宝石の呪いで逆ハーになりましたが、やっぱり嬉しくありません!

一花カナウ

文字の大きさ
224 / 309
【番外編】Happy Happy Valentine's Day !!

★16★ 2月14日金曜日、18時過ぎ【A】【番外編完結】

しおりを挟む
「――で、結局この状況は変わらないんだけど、あたしはどうしたら良いのかしらね?」

 問い掛けてくるこうの頬は上気したままだ。それが見えてしまうのが堪えられなくて、抜折羅ばさらは視線を逸らした。またあの衝動が来たら、自分を抑える自信がない。

「そうだな……」

 紅の問いに、抜折羅は一つだけ案を思い付いていた。

「クッキーを摘みながら、脱出するための作戦を練る、なんてどうだ? まずは暗いままなのは色々とアレだから、〝カルブンクルスの炎〟を灯してくれ」

 明かりを灯す方法をすぐに思い付けない程度には気が動転していたらしい。こういうハプニングの対処は経験が浅い分だけ遅れてしまう。
 抜折羅の提案に、紅が頷く。

「あぁ、その手があったわね。了解」

 〝カルブンクルスの炎〟とは〝燃える石炭〟と呼ばれていたことに由来するルビーの能力の一つだ。それを呼び出せば、部屋を明るくするのは容易い。

 ――紅が持つ能力に気が向かなかったことは反省して改善しないとな。

 間もなくして、部屋に明かりが戻ってくる。誕生日ケーキの上に飾られたロウソクの炎程度のものが部屋に複数浮かんだ。

「……前に出したときはもう少し明るかったよな?」
「無茶を言わないでくれる? ……まだ精神状態が平常に戻ってないのよ」

 言いにくそうに、紅は理由を呟いた。

「う……すまない」

 謝ることしかできない。彼女が文句を言いたいのはよくわかる。弁解の余地はない。

「謝らないで」

 はぁ、と溜め息をついて紅が言う。

 ――気まずい。

 自分がしてしまったことを取り消してしまいたくなる。紅に負担をかけたんじゃないかと思うと、記憶だけでもなかったことにしたい。
 抜折羅が気まずさで狼狽えていると、紅はポケットからスマートフォンを取り出した。そして告げる。

「とりあえず、家に電話するわ。帰れないことも想定して、ひかりに協力を依頼しておく。どうせ明日の朝には向日むこう先輩も様子を見にくるんでしょ?」
「さすがに監禁したいわけじゃないだろうし、おそらくはな」

 このトラップは紅を一晩引き止めるだけのもののはずだ。魔性石の力を跳ね除ける結界の効力が永遠に持続するわけもない。日付が変わる頃には消えているだろうと経験則から判断できる。時間さえ経ってしまえば脱出可能なのだ。

「よしっ、じゃあ早速――」
「待てっ」

 電話を掛けようとした紅を慌てて制した。抜折羅を見る彼女の顔には疑問の色が浮かぶ。

「何?」
「泊まりになった場合の裏工作は最終手段だ。今からそれをすると、俺の決意が揺らぐ。早まるな」
「決意って大げさな……。あたしは一晩中語り明かしても構わないのよ? 宝石について勉強するのも良いかもって思っているんだけど」

 さも普通に返してくる。そんな紅の精神状態というものを、抜折羅はさっぱりイメージできない。

「お前な……この流れでその発言ができるってことが、俺は信じられないぞ」

 頭痛を覚えずにはいられない。どうして彼女はそうなんだろうか。

「抜折羅なら大丈夫よ。それに次はちゃんと抵抗するわ」
「そういう問題じゃないだろ」
「あたしにはそういう問題なのよ」

 屈託なく笑う紅の両肩に抜折羅は手を置く。これは言っておくべきだ。

「聞け、紅。お前は非道い女だ。お願いだから自覚してくれっ!」

 しっかりと目を合わせて告げると、紅はついっと背伸びをして口付けをしてきた。軽く触れて離れると、彼女は悪戯っぽく笑う。

「自覚はしてるわ。わざと、よ」

 人差し指を唇に当てて、ウインクをするのが様になっている。

「どこでそういうことを覚えてくるんだか……」

 紅の幸せを奪うのは本意じゃないからとずっと野放しにしてきた。だけど、そろそろ主張しても良い頃合なのかも知れない。

「あたしから口付けするのは抜折羅だけよ」

 ――俺はとんでもない原石を見つけてしまったんだろうか……。

 初めて出逢った頃はただの少女だった。事件に巻き込まれがちな女の子。そのときから、磨いて整えれば価値のあるスタールビーになると思っていたが、想像以上に化けてくれたものだ。それを証明するかのように、彼女の輝きはあらゆる宝石を引き寄せる。

「金剛石でも紅玉には適わないみたいだな。宝石の王と謳われているのは伊達じゃない」

 運命を切り開く紅き石の女王の前では、ダイヤモンドでさえ霞んでしまうようだ。
 紅を捕まえておこうなどと考えるのは浅はかだと抜折羅は悟る。振り回されることになっても付き合っていこう――そう決めたから、ここにいるのだ。

「素敵な誉め言葉をありがとう、ダイヤモンドのナイト様」

 お互いを見て笑みを交わす。
 楽しそうにしている彼女を見ていると自分も楽しく感じられる。たまにはこんなくだらないことに煩わされるのも悪くない。

「――紅は家に電話しとけ。言い訳は任せる。もう好きにしろ」
「はーい」

 嬉しそうな声を出すと、紅は早速どこかに電話をしている。喋り方から思うに、相手は長月ながつきひかりのようだ。

 ――しかし、どうしたもんかな。

 紅から貰ったクッキー入りの袋を手に取る。青色で透ける袋にルビー色のリボンが付けられているのをじっと見て、何を意味しているのか理解した。

 ――ホープとフレイムブラッドを模したのか。

 それと同時に、あることも想像した。

 ――どこまでこれを配ったんだ?

 彼女がやりそうなことだ。世話になった先輩たちにも、きっとこうしてそれぞれの誕生石に因んだラッピングを施したのだろう。

「む……俺だけを見てくれる日って、くるのか……?」

 ホープの呪いと向き合うようになってからは、できるだけ何も望まないようにしてきた。だのに、彼女を望んでしまうのはどんな気の迷いなのだろう。
 おもむろにリボンを解いて、袋の中からチョコクッキーを引き抜く。彼女の自信作だ。一口大のそれを試しに頬張った。

「美味しい……」

 苦味と甘味のバランスが好みに合っている。さっくりとした食感も悪くない。たくさん食べたいと思える菓子に出会ったのは久々だ。

「――抜折羅、口裏合わせも済んだし、明日まではどうにかなりそうよ。雪には注意しろだって……って、食べてるし」

 連絡が終わったようだ。クッキーの袋を開けた抜折羅を見て、紅が近付いてくる。

「どう?」
「美味い」

 蒼衣あおいが毎年楽しみにしているのも頷ける。遊輝ゆうきなら、ここは君の方が美味しかったなどと口説くシーンなのだろうか。
 抜折羅の率直な返答に紅は満足げに微笑んだ。

「そうでしょ」
「なぁ、来年は俺だけに作ってくれないか?」

 独占欲が湧く。それを素直に口にできるようになったのはずいぶんな進歩だ。
 紅は抜折羅の要求に対し、目を瞬かせた。驚いているらしい。
 なかなか返事がないので、抜折羅は続ける。

「他のヤツに喰わせるのが惜しいんだ。――そのくらい、願っても構わないだろ?」

 紅がふっと笑った。

「そうね。覚えておくわ」
「約束しろ」
「抜折羅だけにするって誓うわよ」

 強気での命令に、紅は幸せそうな表情で応える。

「今の台詞、絶対に忘れないからな」
「えぇ、覚えていて」

 再び交わされた口付けは、どちらが先だったのだろうか。
 今年のバレンタインの思い出は、チョコクッキーの味になりそうだ――抜折羅はそう感じながら、紅を優しく抱き締めたのだった。

(Happy Happy Valentine's Day !! ~タリスマン*トーカー 番外編~ 終わり) 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

男が少ない世界に転生して

美鈴
ファンタジー
※よりよいものにする為に改稿する事にしました!どうかお付き合い下さいますと幸いです! 旧稿版も一応残しておきますがあのままいくと当初のプロットよりも大幅におかしくなりましたのですいませんが宜しくお願いします! 交通事故に合い意識がどんどん遠くなっていく1人の男性。次に意識が戻った時は病院?前世の一部の記憶はあるが自分に関する事は全て忘れた男が転生したのは男女比が異なる世界。彼はどの様にこの世界で生きていくのだろうか?それはまだ誰も知らないお話。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

【完結】『大江戸妖怪診療所~奇病を治すは鬼の医者~』

月影 朔
歴史・時代
江戸の町外れ、鬼灯横丁で「玄庵診療所」を営むのは、人間離れした美貌を持つ謎の医師・玄庵。常人には視えぬ妖怪や穢れを視る力で、奇病に苦しむ人間や妖怪たちを癒やしています。ひょんなことから助手を務めることになった町娘のおみつは、妖怪の存在に戸惑いながらも、持ち前の行動力と共感力で玄庵の治療を手伝い、彼と共に成長していきます。 飄々とした情報屋の古狐妖怪・古尾や、言葉を解する化け猫・玉藻など、個性豊かな面々が診療所を彩ります。玄庵の過去にまつわる深い謎、人間と妖怪の間に立つ退魔師・竜胆との衝突、そして世界を混乱に陥れる「穢れ」の存在。様々な事件を通して、人間と妖怪の間に紡がれる絆と、未来への希望が描かれる、和風ファンタジー医療譚です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...