262 / 309
【番外編】今日は大事な日
★2★ 10月24日月曜日【A】
しおりを挟む
「抜折羅! 起きて!」
頭がいたい。目が覚めた場所はホテルの一室で、出張中だったことを抜折羅は思い出した。
……ひどい夢だ。
むくりと起き上がると、声をかけてきた女性――紅を見上げた。
「あ。やっと起きた! おはよー抜折羅。うなされていたけど大丈夫?」
「大丈夫じゃない」
告げて、紅の手を掴むとベッドに引きずり込んだ。
もっと抵抗してくれてもいいのに。
恋人同士だからそうなのか、あるいは誰にでもこうなのか、どっちなのだろう。紅を仰向けに転がすと、彼女の上で馬乗りになった。
「抜折羅?」
不思議そうな目がこちらを見ている。
「紅。お前は俺よりも長生きしろよ」
「いきなり何よそれ」
紅は笑う。
日本人の地毛にしては明るい色の髪。少しつり目である琥珀色の瞳。ルビーのように赤くつやつやとした唇。着る服に困る程度に発達した胸。そんな彼女のパーツを一つ一つ見つめたあとにキスをする。
「ん……あの、不安になるとそうする癖、嬉しいけど困るよ」
貪るような口づけのあとで、紅は頬を染めながらつぶやく。
「ずっとそばにいてくれ。俺が生きている間だけでもいいから」
「何言ってるのよ。当然でしょ? あたしは抜折羅を選んだんだよ。何があってもそばにいるから」
愛しい彼女にそんなことを告げられて、嬉しくないはずがない。不器用に微笑んで、彼女の肌に愛を刻もうと唇を落とす――つもりでいた。
ベッドルームにつながるドアがバタンと大きく開いた。
「ばっさらくーん! 紅ちゃーん! どうせ明け方までイチャイチャしていたんだろうけど朝だよー!」
部屋を包む甘い雰囲気をぶち壊すかのような能天気な声に、抜折羅はすぐに起き上がって正座をした。紅の残念そうな顔が視界に入る。
「白浪先輩、ノックくらいしてください。それに、部屋は別だし鍵もかけてあったはずなんですが」
彼が鍵開けを得意にしているのはよく知っているが、だからと言ってドアの鍵を破って部屋に入っていいことにはならない。
部屋に入ってきたのは白浪遊輝だった。仕事の都合で同行してもらっている。
「エッチしようとしていたのを邪魔されたからって、そういう態度はどうかと思うんだけどな。それに、今日は僕の誕生日なんだ。日付変わってすぐに祝ってってお邪魔しなかったのだけでも褒めてほしいんだけど」
肩をすくめてつまらなそうに遊輝が告げる。
「別に俺は――」
「あ! でも、これから三人でヤるなら、僕はオーケイだよ!」
遊輝の提案に、すかさず紅から枕が飛んでいった。遊輝の顔面にストライク。
いつも思うが、紅ってコントロールが良いよな……。
「隙あらばってそういう提案してこないでください!」
紅の言うことはもっともだ。巻き込まないでほしい。
それに、さっきの夢……まあ、ありえないが。
何をどうしたらあんなシチュエーションの夢を見るのだろうか。
しかも娘に鳩子って……ピジョンブラッド由来なんだろうけど。
自分の夢ながら謎の想像力に頭がいたい。
「えー。二人とも満足させる自信あるんだけどなー。その気になったら呼んでね!」
枕が硬かったからか、遊輝は顔を赤くさせている。それなりに痛いはずなのに、サムズアップで提案してくるのだからすごいバイタリティだと思う。そろそろ諦めてくれ。
「みんなしっかり起きたみたいだし、支度して朝食しに行こう! プレゼントは随時受付中だからね!」
朝からハイテンションだな……久々に一緒の仕事だから、か?
面倒だと頭をかく。それで寝癖がひどいことになっているのに気づいた。
「はいはい。支度するんで、先輩は外で待っていてくださいね」
ベッドを抜け出て、紅は遊輝の方へ。身体の向きをくるりと変えると、彼の背中を押して部屋から追い出した。
「ねえ、抜折羅?」
「なんだ?」
遊輝を部屋から出したところで、紅は扉を背に問いかけてくる。
「あたしはずっとそばにいるよ。だから、不安なことがあったらなんでも言ってね」
「心配させて悪い。変な夢見たから」
「なに? その夢であたしが死んでたの?」
「それだけならよくあるんだが……いや、なんでもない」
目を伏せる。余計なことを言って不安にさせてはこれからの仕事に差し支える。ここは無理にでも笑っておくべきだろう。そう思って顔を上げると、紅の顔がものすごく近くにあった。
「抜折羅は心配しすぎだよ。あたしはそばにいるでしょ? 信じさせることができないあたしも悪いのかもしれないけどさ」
抜折羅の頬を両手で包む。温かい。
「紅……」
見つめたら、キスをされた。
「一緒に頑張ろうね」
「ああ。――あまり遅いとまた白浪先輩が邪魔しにくるし、気持ちを切り替えるよ」
紅に出会えてよかったと思う。どんな結末を迎えることになっても、そう思えるようでありたい。抜折羅はひっそりと願った。
《今日は大事な日 終わり》
頭がいたい。目が覚めた場所はホテルの一室で、出張中だったことを抜折羅は思い出した。
……ひどい夢だ。
むくりと起き上がると、声をかけてきた女性――紅を見上げた。
「あ。やっと起きた! おはよー抜折羅。うなされていたけど大丈夫?」
「大丈夫じゃない」
告げて、紅の手を掴むとベッドに引きずり込んだ。
もっと抵抗してくれてもいいのに。
恋人同士だからそうなのか、あるいは誰にでもこうなのか、どっちなのだろう。紅を仰向けに転がすと、彼女の上で馬乗りになった。
「抜折羅?」
不思議そうな目がこちらを見ている。
「紅。お前は俺よりも長生きしろよ」
「いきなり何よそれ」
紅は笑う。
日本人の地毛にしては明るい色の髪。少しつり目である琥珀色の瞳。ルビーのように赤くつやつやとした唇。着る服に困る程度に発達した胸。そんな彼女のパーツを一つ一つ見つめたあとにキスをする。
「ん……あの、不安になるとそうする癖、嬉しいけど困るよ」
貪るような口づけのあとで、紅は頬を染めながらつぶやく。
「ずっとそばにいてくれ。俺が生きている間だけでもいいから」
「何言ってるのよ。当然でしょ? あたしは抜折羅を選んだんだよ。何があってもそばにいるから」
愛しい彼女にそんなことを告げられて、嬉しくないはずがない。不器用に微笑んで、彼女の肌に愛を刻もうと唇を落とす――つもりでいた。
ベッドルームにつながるドアがバタンと大きく開いた。
「ばっさらくーん! 紅ちゃーん! どうせ明け方までイチャイチャしていたんだろうけど朝だよー!」
部屋を包む甘い雰囲気をぶち壊すかのような能天気な声に、抜折羅はすぐに起き上がって正座をした。紅の残念そうな顔が視界に入る。
「白浪先輩、ノックくらいしてください。それに、部屋は別だし鍵もかけてあったはずなんですが」
彼が鍵開けを得意にしているのはよく知っているが、だからと言ってドアの鍵を破って部屋に入っていいことにはならない。
部屋に入ってきたのは白浪遊輝だった。仕事の都合で同行してもらっている。
「エッチしようとしていたのを邪魔されたからって、そういう態度はどうかと思うんだけどな。それに、今日は僕の誕生日なんだ。日付変わってすぐに祝ってってお邪魔しなかったのだけでも褒めてほしいんだけど」
肩をすくめてつまらなそうに遊輝が告げる。
「別に俺は――」
「あ! でも、これから三人でヤるなら、僕はオーケイだよ!」
遊輝の提案に、すかさず紅から枕が飛んでいった。遊輝の顔面にストライク。
いつも思うが、紅ってコントロールが良いよな……。
「隙あらばってそういう提案してこないでください!」
紅の言うことはもっともだ。巻き込まないでほしい。
それに、さっきの夢……まあ、ありえないが。
何をどうしたらあんなシチュエーションの夢を見るのだろうか。
しかも娘に鳩子って……ピジョンブラッド由来なんだろうけど。
自分の夢ながら謎の想像力に頭がいたい。
「えー。二人とも満足させる自信あるんだけどなー。その気になったら呼んでね!」
枕が硬かったからか、遊輝は顔を赤くさせている。それなりに痛いはずなのに、サムズアップで提案してくるのだからすごいバイタリティだと思う。そろそろ諦めてくれ。
「みんなしっかり起きたみたいだし、支度して朝食しに行こう! プレゼントは随時受付中だからね!」
朝からハイテンションだな……久々に一緒の仕事だから、か?
面倒だと頭をかく。それで寝癖がひどいことになっているのに気づいた。
「はいはい。支度するんで、先輩は外で待っていてくださいね」
ベッドを抜け出て、紅は遊輝の方へ。身体の向きをくるりと変えると、彼の背中を押して部屋から追い出した。
「ねえ、抜折羅?」
「なんだ?」
遊輝を部屋から出したところで、紅は扉を背に問いかけてくる。
「あたしはずっとそばにいるよ。だから、不安なことがあったらなんでも言ってね」
「心配させて悪い。変な夢見たから」
「なに? その夢であたしが死んでたの?」
「それだけならよくあるんだが……いや、なんでもない」
目を伏せる。余計なことを言って不安にさせてはこれからの仕事に差し支える。ここは無理にでも笑っておくべきだろう。そう思って顔を上げると、紅の顔がものすごく近くにあった。
「抜折羅は心配しすぎだよ。あたしはそばにいるでしょ? 信じさせることができないあたしも悪いのかもしれないけどさ」
抜折羅の頬を両手で包む。温かい。
「紅……」
見つめたら、キスをされた。
「一緒に頑張ろうね」
「ああ。――あまり遅いとまた白浪先輩が邪魔しにくるし、気持ちを切り替えるよ」
紅に出会えてよかったと思う。どんな結末を迎えることになっても、そう思えるようでありたい。抜折羅はひっそりと願った。
《今日は大事な日 終わり》
0
あなたにおすすめの小説
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
男が少ない世界に転生して
美鈴
ファンタジー
※よりよいものにする為に改稿する事にしました!どうかお付き合い下さいますと幸いです!
旧稿版も一応残しておきますがあのままいくと当初のプロットよりも大幅におかしくなりましたのですいませんが宜しくお願いします!
交通事故に合い意識がどんどん遠くなっていく1人の男性。次に意識が戻った時は病院?前世の一部の記憶はあるが自分に関する事は全て忘れた男が転生したのは男女比が異なる世界。彼はどの様にこの世界で生きていくのだろうか?それはまだ誰も知らないお話。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
【完結】『大江戸妖怪診療所~奇病を治すは鬼の医者~』
月影 朔
歴史・時代
江戸の町外れ、鬼灯横丁で「玄庵診療所」を営むのは、人間離れした美貌を持つ謎の医師・玄庵。常人には視えぬ妖怪や穢れを視る力で、奇病に苦しむ人間や妖怪たちを癒やしています。ひょんなことから助手を務めることになった町娘のおみつは、妖怪の存在に戸惑いながらも、持ち前の行動力と共感力で玄庵の治療を手伝い、彼と共に成長していきます。
飄々とした情報屋の古狐妖怪・古尾や、言葉を解する化け猫・玉藻など、個性豊かな面々が診療所を彩ります。玄庵の過去にまつわる深い謎、人間と妖怪の間に立つ退魔師・竜胆との衝突、そして世界を混乱に陥れる「穢れ」の存在。様々な事件を通して、人間と妖怪の間に紡がれる絆と、未来への希望が描かれる、和風ファンタジー医療譚です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる