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White Day's Rhapsody
★18★ 3月15日土曜日、16時前
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絹ヶ丘の住宅街、火群の家から二ブロック離れた駐車場。そこに停められたタリスマンオーダー社所有のステーションワゴンの中に、抜折羅と遊輝はいた。
遊輝がスマートフォンの電源を落とすのを見ながら、抜折羅は問う。
「――紅はおとなしく引き下がりました?」
「どうかな。忠告はしたつもりだけどね」
つまらなそうにして、遊輝は肩を竦める。
「――しかし、よく俺の指示に従う気になりましたね」
頭を冷やしてくると告げて宿泊していた部屋を出た後、抜折羅は遊輝に電話を掛けていた。紅が思うようにならないなら、遊輝に働きかけるしかない――そう考えたからだ。顔を合わせにくいからと出て行った相手がそうすぐに話せる状況になるとは考えていない抜折羅だったが、ものは試しと電話をし、いともあっさりと遊輝をこの場所に呼び出したのである。
「負ける戦はしない主義だよ。まぁ、そもそも君と戦うつもりはないんだけど」
遊輝は苦笑を浮かべる。
「俺は戦う覚悟はありますよ」
紅が望まなくても、結果として彼女を守れるなら致し方がない。物事を割り切ることは、これまでの人生で何度も経験したことだ。恩もいくらかあるためか、遊輝に対してはついつい躊躇してきたが、いつまでもそう言ってはいられないだろう。
きっぱり告げると、遊輝は寂しげに笑った。
「僕らが傷つけ合うことにどんな利益があるのかな。紅ちゃんに『あたしのために争うのはやめて』って月並みな台詞を言わせたいつもりなら、それはやめた方がいい。彼女はそういうとき、《浄化の炎》で僕らの魔性石を祓いにくるだろうからね」
「――あんたのなんでもお見通しみたいなところが前から気に食わないんですが、それ、はったりってわけじゃないんですよね?」
抜折羅の指摘に、遊輝は首を傾げた。
「ふふっ。全部が演技だと思っていたのかい?」
「何度か違和感を覚えていましたよ。今朝だって、俺が電話をするのを――ここに呼び出すことを知っているみたいでしたし。ただ、確証が得られなかったから、訊けなかったんです」
「鑑定士でも知らないことはあるってことかな。僕の方が勝っている分野もあると思うと、ちょっぴり得意になるね」
鑑定士でも――つまり、魔性石の能力で、と言いたいのだろう。魔性石はその石にまつわる伝説や伝承をはじめ、パワーストーンとしての効能、科学面での物性などから使える能力が決まる。
「そういう対応をするってことは、やはり――」
「まぁね。スティールハートの能力の一つ《予言》だよ。オパールには未来を占うのに使われていたって話がある。日常的に使うにはエナジーの消費も大きいし、制御が難しくて使いこなせてはいないけど、僕が強く願っていることの結末を稀に予言してくれるんだ」
「その結末に紅が関わっているんですね」
「彼女から力を貰っているときは顕著に出るよ。想いと力の相互作用かな」
「だからって、あんたが馴れ馴れしく紅に触れたりキスしたりするのは見過ごせませんが?」
遊輝がおどけて返すので、抜折羅は彼を睨みながら言う。
「ふふっ。だいぶ紅ちゃんを独占したい欲が出てきたみたいだね。僕はそれでいいんだと思うよ。そのくらい強い想いがないと、本当の敵から紅ちゃんを護ることができないし」
「本当の敵……?」
何のことを言われているのかわからない。思わず聞き返す。
遊輝は頷いて続ける。
「そう。――最初の頃は出水千晶の手のひらで踊らされているのかなって思っていたんだ。死んでもなお影響を残している存在だし。でも、紅ちゃんがフレイムブラッドの力を使いこなせるようになってからは、なんとなくなんだけど、別の誰かに操られているみたいに感じられるんだ。紅ちゃんが契約しているフレイムブラッド――スタールビーは信頼と運命の石。自身の力で運命を切り開いていけるとは思うけど、僕は心配なんだよ。何度もあのビジョンを見るから」
そう告げる彼の顔は青い。演技で出せるようなものには見えない。
「何が起こるって……言うんです?」
恐る恐る訊ねると、遊輝は自身の額に浮かんだ汗を拭って答えた。
「君がすべてのホープを集め終えたとき、本当の敵が彼女を奪う。彼は彼女のすべてを手にするだろう。その敵がどこの誰なのかは残念ながら今の僕ではわからない。ただ、君にとっては身近な人物だとは思う。気をつけて」
「俺がホープを集め終えるときは、魔性石の力を失うときなんだが……」
抜折羅が世界に散らばっているホープを集めているのは、魔性石の呪いを解くためだ。すべてのホープが集まれば、魔性石から解放されてその能力を失い、本人や周囲を破滅に追いやるという呪いも解ける。もし、本当の敵が魔性石を使うタリスマントーカーである場合、抜折羅には対抗手段がない可能性が高いのだ。
「わかってる。それに、抜折羅くんに邪魔されないためにその瞬間を狙っているのだろうし」
目的は紅の奪取であると遊輝は見ているようだ。
――だが……。
「じゃあ、俺にホープ集めをやめろと言うのか?」
感情的に問えば、遊輝は落ち着けとばかりに手を振る。
「君の幸福の追求を邪魔する意図はないよ。覚悟しておけってだけ。――こうして僕が今、君に助言をしたことで、未来は変わるかもしれない。少なくとも、対策を考える時間は取れるはず。紅ちゃんとずっと一緒にいたいなら、方法を考えるんだ。呪いを解いて、彼女を護る方法を」
ホープのすべてが回収される日がいつなのかはわからない。だが、それまでの時間を紅を護るための対策を考える時間にあてれば、何か方法を思い付く可能性は充分にある。遊輝が言う通りだ。
しかし、理解できないことがある。抜折羅は遊輝をしっかりと見つめて口を開いた。
遊輝がスマートフォンの電源を落とすのを見ながら、抜折羅は問う。
「――紅はおとなしく引き下がりました?」
「どうかな。忠告はしたつもりだけどね」
つまらなそうにして、遊輝は肩を竦める。
「――しかし、よく俺の指示に従う気になりましたね」
頭を冷やしてくると告げて宿泊していた部屋を出た後、抜折羅は遊輝に電話を掛けていた。紅が思うようにならないなら、遊輝に働きかけるしかない――そう考えたからだ。顔を合わせにくいからと出て行った相手がそうすぐに話せる状況になるとは考えていない抜折羅だったが、ものは試しと電話をし、いともあっさりと遊輝をこの場所に呼び出したのである。
「負ける戦はしない主義だよ。まぁ、そもそも君と戦うつもりはないんだけど」
遊輝は苦笑を浮かべる。
「俺は戦う覚悟はありますよ」
紅が望まなくても、結果として彼女を守れるなら致し方がない。物事を割り切ることは、これまでの人生で何度も経験したことだ。恩もいくらかあるためか、遊輝に対してはついつい躊躇してきたが、いつまでもそう言ってはいられないだろう。
きっぱり告げると、遊輝は寂しげに笑った。
「僕らが傷つけ合うことにどんな利益があるのかな。紅ちゃんに『あたしのために争うのはやめて』って月並みな台詞を言わせたいつもりなら、それはやめた方がいい。彼女はそういうとき、《浄化の炎》で僕らの魔性石を祓いにくるだろうからね」
「――あんたのなんでもお見通しみたいなところが前から気に食わないんですが、それ、はったりってわけじゃないんですよね?」
抜折羅の指摘に、遊輝は首を傾げた。
「ふふっ。全部が演技だと思っていたのかい?」
「何度か違和感を覚えていましたよ。今朝だって、俺が電話をするのを――ここに呼び出すことを知っているみたいでしたし。ただ、確証が得られなかったから、訊けなかったんです」
「鑑定士でも知らないことはあるってことかな。僕の方が勝っている分野もあると思うと、ちょっぴり得意になるね」
鑑定士でも――つまり、魔性石の能力で、と言いたいのだろう。魔性石はその石にまつわる伝説や伝承をはじめ、パワーストーンとしての効能、科学面での物性などから使える能力が決まる。
「そういう対応をするってことは、やはり――」
「まぁね。スティールハートの能力の一つ《予言》だよ。オパールには未来を占うのに使われていたって話がある。日常的に使うにはエナジーの消費も大きいし、制御が難しくて使いこなせてはいないけど、僕が強く願っていることの結末を稀に予言してくれるんだ」
「その結末に紅が関わっているんですね」
「彼女から力を貰っているときは顕著に出るよ。想いと力の相互作用かな」
「だからって、あんたが馴れ馴れしく紅に触れたりキスしたりするのは見過ごせませんが?」
遊輝がおどけて返すので、抜折羅は彼を睨みながら言う。
「ふふっ。だいぶ紅ちゃんを独占したい欲が出てきたみたいだね。僕はそれでいいんだと思うよ。そのくらい強い想いがないと、本当の敵から紅ちゃんを護ることができないし」
「本当の敵……?」
何のことを言われているのかわからない。思わず聞き返す。
遊輝は頷いて続ける。
「そう。――最初の頃は出水千晶の手のひらで踊らされているのかなって思っていたんだ。死んでもなお影響を残している存在だし。でも、紅ちゃんがフレイムブラッドの力を使いこなせるようになってからは、なんとなくなんだけど、別の誰かに操られているみたいに感じられるんだ。紅ちゃんが契約しているフレイムブラッド――スタールビーは信頼と運命の石。自身の力で運命を切り開いていけるとは思うけど、僕は心配なんだよ。何度もあのビジョンを見るから」
そう告げる彼の顔は青い。演技で出せるようなものには見えない。
「何が起こるって……言うんです?」
恐る恐る訊ねると、遊輝は自身の額に浮かんだ汗を拭って答えた。
「君がすべてのホープを集め終えたとき、本当の敵が彼女を奪う。彼は彼女のすべてを手にするだろう。その敵がどこの誰なのかは残念ながら今の僕ではわからない。ただ、君にとっては身近な人物だとは思う。気をつけて」
「俺がホープを集め終えるときは、魔性石の力を失うときなんだが……」
抜折羅が世界に散らばっているホープを集めているのは、魔性石の呪いを解くためだ。すべてのホープが集まれば、魔性石から解放されてその能力を失い、本人や周囲を破滅に追いやるという呪いも解ける。もし、本当の敵が魔性石を使うタリスマントーカーである場合、抜折羅には対抗手段がない可能性が高いのだ。
「わかってる。それに、抜折羅くんに邪魔されないためにその瞬間を狙っているのだろうし」
目的は紅の奪取であると遊輝は見ているようだ。
――だが……。
「じゃあ、俺にホープ集めをやめろと言うのか?」
感情的に問えば、遊輝は落ち着けとばかりに手を振る。
「君の幸福の追求を邪魔する意図はないよ。覚悟しておけってだけ。――こうして僕が今、君に助言をしたことで、未来は変わるかもしれない。少なくとも、対策を考える時間は取れるはず。紅ちゃんとずっと一緒にいたいなら、方法を考えるんだ。呪いを解いて、彼女を護る方法を」
ホープのすべてが回収される日がいつなのかはわからない。だが、それまでの時間を紅を護るための対策を考える時間にあてれば、何か方法を思い付く可能性は充分にある。遊輝が言う通りだ。
しかし、理解できないことがある。抜折羅は遊輝をしっかりと見つめて口を開いた。
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