宝石の呪いで逆ハーになりましたが、やっぱり嬉しくありません!

一花カナウ

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【番外編】Happy Happy Valentine's Day !!

*15* 2月14日金曜日、18時過ぎ【A】

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「む……なんだか、本当にすまないな、こう。こんな目に遭うとわかっていたら、部屋に入れなかった」

 抜折羅ばさらが悪いわけではないのに、しゅんとうなだれてしまっている。
 そんな彼を見て、紅は思い付きを実行する。背後から抱き留めたままの抜折羅を、自分ごと毛布で包み込んだ。

「ある意味、いつも通りの展開じゃない? あたしたちが一般的なデートを楽しめたことがあったかしら?」
「それもそうなんだが……」

 紅が回した手に、抜折羅が自身の手を添える。

「ところで紅。お前のその行為について議論したいのだが、構わないだろうか?」
「嫌だった? 抜折羅も寒いんじゃないかなって思ったんだけど」

 その台詞は方便だ。抜折羅が触れてくれないので、紅は少しじれていた。彼の生真面目な性格は良い面にも悪い面にもなる。

 ――二人きりのときくらい、もっと近くにいてほしいよ。

「あのな……俺だって男なんだ。そういうことをされると、ちょっと色々とマズい」

 困っているのがありありとわかる。

「どうマズいの?」

 抜折羅を困らせるのはちょっぴり楽しい。ぴったりと背後にくっついたまま、紅は返答を待つ。

「……もっと紅に触れたいと思ってしまう。その辺でやめてくれないか?」

 彼が紅の力など軽く跳ね除けてしまえるほどの身体能力を持っていることは知っている。逃れるのは容易いはずなのにそうしないのは、紅の意志を尊重する想いがあるからだ。

「あたし、悪戯が過ぎたかしら?」

 叱られたのだと思った。紅は身体を離す。温もりが離れていくのはなんだか寂しい。

「怒っているわけじゃない」

 抜折羅の身体が反転した。毛布ごと、紅は抜折羅の腕の中に捕らわれる。

「紅が何を考えているのかわからなくて戸惑った。――俺は未だに人との距離の取り方がわからない。人の好意というものがとりわけ感じにくい傾向にある。俺にしてほしいことがあるなら、態度だけじゃなく言葉でも示してほしい」

 忌み子と呼ばれていた幼少期の記憶が、抜折羅を未だに苦しめている。施設時代や渡米時代のことを幸せそうに話す彼だが、そんな幸福な時間でさえも過去の傷を癒やすことはできていないようだ。

「……ごめん」
「どうして謝る?」
「抜折羅があたしを大切に扱ってくれているのはわかっているつもりなの」

 抜折羅は黙ったまま耳を傾けてくれる。

「だけど、なんだか不安な気持ちもあって……。あたしの気持ちばかり大きくなっているような気がして……邪魔だと思われているんじゃないかなって……」

 正直な気持ちだ。嘘偽りなどない。

「――だから、帰るなどと言ったのか?」

 優しい口調の確認の台詞に、紅は抱き締められたまま頷く。

「うん。――あたし、抜折羅の足手まといにはなりたくないよ。……ホープの呪いが解けるまで待つって約束したんだもの。信じて待っていれば良いはずなのにね」

 抜折羅の大きな手が紅の頭に添えられる。

「待たせているのは俺だ。責められても仕方がない」

 ――いつもあなたはそう言って自分で被るのね……。

 誰かを傷つけるくらいなら、自分が傷付くことを厭わない。

「――紅、少し顔を上げてみろ」

 黙ったままでいると、抜折羅が紅の耳元で囁いた。

「……?」

 不思議な気持ちで、言われた通りにそっと顔を上げる。抜折羅の右手が紅の頬に添えられる。彼が腰に回した左腕に力がこもった。引き寄せられて、身動きが取れない。
 互いの視線が交差する。

「抜折羅?」

 この明るさと距離なら、彼の顔はちゃんと見える。真剣そのものの表情だ。

「伝わっていないようだから、俺の今の気持ちをわかりやすく証明してやる。嫌なら全力で抵抗しろ」
「抵抗って……んんっ……っ!?」

 唇を唇で塞がれた。
 一度目は確認するように軽く触れただけ。
 二度目は深く、探るように。

 ――抵抗する理由がどうして必要なの?

 紅は目を閉じて、抜折羅に応じる。互いの舌が触れると身体の芯に熱が宿った。次第に熱は広がってゆく。さっきまで寒いと感じていたのが嘘のようだ。

「……んっ」

 頬に触れていたはずの手のひらが、ゆっくりと下りていく。彼の温もりを伝える指先が首筋を優しくなぞり、胸元に置かれ――そこで抜折羅は何かを思い出したように、口付けを止めた。

「……抵抗しないのか?」
「しなきゃ……ダメなの?」

 紅は抜折羅を直視できなくて、顔を逸らして彼の肩に額をつける。身体が熱い。呼吸が乱れているのを悟られたくなくて、紅は浅く息を吐く。

「引き返せなくなる。そろそろ理性が跳びそうなんだ。俺の気持ちさえ伝わってくれれば、必要以上のことはしたくない」

 耳元で囁かれるとくすぐったい。抜折羅の手のひらが移動し、紅の頭を撫でる。安らぎと寂しさが心を半分ずつ支配する。

「ねぇ、ダイヤモンドがルビーよりも硬いからそういうことを言うの?」

 ――あたしは傷つかないよ?

 紅の問いに、抜折羅は首を横に振った。

「俺が臆病者だから、だ。怖いんだよ、その先が見えないから」
「あたしはあなたと一緒なら、怖いことなんてないわ」

 本心だ。待つという言葉で気持ちを伝えたが、できることならどこまでも一緒について行きたい。目の前に立ちふさがる障害を、ともに乗り越えていきたい。

 ――まだ、あたしは力不足なの?

「……強いな、紅は」

 ぼそっと呟いて、抜折羅は紅を解放する。温もりが離れていくのを、紅は引き止めることができなかった。

「――続きがあるとするなら、次の機会にしておこう。この部屋にどんな罠が仕掛けられているかわかったもんじゃないし」
「う……そうね……」

 状況を把握し直して、紅は冷静さを取り戻す。端的に言えば、見られているかも知れないのだ。この様子を。

 ――それを承知の上であんなキスしてくれたのなら、悪くないわね。

 少し思い出しただけで熱が戻る。ドキドキしてしまう。
 紅は自分の両頬に手を添える。

 ――ちょっと大胆に振る舞い過ぎたかしら。

 今さら恥ずかしさが湧いてくる。紅は抜折羅を上目遣いに見つめた。

「どうした?」

 ――気持ちを確認できたんだから、これ以上求めたら罰が当たるわね。

「なんでもないわ」

 続きはホワイトデーが良い――心に浮かんだ台詞を飲み込んで、紅は努めて笑顔を作ったのだった。
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