宝石の呪いで逆ハーになりましたが、やっぱり嬉しくありません!

一花カナウ

文字の大きさ
207 / 309
【番外編】不機嫌なブルーサファイア(R-18)

*12*【番外編完結】

しおりを挟む
 いつの間にか寝ていたらしい。正確には、昼間起きたことを夢で追体験していた。全身に汗をかいており、動悸が激しい。
 握ったままになっていたスマートフォンを思わず操作して、電話を掛けてしまった。繋がらないならそれでいい。
 時刻は二時を少し回ったところだ。早寝早起きを心掛けているらしい彼は眠っている時間だ。
 コール音はほとんどしないで繋がった。

「もしもし? こうなのか?」

 寝起きとは思えない感じの調子で話し掛けてきたのは抜折羅ばさらだった。

「うん……抜折羅、ごめんね」
「いや。メッセージもなしに電話してきたことってなかったような気がしたから、ちょっと驚きはしたが……」
「でも、寝ていたんでしょ?」
「そうだが、むしろ助かったかも」
「ん?」
「パソコンに向かったまま寝ちまっていたからな。このまま朝まで寝ていたら風邪ひいて寝込むところだったさ」

 抜折羅にしてはらしくないことに感じられた。紅に心配を掛けさすまいと咄嗟に嘘をついたのか、それとも事実なのか。

「――で、どうした? こんな時間に」
「うん……なんかすっごく抜折羅の声を聴きたくなって」

 本当のことなど言えやしない。抜折羅の迷惑になるのは嫌だ。声を聴きたくなったのは本当のことなのだから、嘘ではない。
 紅が小さな声でぼそぼそと告げると、抜折羅はすぐに返事をしなかった。何かを思案しているらしい。

「……紅?」

 長い沈黙のあと、優しげな声が聞こえた。

「ん?」
「今からそっちに行ってやろうか?」
「……え?」

 聞き間違いではないかと思った。

「なんとなく、緊急事態のような気がする。俺が必要なら、呼び出してくれて構わないんだぞ?」
「だ、大丈夫だよ」

 意外な発言だった。行ってやろうかという提案が予想外で嬉しい。

「お前、俺に遠慮しているだろ? そんなの、気にすることないのに。俺がこっちにいる間は頼ってくれて構わない。――いや、頼ってくれよ」

 彼の家族はアメリカにいる。今は本人の希望で日本に住んでいるが、呼び戻されるようなことがあれば遠距離恋愛だ。冬休みのほとんどをアメリカで過ごす予定が決まっているそうなので、その期間は顔を合わすことがない。

「抜折羅……」
「一応、俺はお前と付き合っているつもりでいるし、恋人でありたいって思っているんだ。お前が人を頼りたがらない性格だってことは、俺にも似たようなところがあるからわかるさ。だから、俺は言う。お前は俺を頼るべきだ。もっと我が儘をぶつけるべきだ。……違うか?」

 寝起きの抜折羅はよく喋る傾向がある。日常的に理性で押さえ込んでいるあらゆる感情が、寝ぼけているが故に表に出がちらしい。

「うん……そうだね」

 ――その言葉だけで充分だよ。

 彼の思いがけない台詞が心にしみる。口下手に感じられる抜折羅の言葉には、一生懸命な気持ちが滲んでいる。その想いが嬉しくてたまらない。

「紅? 本当に大丈夫なのか? これから会うのは現実的ではないにしても、お前が寝付くまで電話を続けるくらいのことはできると思うが」

 どうすれば良いのか、彼は彼なりに色々と考えを巡らしているらしかった。
 見えていないとわかっていながら、紅は小さく首を横に振る。

「ありがとう。心配かけてごめんね。もう大丈夫」
「謝るなって。こういうときは、電話するものなんだろ?」
「うん……まぁ、ね。お陰で元気出てきたよ」
「それなら良いんだが……」

 心配そうな声。納得していないようだ。
 紅は彼をそんな気分にさせてしまったことが申し訳なくて、ある提案を思い付いた。

「ねぇ、抜折羅? 明日の夕方、そっちに行っていい?」

 明日は授業がない。部活動に所属していない抜折羅とは学校で会うことがない日だ。
 返事はすぐだった。

「あぁ、どうぞ。急ぎの仕事もないから、好きなだけゆっくりしていけよ。出掛ける用事も来客もないから、いつ来ても問題ない」
「うん。わかった。ありがとう。会えるのを楽しみにしてる」
「茶菓子くらいは用意して待ってるから」

 甘いものが苦手である彼が茶菓子を用意すると言っているのだから、長居をしていけと誘っているのと同義だ。それだけ心配してくれているのだとよくわかる。

「うん。――電話に出てくれて、すっごく嬉しかった。ありがとう、抜折羅。また寝るね。おやすみなさい」
「おやすみ、紅。良い夢を」

 通話を切ったのは紅の方だった。充電器にスマートフォンをセットすると、羽毛掛け布団の中に潜り込む。
 ささやかではあったけど、とても幸せな時間を過ごせた。思いがけない優しい台詞に胸がキュンとした。

 ――やっぱりあたしは抜折羅が好き。ううん。抜折羅じゃなきゃダメなの……。

 明日はぎゅっと抱き締めてもらおう――そう思いながら、目蓋を閉じた。


(不機嫌なブルーサファイア ~タリスマン*トーカー 短編~ 終わり)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

男が少ない世界に転生して

美鈴
ファンタジー
※よりよいものにする為に改稿する事にしました!どうかお付き合い下さいますと幸いです! 旧稿版も一応残しておきますがあのままいくと当初のプロットよりも大幅におかしくなりましたのですいませんが宜しくお願いします! 交通事故に合い意識がどんどん遠くなっていく1人の男性。次に意識が戻った時は病院?前世の一部の記憶はあるが自分に関する事は全て忘れた男が転生したのは男女比が異なる世界。彼はどの様にこの世界で生きていくのだろうか?それはまだ誰も知らないお話。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

【完結】『大江戸妖怪診療所~奇病を治すは鬼の医者~』

月影 朔
歴史・時代
江戸の町外れ、鬼灯横丁で「玄庵診療所」を営むのは、人間離れした美貌を持つ謎の医師・玄庵。常人には視えぬ妖怪や穢れを視る力で、奇病に苦しむ人間や妖怪たちを癒やしています。ひょんなことから助手を務めることになった町娘のおみつは、妖怪の存在に戸惑いながらも、持ち前の行動力と共感力で玄庵の治療を手伝い、彼と共に成長していきます。 飄々とした情報屋の古狐妖怪・古尾や、言葉を解する化け猫・玉藻など、個性豊かな面々が診療所を彩ります。玄庵の過去にまつわる深い謎、人間と妖怪の間に立つ退魔師・竜胆との衝突、そして世界を混乱に陥れる「穢れ」の存在。様々な事件を通して、人間と妖怪の間に紡がれる絆と、未来への希望が描かれる、和風ファンタジー医療譚です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...