでしょ?」
「そうだが、むしろ助かったかも」
「ん?」
「パソコンに向かったまま寝ちまっていたからな。このまま朝まで寝ていたら風邪ひいて寝込むところだったさ」
抜折羅にしてはらしくないことに感じられた。紅に心配を掛けさすまいと咄嗟に嘘をついたのか、それとも事実なのか。
「――で、どうした? こんな時間に」
「うん……なんかすっごく抜折羅の声を聴きたくなって」
本当のことなど言えやしない。抜折羅の迷惑になるのは嫌だ。声を聴きたくなったのは本当のことなのだから、嘘ではない。
紅が小さな声でぼそぼそと告げると、抜折羅はすぐに返事をしなかった。何かを思案しているらしい。
「……紅?」
長い沈黙のあと、優しげな声が聞こえた。
「ん?」
「今からそっちに行ってやろうか?」
「……え?」
聞き間違いではないかと思った。
「なんとなく、緊急事態のような気がする。俺が必要なら、呼び出してくれて構わないんだぞ?」
「だ、大丈夫だよ」
意外な発言だった。行ってやろうかという提案が予想外で嬉しい。
「お前、俺に遠慮しているだろ? そんなの、気にすることないのに。俺がこっちにいる間は頼ってくれて構わない。――いや、頼ってくれよ」
彼の家族はアメリカにいる。今は本人の希望で日本に住んでいるが、呼び戻されるようなことがあれば遠距離恋愛だ。冬休みのほとんどをアメリカで過ごす予定が決まっているそうなので、その期間は顔を合わすことがない。
「抜折羅……」
「一応、俺はお前と付き合っているつもりでいるし、恋人でありたいって思っているんだ。お前が人を頼りたがらない性格だってことは、俺にも似たようなところがあるからわかるさ。だから、俺は言う。お前は俺を頼るべきだ。もっと我が儘をぶつけるべきだ。……違うか?」
寝起きの抜折羅はよく喋る傾向がある。日常的に理性で押さえ込んでいるあらゆる感情が、寝ぼけているが故に表に出がちらしい。
「うん……そうだね」
――その言葉だけで充分だよ。
彼の思いがけない台詞が心にしみる。口下手に感じられる抜折羅の言葉には、一生懸命な気持ちが滲んでいる。その想いが嬉しくてたまらない。
「紅? 本当に大丈夫なのか? これから会うのは現実的ではないにしても、お前が寝付くまで電話を続けるくらいのことはできると思うが」
どうすれば良いのか、彼は彼なりに色々と考えを巡らしているらしかった。
見えていないとわかっていながら、紅は小さく首を横に振る。
「ありがとう。心配かけてごめんね。もう大丈夫」
「謝るなって。こういうときは、電話するものなんだろ?」
「うん……まぁ、ね。お陰で元気出てきたよ」
「それなら良いんだが……」
心配そうな声。納得していないようだ。
紅は彼をそんな気分にさせてしまったことが申し訳なくて、ある提案を思い付いた。
「ねぇ、抜折羅? 明日の夕方、そっちに行っていい?」
明日は授業がない。部活動に所属していない抜折羅とは学校で会うことがない日だ。
返事はすぐだった。
「あぁ、どうぞ。急ぎの仕事もないから、好きなだけゆっくりしていけよ。出掛ける用事も来客もないから、いつ来ても問題ない」
「うん。わかった。ありがとう。会えるのを楽しみにしてる」
「茶菓子くらいは用意して待ってるから」
甘いものが苦手である彼が茶菓子を用意すると言っているのだから、長居をしていけと誘っているのと同義だ。それだけ心配してくれているのだとよくわかる。
「うん。――電話に出てくれて、すっごく嬉しかった。ありがとう、抜折羅。また寝るね。おやすみなさい」
「おやすみ、紅。良い夢を」
通話を切ったのは紅の方だった。充電器にスマートフォンをセットすると、羽毛掛け布団の中に潜り込む。
ささやかではあったけど、とても幸せな時間を過ごせた。思いがけない優しい台詞に胸がキュンとした。
――やっぱりあたしは抜折羅が好き。ううん。抜折羅じゃなきゃダメなの……。
明日はぎゅっと抱き締めてもらおう――そう思いながら、目蓋を閉じた。
(不機嫌なブルーサファイア ~タリスマン*トーカー 短編~ 終わり)
握ったままになっていたスマートフォンを思わず操作して、電話を掛けてしまった。繋がらないならそれでいい。
時刻は二時を少し回ったところだ。早寝早起きを心掛けているらしい彼は眠っている時間だ。
コール音はほとんどしないで繋がった。
「もしもし? 紅なのか?」
寝起きとは思えない感じの調子で話し掛けてきたのは抜折羅だった。
「うん……抜折羅、ごめんね」
「いや。メッセージもなしに電話してきたことってなかったような気がしたから、ちょっと驚きはしたが……」
「でも、寝ていたんでしょ?」
「そうだが、むしろ助かったかも」
「ん?」
「パソコンに向かったまま寝ちまっていたからな。このまま朝まで寝ていたら風邪ひいて寝込むところだったさ」
抜折羅にしてはらしくないことに感じられた。紅に心配を掛けさすまいと咄嗟に嘘をついたのか、それとも事実なのか。
「――で、どうした? こんな時間に」
「うん……なんかすっごく抜折羅の声を聴きたくなって」
本当のことなど言えやしない。抜折羅の迷惑になるのは嫌だ。声を聴きたくなったのは本当のことなのだから、嘘ではない。
紅が小さな声でぼそぼそと告げると、抜折羅はすぐに返事をしなかった。何かを思案しているらしい。
「……紅?」
長い沈黙のあと、優しげな声が聞こえた。
「ん?」
「今からそっちに行ってやろうか?」
「……え?」
聞き間違いではないかと思った。
「なんとなく、緊急事態のような気がする。俺が必要なら、呼び出してくれて構わないんだぞ?」
「だ、大丈夫だよ」
意外な発言だった。行ってやろうかという提案が予想外で嬉しい。
「お前、俺に遠慮しているだろ? そんなの、気にすることないのに。俺がこっちにいる間は頼ってくれて構わない。――いや、頼ってくれよ」
彼の家族はアメリカにいる。今は本人の希望で日本に住んでいるが、呼び戻されるようなことがあれば遠距離恋愛だ。冬休みのほとんどをアメリカで過ごす予定が決まっているそうなので、その期間は顔を合わすことがない。
「抜折羅……」
「一応、俺はお前と付き合っているつもりでいるし、恋人でありたいって思っているんだ。お前が人を頼りたがらない性格だってことは、俺にも似たようなところがあるからわかるさ。だから、俺は言う。お前は俺を頼るべきだ。もっと我が儘をぶつけるべきだ。……違うか?」
寝起きの抜折羅はよく喋る傾向がある。日常的に理性で押さえ込んでいるあらゆる感情が、寝ぼけているが故に表に出がちらしい。
「うん……そうだね」
――その言葉だけで充分だよ。
彼の思いがけない台詞が心にしみる。口下手に感じられる抜折羅の言葉には、一生懸命な気持ちが滲んでいる。その想いが嬉しくてたまらない。
「紅? 本当に大丈夫なのか? これから会うのは現実的ではないにしても、お前が寝付くまで電話を続けるくらいのことはできると思うが」
どうすれば良いのか、彼は彼なりに色々と考えを巡らしているらしかった。
見えていないとわかっていながら、紅は小さく首を横に振る。
「ありがとう。心配かけてごめんね。もう大丈夫」
「謝るなって。こういうときは、電話するものなんだろ?」
「うん……まぁ、ね。お陰で元気出てきたよ」
「それなら良いんだが……」
心配そうな声。納得していないようだ。
紅は彼をそんな気分にさせてしまったことが申し訳なくて、ある提案を思い付いた。
「ねぇ、抜折羅? 明日の夕方、そっちに行っていい?」
明日は授業がない。部活動に所属していない抜折羅とは学校で会うことがない日だ。
返事はすぐだった。
「あぁ、どうぞ。急ぎの仕事もないから、好きなだけゆっくりしていけよ。出掛ける用事も来客もないから、いつ来ても問題ない」
「うん。わかった。ありがとう。会えるのを楽しみにしてる」
「茶菓子くらいは用意して待ってるから」
甘いものが苦手である彼が茶菓子を用意すると言っているのだから、長居をしていけと誘っているのと同義だ。それだけ心配してくれているのだとよくわかる。
「うん。――電話に出てくれて、すっごく嬉しかった。ありがとう、抜折羅。また寝るね。おやすみなさい」
「おやすみ、紅。良い夢を」
通話を切ったのは紅の方だった。充電器にスマートフォンをセットすると、羽毛掛け布団の中に潜り込む。
ささやかではあったけど、とても幸せな時間を過ごせた。思いがけない優しい台詞に胸がキュンとした。
――やっぱりあたしは抜折羅が好き。ううん。抜折羅じゃなきゃダメなの……。
明日はぎゅっと抱き締めてもらおう――そう思いながら、目蓋を閉じた。
(不機嫌なブルーサファイア ~タリスマン*トーカー 短編~ 終わり)
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