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【番外編】Happy Happy Valentine's Day !!
◯2◯ 2月14日金曜日、放課後
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二月十四日金曜日の十六時、放課後。
長い銀髪をなびかせて、白浪遊輝は廊下を早足で歩いていた。
――紅ちゃんが学校に来ていることはわかるのに、今日は障害が多すぎるよぉ……。
周囲にギャラリーができるのは日常茶飯事で慣れている。女の子たちに囲まれるのは悪くない気持ちなのだが、バレンタイン当日である今日は行く先々でお菓子を持った少女に阻まれる。これでは紅に会いたくても会いに行けない。
――星章閣下はファンクラブを利用してうまく捌いていたなぁ。見習っておけば良かったよ。
今更だが、遊輝はそんなことを思って小さく息を吐き出した。
――紅ちゃんが帰っちゃう前にどうにか捕まえないと。
白浪先輩、と呼び掛けられて遊輝は渋々立ち止まる。今日は何人目だろうか。持ち歩いている二つの大きな手提げ袋はすでに中身を溢れさせている。
――もうっ! こうなったら出直して、魔性石を使ってやるっ!
一生懸命に自分の想いを伝えに来る女の子というものは可愛いと思う。だから無碍にはできない。内心苛立ちながらも、遊輝はにこやかに対応した。
「――毎年大変そうね。芸術棟に籠もっていれば良いのに」
告白に来た女の子を見送っていると、遊輝がよく知る声がした。同じ美術科のクラスメート宮古澤彩だ。
「美術室を僕のバレンタイン受け取り会場にして良いなら、それもアリなんだけどね。でも、美術部が困るでしょ?」
「確かにその通り」
互いに美術部に所属している。状況は容易く想像できるだろう。
「彩ちゃんもたくさんチョコを貰ったみたいだね」
宝塚の男役が似合いそうな容姿の彼女は同性からもてる。その証拠のように、彩の足下に置かれた紙袋は口から様々な箱をはみ出させている。
「モテる男のつらさがありありとわかる状況、と言えるんじゃないかしら。私はバレンタインが苦手よ」
「僕も苦手になりそうだよ。本気で好きな女の子に会えないのは困る」
肩を竦める遊輝に、彩は意外そうな顔を向けた。
「火群さんに会っていないの? てっきり奇襲して回収済みかと思っていたわ」
「君は僕の何を見ているの? 今日は恋の障害が多くて会えてないんだ」
「じゃあ、貸しを作ってあげようか?」
言って、彩は制服のポケットからスマートフォンを取り出す。彩が何をしようとしているのか思い至らず、遊輝は首を傾げた。
「――あぁ、火群さん? 今日は美術室に顔を出せるのかしら?」
慣れた仕草で掛けた彩の通話相手は火群紅らしい。
――おおっ! これは千載一遇のチャンス到来♪ 彩ちゃんの頼みなら、紅ちゃんに警戒されずに済む!
紅が彩に憧れているのは知っている。彼女の誘いを紅が断るとは思えない。
「……そう。ちょっとだけで良いから、寄ってくれたらなって。部員にチョコを用意したから、あなたにも分けたいと思って」
その科白が方便であることはすぐにわかった。遊輝は期待の眼差しを向ける。
「じゃあ、十六時半に美術室で」
話はついたようだ。スマートフォンをポケットにしまうと、彩は遊輝に向かって親指を立てた。
「そういうことにしておいたから、行ってらっしゃい」
「流石は彩ちゃん。できる女房を持つと頭が上がらないよ」
付き合いが長いからか、彩は協力的で気が利いている。周りから女房と囁かれているのを知りながらも態度を変えないのはすごいな、と遊輝は思う。
――僕に対して色目を使わない貴重な存在だよなぁ。大事にしないと。
「あなたが機嫌を損ねると、こっちの損失も大きいの。貸しだから、いつかは返して貰うわよ?」
「彩ちゃんのお願いはいつも色気がないから受けたくないんだけど……有り難く借りておくね」
「その紙袋は置いていきなさいよ。預かっておくわ」
手提げ袋を掴んだまま早足で抜けようとした遊輝を彩が止める。
「え? 良いの?」
思いもしなかった申し出に、遊輝は少しだけ警戒する。
「サービスよ」
「おお……明日、雪だったっけ?」
「早く行かないと、私の嘘がばれることになるわよ?」
「お願いします」
潔く紙袋を彩の足下に置くと、遊輝は芸術棟に向かって走った。
長い銀髪をなびかせて、白浪遊輝は廊下を早足で歩いていた。
――紅ちゃんが学校に来ていることはわかるのに、今日は障害が多すぎるよぉ……。
周囲にギャラリーができるのは日常茶飯事で慣れている。女の子たちに囲まれるのは悪くない気持ちなのだが、バレンタイン当日である今日は行く先々でお菓子を持った少女に阻まれる。これでは紅に会いたくても会いに行けない。
――星章閣下はファンクラブを利用してうまく捌いていたなぁ。見習っておけば良かったよ。
今更だが、遊輝はそんなことを思って小さく息を吐き出した。
――紅ちゃんが帰っちゃう前にどうにか捕まえないと。
白浪先輩、と呼び掛けられて遊輝は渋々立ち止まる。今日は何人目だろうか。持ち歩いている二つの大きな手提げ袋はすでに中身を溢れさせている。
――もうっ! こうなったら出直して、魔性石を使ってやるっ!
一生懸命に自分の想いを伝えに来る女の子というものは可愛いと思う。だから無碍にはできない。内心苛立ちながらも、遊輝はにこやかに対応した。
「――毎年大変そうね。芸術棟に籠もっていれば良いのに」
告白に来た女の子を見送っていると、遊輝がよく知る声がした。同じ美術科のクラスメート宮古澤彩だ。
「美術室を僕のバレンタイン受け取り会場にして良いなら、それもアリなんだけどね。でも、美術部が困るでしょ?」
「確かにその通り」
互いに美術部に所属している。状況は容易く想像できるだろう。
「彩ちゃんもたくさんチョコを貰ったみたいだね」
宝塚の男役が似合いそうな容姿の彼女は同性からもてる。その証拠のように、彩の足下に置かれた紙袋は口から様々な箱をはみ出させている。
「モテる男のつらさがありありとわかる状況、と言えるんじゃないかしら。私はバレンタインが苦手よ」
「僕も苦手になりそうだよ。本気で好きな女の子に会えないのは困る」
肩を竦める遊輝に、彩は意外そうな顔を向けた。
「火群さんに会っていないの? てっきり奇襲して回収済みかと思っていたわ」
「君は僕の何を見ているの? 今日は恋の障害が多くて会えてないんだ」
「じゃあ、貸しを作ってあげようか?」
言って、彩は制服のポケットからスマートフォンを取り出す。彩が何をしようとしているのか思い至らず、遊輝は首を傾げた。
「――あぁ、火群さん? 今日は美術室に顔を出せるのかしら?」
慣れた仕草で掛けた彩の通話相手は火群紅らしい。
――おおっ! これは千載一遇のチャンス到来♪ 彩ちゃんの頼みなら、紅ちゃんに警戒されずに済む!
紅が彩に憧れているのは知っている。彼女の誘いを紅が断るとは思えない。
「……そう。ちょっとだけで良いから、寄ってくれたらなって。部員にチョコを用意したから、あなたにも分けたいと思って」
その科白が方便であることはすぐにわかった。遊輝は期待の眼差しを向ける。
「じゃあ、十六時半に美術室で」
話はついたようだ。スマートフォンをポケットにしまうと、彩は遊輝に向かって親指を立てた。
「そういうことにしておいたから、行ってらっしゃい」
「流石は彩ちゃん。できる女房を持つと頭が上がらないよ」
付き合いが長いからか、彩は協力的で気が利いている。周りから女房と囁かれているのを知りながらも態度を変えないのはすごいな、と遊輝は思う。
――僕に対して色目を使わない貴重な存在だよなぁ。大事にしないと。
「あなたが機嫌を損ねると、こっちの損失も大きいの。貸しだから、いつかは返して貰うわよ?」
「彩ちゃんのお願いはいつも色気がないから受けたくないんだけど……有り難く借りておくね」
「その紙袋は置いていきなさいよ。預かっておくわ」
手提げ袋を掴んだまま早足で抜けようとした遊輝を彩が止める。
「え? 良いの?」
思いもしなかった申し出に、遊輝は少しだけ警戒する。
「サービスよ」
「おお……明日、雪だったっけ?」
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「お願いします」
潔く紙袋を彩の足下に置くと、遊輝は芸術棟に向かって走った。
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