宝石の呪いで逆ハーになりましたが、やっぱり嬉しくありません!

一花カナウ

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【番外編】今日は大事な日

★2★ 10月24日月曜日【A】

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抜折羅ばさら! 起きて!」

 頭がいたい。目が覚めた場所はホテルの一室で、出張中だったことを抜折羅は思い出した。

 ……ひどい夢だ。

 むくりと起き上がると、声をかけてきた女性――こうを見上げた。

「あ。やっと起きた! おはよー抜折羅。うなされていたけど大丈夫?」
「大丈夫じゃない」

 告げて、紅の手を掴むとベッドに引きずり込んだ。
 もっと抵抗してくれてもいいのに。
 恋人同士だからそうなのか、あるいは誰にでもこうなのか、どっちなのだろう。紅を仰向けに転がすと、彼女の上で馬乗りになった。

「抜折羅?」

 不思議そうな目がこちらを見ている。

「紅。お前は俺よりも長生きしろよ」
「いきなり何よそれ」

 紅は笑う。
 日本人の地毛にしては明るい色の髪。少しつり目である琥珀色の瞳。ルビーのように赤くつやつやとした唇。着る服に困る程度に発達した胸。そんな彼女のパーツを一つ一つ見つめたあとにキスをする。

「ん……あの、不安になるとそうする癖、嬉しいけど困るよ」

 貪るような口づけのあとで、紅は頬を染めながらつぶやく。

「ずっとそばにいてくれ。俺が生きている間だけでもいいから」
「何言ってるのよ。当然でしょ? あたしは抜折羅を選んだんだよ。何があってもそばにいるから」

 愛しい彼女にそんなことを告げられて、嬉しくないはずがない。不器用に微笑んで、彼女の肌に愛を刻もうと唇を落とす――つもりでいた。
 ベッドルームにつながるドアがバタンと大きく開いた。

「ばっさらくーん! 紅ちゃーん! どうせ明け方までイチャイチャしていたんだろうけど朝だよー!」

 部屋を包む甘い雰囲気をぶち壊すかのような能天気な声に、抜折羅はすぐに起き上がって正座をした。紅の残念そうな顔が視界に入る。

白浪しらなみ先輩、ノックくらいしてください。それに、部屋は別だし鍵もかけてあったはずなんですが」

 彼が鍵開けを得意にしているのはよく知っているが、だからと言ってドアの鍵を破って部屋に入っていいことにはならない。
 部屋に入ってきたのは白浪遊輝ゆうきだった。仕事の都合で同行してもらっている。

「エッチしようとしていたのを邪魔されたからって、そういう態度はどうかと思うんだけどな。それに、今日は僕の誕生日なんだ。日付変わってすぐに祝ってってお邪魔しなかったのだけでも褒めてほしいんだけど」

 肩をすくめてつまらなそうに遊輝が告げる。

「別に俺は――」
「あ! でも、これから三人でヤるなら、僕はオーケイだよ!」

 遊輝の提案に、すかさず紅から枕が飛んでいった。遊輝の顔面にストライク。

 いつも思うが、紅ってコントロールが良いよな……。

「隙あらばってそういう提案してこないでください!」

 紅の言うことはもっともだ。巻き込まないでほしい。

 それに、さっきの夢……まあ、ありえないが。

 何をどうしたらあんなシチュエーションの夢を見るのだろうか。

 しかも娘に鳩子はとこって……ピジョンブラッド由来なんだろうけど。

 自分の夢ながら謎の想像力に頭がいたい。

「えー。二人とも満足させる自信あるんだけどなー。その気になったら呼んでね!」

 枕が硬かったからか、遊輝は顔を赤くさせている。それなりに痛いはずなのに、サムズアップで提案してくるのだからすごいバイタリティだと思う。そろそろ諦めてくれ。

「みんなしっかり起きたみたいだし、支度して朝食しに行こう! プレゼントは随時受付中だからね!」

 朝からハイテンションだな……久々に一緒の仕事だから、か?

 面倒だと頭をかく。それで寝癖がひどいことになっているのに気づいた。

「はいはい。支度するんで、先輩は外で待っていてくださいね」

 ベッドを抜け出て、紅は遊輝の方へ。身体の向きをくるりと変えると、彼の背中を押して部屋から追い出した。

「ねえ、抜折羅?」
「なんだ?」

 遊輝を部屋から出したところで、紅は扉を背に問いかけてくる。

「あたしはずっとそばにいるよ。だから、不安なことがあったらなんでも言ってね」
「心配させて悪い。変な夢見たから」
「なに? その夢であたしが死んでたの?」
「それだけならよくあるんだが……いや、なんでもない」

 目を伏せる。余計なことを言って不安にさせてはこれからの仕事に差し支える。ここは無理にでも笑っておくべきだろう。そう思って顔を上げると、紅の顔がものすごく近くにあった。

「抜折羅は心配しすぎだよ。あたしはそばにいるでしょ? 信じさせることができないあたしも悪いのかもしれないけどさ」

 抜折羅の頬を両手で包む。温かい。

「紅……」

 見つめたら、キスをされた。

「一緒に頑張ろうね」
「ああ。――あまり遅いとまた白浪先輩が邪魔しにくるし、気持ちを切り替えるよ」

 紅に出会えてよかったと思う。どんな結末を迎えることになっても、そう思えるようでありたい。抜折羅はひっそりと願った。

《今日は大事な日 終わり》
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