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【番外編】今日は大事な日
★1★ 10月24日月曜日【A】
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「パパ! ねえ、聞いて! ひどいんだよっ! あたしにはパパが二人いるんだって言ったら、みんな馬鹿にするの! 本当のことなのに!」
プンスカと憤慨している幼い娘は、昔見せてもらった彼女の母親の子供時代の姿にそっくりだ。帰宅するなり迎えに走ってくる姿は愛らしいが、聞き捨てならない台詞を聞いた気がして、台詞を反芻する。
「それは語弊のある言い方だと思うが……」
そう答えて言葉を濁すものの、どう表現したら適切なのかが浮かばず、つい癖で目にかかるほど長い前髪をつまんでいじる。この癖を最初に指摘したのは、目の前にいる幼い娘の母親だった。
彼女はもうこの世にいないが。
すくすくと育つ娘に彼女の姿が重なって、時々胸が苦しくなる。生粋の日本人の割には色素の薄い茶色の髪と琥珀色の瞳を持つ。黄色人種の中では色白の肌。肉付きが良くてふっくらしているのは幼いからかもしれないが、将来は母親に似てグラマーになる可能性はとても高い。
どっちかに似ていれば、父親がはっきりしただろうに。さすがに遺伝子検査までしようとは思わなかったからな……。
一夜の過ちで、彼女は妊娠した。乗せられたことについては自分にも非があると思うが、止めることができなかったのは思いの外彼女が気持ちよさそうにしていたからもある。彼女の幸福を優先させた結果がこれだから、仕方がない。
「パパ? ゴヘイって何?」
黙っていたからか、娘は顔を覗き込んできた。
難しい単語だったか。
父親になって七年が経ったが、未だに子どもとの付き合い方になれなかった。自身の幼少期に両親がいなかったからというのも理由に挙げられるのかもしれない。
そうでなかったとしても、娘の幸せを願うほどに距離を置きたくなった。彼女を死なせた遠因に自分の存在があったのではないかと思い続けていたから。
抜折羅は頑張って笑顔を作る。
「間違っていると断言できるものではないけれど、誤解されても仕方がない言い方だってことだ」
娘を抱き上げて、ふっくらとした頬にそっとキスをする。温かで柔らかくて心地がいい。
「あーっ! はーちゃんにチューしてずるい! 僕も僕も!」
その声に振り向けば、長い銀髪を肩口で緩く縛った細身の男が立っていた。特徴的な赤い瞳は今は笑顔で細められているのでよく見えない。
「なんだ、今が帰りか」
唇を突き出してきたもう一人の父親に、幼い娘――鳩子を押し付けるように向けた。
「違う! はーちゃんとするんじゃなくて、僕と君がするんだよ!」
「娘の前で何言ってんだっ⁉︎」
抜折羅がうろたえている間に、鳩子はもう一人の父親――遊輝の頬にキスをした。
「ぱぱ、おかえりなさい! パパたちがそろうのって珍しいね!」
無邪気に喜ぶ鳩子に、抜折羅と遊輝は互いの目を合わせた。
今はどちらかが面倒をみるような形で家を出入りしているので、滅多に顔を合わせることはない。互いに世界を飛び回るような仕事をしているためだ。だからこうしてそろうのはそれこそ用事があるときだけ。鳩子が不思議がるのは仕方がない。
「今日は大事な日だからね、家族みんなで仲良くするんだ」
曇りそうになる表情を笑顔に変えて、遊輝は告げる。そして鳩子を抜折羅から受け取った。はしゃぎ喜ぶ彼女を前に、抜折羅も胸が苦しくなる。
「大事な日?」
「そう。今日は――」
プンスカと憤慨している幼い娘は、昔見せてもらった彼女の母親の子供時代の姿にそっくりだ。帰宅するなり迎えに走ってくる姿は愛らしいが、聞き捨てならない台詞を聞いた気がして、台詞を反芻する。
「それは語弊のある言い方だと思うが……」
そう答えて言葉を濁すものの、どう表現したら適切なのかが浮かばず、つい癖で目にかかるほど長い前髪をつまんでいじる。この癖を最初に指摘したのは、目の前にいる幼い娘の母親だった。
彼女はもうこの世にいないが。
すくすくと育つ娘に彼女の姿が重なって、時々胸が苦しくなる。生粋の日本人の割には色素の薄い茶色の髪と琥珀色の瞳を持つ。黄色人種の中では色白の肌。肉付きが良くてふっくらしているのは幼いからかもしれないが、将来は母親に似てグラマーになる可能性はとても高い。
どっちかに似ていれば、父親がはっきりしただろうに。さすがに遺伝子検査までしようとは思わなかったからな……。
一夜の過ちで、彼女は妊娠した。乗せられたことについては自分にも非があると思うが、止めることができなかったのは思いの外彼女が気持ちよさそうにしていたからもある。彼女の幸福を優先させた結果がこれだから、仕方がない。
「パパ? ゴヘイって何?」
黙っていたからか、娘は顔を覗き込んできた。
難しい単語だったか。
父親になって七年が経ったが、未だに子どもとの付き合い方になれなかった。自身の幼少期に両親がいなかったからというのも理由に挙げられるのかもしれない。
そうでなかったとしても、娘の幸せを願うほどに距離を置きたくなった。彼女を死なせた遠因に自分の存在があったのではないかと思い続けていたから。
抜折羅は頑張って笑顔を作る。
「間違っていると断言できるものではないけれど、誤解されても仕方がない言い方だってことだ」
娘を抱き上げて、ふっくらとした頬にそっとキスをする。温かで柔らかくて心地がいい。
「あーっ! はーちゃんにチューしてずるい! 僕も僕も!」
その声に振り向けば、長い銀髪を肩口で緩く縛った細身の男が立っていた。特徴的な赤い瞳は今は笑顔で細められているのでよく見えない。
「なんだ、今が帰りか」
唇を突き出してきたもう一人の父親に、幼い娘――鳩子を押し付けるように向けた。
「違う! はーちゃんとするんじゃなくて、僕と君がするんだよ!」
「娘の前で何言ってんだっ⁉︎」
抜折羅がうろたえている間に、鳩子はもう一人の父親――遊輝の頬にキスをした。
「ぱぱ、おかえりなさい! パパたちがそろうのって珍しいね!」
無邪気に喜ぶ鳩子に、抜折羅と遊輝は互いの目を合わせた。
今はどちらかが面倒をみるような形で家を出入りしているので、滅多に顔を合わせることはない。互いに世界を飛び回るような仕事をしているためだ。だからこうしてそろうのはそれこそ用事があるときだけ。鳩子が不思議がるのは仕方がない。
「今日は大事な日だからね、家族みんなで仲良くするんだ」
曇りそうになる表情を笑顔に変えて、遊輝は告げる。そして鳩子を抜折羅から受け取った。はしゃぎ喜ぶ彼女を前に、抜折羅も胸が苦しくなる。
「大事な日?」
「そう。今日は――」
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