宝石の呪いで逆ハーになりましたが、やっぱり嬉しくありません!

一花カナウ

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White Day's Rhapsody

*3* 3月14日金曜日、早朝

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「日本にいた間は何していたのよ。小さい頃からそういう生活だったわけじゃないんでしょ?」
「趣味らしい趣味はない」

 言い切られてしまった。抜折羅ばさらは続ける。

「だいたい、親戚の間をたらい回しにされていたときは、周囲の様子を窺うのに必死だったし、施設に預けられてからも習い事ができるような環境でもなかった。親しい人間は沙織さおり姉ちゃんくらいだったし、一人で本を読んだりテレビ見ていたり、そんな感じだ。暇つぶしにそうしていただけだから、好きだったわけじゃない」
「……悪いことを訊いたわね」
「悪いことか? ――って、俺に憐れみの目を向けるなっ! お前が思うほど可哀想な人間じゃないっ!! あぁ、もう俺のことはどうでもいい。こうはどうなんだよ?」
「あたし?」

 話題を逸らしてきた。紅は目を瞬かせる。

「いつも留まらずにあちこち出掛けているみたいだが、休みはどう過ごしているんだ?」

 思えば、互いにそういった雑談をしたことがなかった。いつでも魔性石関係の話題ばかりで、ゆっくり話す時間がなかったことに気付く。

「色々よ? 月に一回は地学部のフィールドワークに出てるし、ひかり真珠まじゅたちとショッピングに行くことは多いかも。あとは美術館を覗いたり、デッサンをしてみたり、模写をしたりってところかなぁ。晶子あきこ叔母さんの宝石店を手伝わせてもらうこともあるわね」
「い……忙しいんだな」

 抜折羅の笑顔が引きつっているように見える。紅は肩を竦めた。

「これでもお稽古事が減った分だけ自由よ? 中学までは陸上部の練習にダンスの稽古、生け花と茶道もやらされてたわ。今思えば、あれは星章家に嫁がせるための花嫁修行だったのね。残念なことに、身についたのはダンスだけなんだけど」

 生け花と茶道は幼なじみの長月ながつき光と一緒に通っていた。おとなしくお淑やかに振る舞うのが苦手である紅は、そういった言動を普段からしている光の隣で習うのがつらく、結果として逃げ出したのだった。
 一方、身体を動かすダンスは合うらしかった。華やかな衣装を纏うのも好きであったし、皆の前で披露するときの緊張感も悪くなかった。高校生になる前にやめてしまったが、おかげでドレスにヒールでも楽々動けるのだからありがたい。

「ダンスね……」
「ん?」

 抜折羅の反応が気になる。じっと見ていると、彼は自身の頬を掻いた。

「あぁ、いや。そういえば俺もやらされたなぁ、なんて」
「やらされた?」

 どういうことだろう。促すと抜折羅は続ける。

「紳士的振る舞いとテーブルマナー、ダンスは嗜みだからと仕込まれたんだよ。マリー社長について回る都合で」

 タリスマンオーダー社社長のマリー・ウィストンは抜折羅の養母だ。なので抜折羅は、彼女に連れられてパーティーなどに同席させられたのだろうと想像がつく。

「あぁ、なるほど。――ねぇ、ダンスは何を踊れるの? あたし、ワルツは得意よ? 蒼衣兄様の相手をずっとさせられてきたおかげで」
「星章先輩が相手か。きっと俺は先輩ほど上手くない」
「どうかしら? 相手にも依るんじゃない?」
「長年やってきたペアには適わないと思うだけだ。……彼なりに紅を理解しているだろうし」

 言って、抜折羅は視線を逸らす。焼き餅をやいているみたいに見えるのは気のせいだろうか。

「抜折羅も負けてないよ? あたしを知ろうと努力してくれているんだもの。あたしももっと抜折羅のことが知りたい。今日は時間もたっぷりあるんだし、色々聞かせてよ。当たり障りのないことだけでも良いから。ね?」
「そうだな。大した話題もないがな。俺も紅が小さかった頃の話が聞きたい。聞かせてくれるか?」
「えぇ、喜んで」

 紅はにっこりと笑んで了承したのだった。
 話がひと段落ついたところで、抜折羅のスマートフォンが鳴る。電話に出た彼の台詞が英語だったので、相手が抜折羅の身の回りの雑用を片付けている執事――トパーズだと理解した。
 彼はタリスマンオーダー社に所属しているわけではなく、ウィストン家に雇われた人間であるらしいのだが、紅はよく知らない。抜折羅が彼をトパーズと呼んでいる場面に出くわしたことがあるので、紅の中ではその名前で定着している。だけども、それが本名であるのかもわからなかった。抜折羅から聞き出せたのは、社員ではなく執事のようなものだという説明だけ。いつも乗せてくれるステーションワゴンの運転をしているのがこの執事であり、とても無口な人物でこれまで喋っているところを直接聞いたことがなかった。
 電話を終えると、抜折羅は紅を見た。

「定刻通りだそうだ。俺、身支度が途中だから、そこで待っていてくれ」

 言って、ソファーベッドを指す。展開された状態だがきちんと整えられているのをみると、紅がビルの下に着いたときには起きていたようだ。

「了解。寝癖、ひどいもんね」
「うっ……やっぱりそうか……すぐに落ち着けばいいが」
「そのときは帽子を使うしかないわね」
「だな」

 やれやれといった様子で、抜折羅は部屋を出る。給湯室の方に向かったのだろう。

 ――暇ね……。

 ベッドに腰を下ろしてみたものの、することも特にはない。綺麗に整ったベッドを乱すのは気が引けたものの、そのまま背中側に倒れる。

 ――どうせすぐに戻ってくるわよね……。

 徐々に意識がぼんやりとしてくる。今日が楽しみでなかなか寝付けず、朝もいつもより早かった。そんな影響が少なからず出ているらしい。
 紅は迫り来た睡魔にあっさりと身体の主導権を奪われてしまったのだった。
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