宝石の呪いで逆ハーになりましたが、やっぱり嬉しくありません!

一花カナウ

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【番外編】Happy Happy Valentine's Day !!

★6★ 2月14日金曜日、16時半過ぎ

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 同日、十六時半過ぎ。
 金剛こんごう抜折羅ばさらはエキセシオルビル七階にあるタリスマンオーダー社の日本支部に帰ってきていた。

 ――新しい呪いなのか、これは……。

 チョコレートを中心とした箱たちが収まった紙袋を四つ、部屋の入り口に並べる。一人で食べる量を軽く超えている。そもそも、抜折羅は甘いものが得意ではない。消化するには時間が掛かりそうだ。

「おう、やっと帰宅か。君はまたずいぶんとチョコレートを貯めたもんだね」

 事務所に繋がるドアが開き、顔を覗かせたのは一人の少年。やや長めの髪と切れ長な目を持つ背の高い彼は向日むこう陽太ようただった。

「なんであんたがここに?」

 陽太は宝杖学院ほうじょうがくいんの制服を着たままだ。二年生を示す緑色のネクタイは外されており、寛ぎモードらしい。そんな格好からすると、学校から直接事務所に来たのだろう。

赤縞あかしまの姉御からの命令でね。ベルギーからチョコレートを送ったから、二人で分けて食べるようにって。ほれ」

 ――沙織さおり姉ちゃんからね……。

 ほいっと軽く投げられた小箱を抜折羅はうまくキャッチする。

「ビターが君で、ミルクがオレってことで良いんだよな?」
「あぁ」

 包装を解いて中身を確認する。カボションカットの裸石ルースのようなチョコレートが、それこそ宝石のように一つだけ収まっていた。何カラットくらいになるんだろう、などと考え出したところで陽太の声が掛かる。

「これも結構な値になるものなんだろうな。姉御は自分のためにお金を使えば良いのに。オレ、賄賂は受け取りたくないんだけど」

 陽太はタリスマンオーダー社を支援している輸入雑貨店の一人息子だ。そこからの支援が途絶えると、今までのやり方が通じなくなる程度には影響力を持つ。仲良くしておくにこしたことはない。

「沙織姉ちゃんがそこまで深く考える人間だとは思っていないんだが」
「ま、食べちゃったけどね」
「…………」

 何を突っ込んだら正解なのかわからない。

「で、火群ほむらちゃんからは本命チョコ、貰えたの?」

 にやにやしながら問うてくる陽太に、抜折羅は冷たい視線を返す。

 ――ヨータの奴、俺をからかうのが目的か!?

「色々と都合があって貰ってない。だが、監視役のあんたには関係ないことだろ?」
「君が恋愛ごとにかまけて仕事が疎かになっていないかを見張る――それが、オレがここに派遣された理由ってこと、忘れてない?」
「忘れてなどいない。俺は〝ホープ〟の呪いを断ち切るまでは仕事に打ち込むと決めている。あんたの評価に異を唱えたい」
火群ほむらこうに関わるのは出水いずみ千晶ちあきの孫だからって言っていたのは覚えているさ」

 陽太は答えて肩を竦める。

「――で。このあと、火群ちゃんが来るの?」
「その予定だ。だからお前は帰れ」
「事務所で静かにしてる」
「黙って帰れ」

 部屋の一辺に置かれた棚にずらりと並ぶ水晶のクラスターの一つを掴むと、陽太に向ける。これが何を意味しているかぐらい、タリスマンオーダー社の人間と関わってきた陽太ならわかるはずだ。

「おー恐い」

 両手を上げて降参の意を示すと、彼は数歩下がった。

「オレを追い出すってことは、火群ちゃんを押し倒す用意もあるってことだと解釈した。言い分があるなら聞くぜ?」
「あんたらの感性で語って欲しくない。出て行け。さもなくば祟るぞ」
「あんたら、か。どこかの通りすがりと台詞が被ったのがちょいと癪だが、祟り殺されちゃ適わない。おとなしくここは退散としますか」

 陽太は自分の荷物をまとめて持つ。彼も紙袋を持っていた。カラフルな包装紙が覗いている。

「ヨータもずいぶんと貰うんだな」
「義理も多いぜ? バサラに来た本命は何割くらい?」
「わからん」

 即答だった。言われても、概算すらできない。

「わからんってなぁ、君。受け取ったなら、ちゃんと聞いてやらなきゃ」
「うっかり関わりを持って死なれたら困るからな。あまり他人は覚えないようにしている」

 大真面目に答えると、陽太は少し俯いて自身の額を小さく掻いた。

「これだから天然タラシは……」

 陽太の台詞の意味が抜折羅にはわからない。

「――とにかく。君たちが一線を越えないように見守るのも仕事の一部だ。オレは忠告したからな。何か起これば責任は取ってもらうぞ」
「何を想定しているのかは知らんが、さっさと帰れ。そして明日まで戻るな。ヨータは一応部外者なんだからな、言うことを聞かないなら公的機関に訴えるまでだ」
「クラスターで威嚇して、しまいにゃ警察を呼ぶぞと脅してくるか。一体何を企んでいるやら」
「帰れ」

 抜折羅の瞳に青白い光が宿ったのが見えたのだろう。陽太は顔を青くして早足で共有廊下側へのドアに向かう。

「失礼しました」

 陽太の気配が去っていくのを確認し、抜折羅はほっと一息つく。

『――ずいぶんと楽しみにしているようだな』

 か細い声が頭に直接響く。流暢なフランス語で話し掛けてきた声の主は魔性石〝ホープ〟だ。

「そんなことはない。俺はただ、今日くらいはと思っただけだ。紅と二人きりでゆっくり話す時間がここのところ取れなかったから」

 抜折羅はフランス語で返す。

『二人きり、かね。私やフレイムブラッドもいる状況では、本当の二人きりではないだろうに』
「俺はホープもフレイムブラッドも、気が利く魔性石だと評価している。俺の期待を裏切らないことを切に祈るよ」
『面白いことを言うようになったものだな』
「お互い様だろ?」

 こんなふうに仕事以外を話題にするようになったのは紅に出会ってからだ。確実に自分たちに変化がもたらされていると抜折羅は思っている。だからなおさら、火群紅が気になるのだ。

『そうかも知れん。――年寄りはしばらく下がっているかな』

 告げて、ホープの気配が薄れていく。

 ――さて、紅は無事にここまで辿り着けるかな?

 彼女のトラブル体質は大したものだ。親しい人間を破滅に追い込む魔性石〝ホープ〟の影響力と同等、あるいはそれ以上だ。何度となく彼女の窮地を救うことになったわけだが、今日は大丈夫だろうか。
 ふと目を向けたデジタル時計は十七時を示していた。
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