宝石の呪いで逆ハーになりましたが、やっぱり嬉しくありません!

一花カナウ

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White Day's Rhapsody

*2* 3月14日金曜日、早朝

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 エキセシオルビルのエレベーターの中。こう抜折羅ばさらの後ろ姿を見ていた。

 ――寝相が悪いわけじゃないのに跳ねるってことは、やっぱり癖毛ってことなんだろうなぁ……。

 抜折羅の艶のある真っ黒な髪はぴょこぴょこと跳ねている。学校で会うときと比べたら、だいぶボサボサだ。髪質が硬いので、きちんと整えないとこんなふうになってしまうのだと前に聞いたことがある。

 ――直す時間も惜しんで迎えてくれたってわけだ。

 紅は彼に気付かれないように小さく笑う。

「しかし、どうしたんだ? こんな早くに」

 不意に抜折羅が問い掛けてきた。顔がこちらを向く。

「兄さんが出掛けるって言うから、ついでに駅まで送ってもらったのよ。これから友だちとスキーなんだって」

 受験で去年は旅行ができなかったのだ。無事に進路を確定できた今年は、高校時代の友人たちと遠出ができると喜んでいたのを思い出す。

「スキーか。星章せいしょう先輩も今頃はスキー場にいるんだったか」

 エレベーターが七階で停まる。扉が開くと、抜折羅は扉を押さえてくれた。

「えぇ。卒業旅行だって。三年A組のほとんどが参加するから、断れなかったみたい」

 卒業式のあった先週、蒼衣から電話をもらった。そのときに旅行の話を聞いたのだ。あわせて、バレンタインのお返しは郵送にするので、屋敷にはくれぐれも近付くなときつく言われたことも思い出す。

 ――蒼衣あおい兄様、必死だったな……。

 彼の弟、蒼次そうじを警戒しての行動だとすぐにわかった。自分がいない間に何かあっては大変だと、先手を打ったのだろう。

「ま、俺としては、好都合だ」

 ぼそりと呟かれた台詞は、彼にしては珍しい。紅は首を傾げる。

「何か企んでいるの?」

 カードキーを翳して、抜折羅は自室側の扉を開けた。入れと彼は仕草で促す。

「俺だって、紅を楽しませるために考えることはある。それだけだ」

 隠さないでさらりと言ってくるあたり、その台詞は真実なのだろう。他の人なら照れて言えなかったり、あえて秘密にしたりするようなところを、抜折羅の場合は素直に口にしてしまう。

「ふーん? じゃあ、仕事ってのも口実なのかしら?」

 部屋に入ってから、抜折羅の様子を窺いつつ問う。
 今日は彼の仕事の手伝いとしてタリスマンオーダー社にやって来ていた。一泊二日で伊豆に向かう。紅にとってはバイトの延長。外泊は両親から許可をもらっている。

 ――あまりにもあっさり許可をもらえたけど、それもどうなんだか……。

 信頼されていると捉えて良いものかと悩む程度には、紅にとってショックなことだった。だが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
 紅の探りに対し、抜折羅は特に表情を変えた様子はなかった。

「仕事は仕事だ。経費精算可能なものだし、依頼書もある。ヨータにも文句は言わせない」
「ってことは、裏工作があるわけじゃないのね」

 本社に経営状況を伝えるためにアメリカからわざわざ派遣されてきた向日むこう陽太ようたが絡んでいるんじゃないかと疑っていたが、どうやらそこからの仕事ではないようだ。

「しいて言うなら、意図的に今日を選んだけどな。急ぎの仕事でもないし、滅多にない遠出だ。こうすれば、紅との時間を邪魔されずに済むだろ?」

 抜折羅らしい方法だと思う。彼なりに考えているのは確かなようだ。

 ――そういうことをしてくれるのは嬉しいんだけど……良いのかしら。

 彼の仕事を邪魔するのは本望ではない。一緒にいる時間を捻出しようとする姿勢は恋人として評価できることなのだが、ホープの呪いを思うと素直に喜べないのだ。

「……どうしてそういう顔をする? 気に食わないのか?」

 気持ちが顔に出てしまっていたらしい。紅は首を横に振る。

「ううん、そういうわけじゃないの。すっごく嬉しいわ。だけど、なんかね、喜んでいいのかわからなくて」
「お前は気にし過ぎだ。俺には遂げるべき使命があるが、残りのホープの欠片が見つかるまでは待機している時間だ。その時間をどう過ごすかは、俺の自由ではないのか?」

 抜折羅の言わんとするところはわかるが、そこが問題だったわけではない。
 紅は問う。

「そりゃそうだけど、抜折羅は何かやりたいこととかないの? 休みは何してきたわけ?」
「仕事がないときは、基本的には勉強だな。語学の。沙織さおり姉ちゃんみたいに欧州制覇するのには憧れる」

 ――目を輝かせて言うことはそれかい。

 呆れて、言葉にならない。
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