宝石の呪いで逆ハーになりましたが、やっぱり嬉しくありません!

一花カナウ

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White Day's Rhapsody

★8★ 3月14日金曜日、17時過ぎ

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 陽も傾く十七時過ぎ、抜折羅たちは下田にあるホテルに到着した。途中で河津に立ち寄り、散り始めた河津桜を川沿いに眺めていたためにこの時間である。仕事はここで終わりだ。

 ――で、だ。

 抜折羅ばさらは困っていた。フロントでチェックインの手続きをしていたのだが、想定外のことが起きたのだ。
 ホテルのスタッフに手続きを待ってもらい、抜折羅はスマートフォンを取り出す。電話を掛ける先は向日むこう陽太ようただ。
 数コールの後に電話は繋がった。

「やぁ、バサラ。そろそろ掛かってくる頃だろうと思ったよ。無事に到着したようで何より」

 からかいを含んだ陽太の話し方は抜折羅の感情を逆撫でるには充分過ぎた。しかもその台詞からすれば、この事態は彼の差し金であることは疑いようがない。

「ふざけたことをしてくれたもんだなっ! やけにあっさりと一泊二日の計画を許可すると思ったら、こういうことかっ!?」

 怒鳴った所為だろう。様子を窺ってきていたこう遊輝ゆうきがビクッとさせるのが目に入る。
 陽太は笑いながら告げた。

「イイじゃないか。三人とも仲良しさんなんだし、経費の節約にもなるっしょ? 楽しい夜を過ごせばいいと思うよ。オレからのサービスさ」
「あんたは阿呆かっ!? 給料削っても別室だろっ!?」

 抜折羅の困った状況とは、三人で一部屋に押し込まれたことである。どう考えても、一人部屋と二人部屋の二つが必要なはずだ。有り得ない。
 抜折羅の抗議は陽太には届かないらしい。ふぅ、と小さく息を吐き出す音がして、陽太が告げる。

「んじゃ、交渉してみれば? ――ちなみに、ここの風呂場が最後の浄化ポイントだから」

 つまり、紅か抜折羅のどちらかは宿泊しないといけないと言いたいようだ。

「くっ……」

 すでに交渉はしたあとだ。今日は空いている部屋はないらしい。別々に泊まるなら、ここ以外で泊まらねばならない。
 スマートフォンを耳に当てたままどうすべきか悩んでいると、不意にそれを取り上げられた。遊輝が抜折羅のスマートフォンを掴んでおり、にやっと笑んでいる。

「返せっ」

 慌てて手を伸ばすが、遊輝はふわりとかわす。身のこなしがいつもながら軽い。彼は取り上げたスマートフォンを自分の耳に当てた。

「陽太くん、グッジョブ♪」

 言って、通話を切ったスマートフォンを放物線を描くように投げる。

「おいっ」

 抜折羅はスマートフォンをキャッチして電話を掛け直す。だが、電源を切られているらしい。繋がらなかった。

 ――俺にどうしろと……。

 途方に暮れるとは、こういう状況のときに使う言葉だろうか。抜折羅は軽い頭痛を覚える。

「えっと……何がどうしたのかしら?」

 おおよその事情を察しているらしい。微苦笑を浮かべながら紅が問い掛けてくる。

「ふふっ、三人で同じ部屋を使えってことみたいだよ。紅ちゃんはどうする?」
「三人で?」
「そう、僕たち三人で」
「…………」

 反応に困っている。

 ――どうして彼女はこういうとき、嫌だと言わないんだろう……。

 本来、言えない娘ではないはずなのだ。言いたいことははっきり告げる人だと、出会った当初の印象は物語る。彼女がまごつくようになったのは、互いの気持ちが通じてからのように抜折羅は思う。
 どうしたらいい? ――紅の琥珀色の瞳が抜折羅を覗く。

「…………」

 意見を求められても困るだけだ。その様子を見ている遊輝が楽しそうにしているのが腹立たしい。

「僕は三人でお泊まりは構わないよ。むしろ、その方が抜折羅くんにとっても幸せじゃない? 紅ちゃんを一人部屋にすると、僕が夜這いに行くかもしれないんだし」

 どこで身に付けたのかは知らないが、遊輝は鍵開けを得意としている。紅を一人にしたら、確かにその危険はあるだろう。

「待て、白浪しらなみ先輩。部屋を二つにするなら、俺と紅が同室で先輩が独りになるものだと思いますが?」

 指摘してやると、遊輝はすぐに人差し指を立てて左右に振った。

「ふふっ。そのときは陽太くんと閣下に、『抜折羅くんが紅ちゃんに手を出しました』ってメールする。アメリカに連れ戻されるか、閣下に暗殺されるか、好きな方を選ぶといいと思うよ?」
「なんつー卑怯な手を……」

 向日陽太と星章せいしょう蒼衣あおいの両方と敵対するのは得策ではない。今の微妙な関係を続けていく方が利点がある。

「この場に閣下がいたら、金と交渉力で部屋を手配するんだろうね。今日居合わせないのはラッキーだよ」
 黙って悩んでいたが、抜折羅はようやく紅を見た。
「――紅、お前が選べ。それなら先輩も納得するはずだ」
「……わかったわ。じゃあこうしましょう」

 何かアイデアがあるらしい。彼女はバッグから手帳を取り出すと、ページを一枚破いた。それを三等分にする。

「クジなんていかが? 三人同室、別室、一人退場の三択でどうかしら?」

 ペンで三種類の文言が書かれた三枚の紙切れが抜折羅に向けられる。

「一人退場って面白いね。紅ちゃん、もしも抜折羅くんが退場になったら僕と泊まってくれるの?」

 その問いに、紅ははっとした表情を浮かべる。考えていなかったようだ。

「そ、そのときは覚悟を決めるわよ」

 顔が赤い。何を想像したのだろうか。
 遊輝は紅の返答に満足げに笑んだ。

「ふふっ、良いね。だったら、僕はそのアイデアを採用するよ。――抜折羅くんはどうする? 信頼と運命の女神サマがこう仰っているけど」

 運は自分に向いていると言いたげな表情である。基本的に運に見放されている抜折羅にはなかなかに厄介な選択だ。

「……紅がそうしたいって言っているんだから、従いますよ」

 紅に任せたのは自分だ。拒否権はないと抜折羅もわかっている。
 三人の意見が揃ったところで、紅は三枚の紙をそれぞれ畳む。それを抜折羅に渡し、シャッフルしたところで紅が引いた。
 ゆっくりと紙を開く。果たして結果は――。
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