【R18】飛んで火に入る夏のヒナ

一花カナウ

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飛んで火に入る夏のヒナ

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 五時間前に遡る。
 職場の創立記念パーティで私はリゾートホテルに来ていた。今日明日はウチの会社の貸切だそうで、表彰される社員たちの家族なんかも呼んでいてごった返している。
 入社五年目の私はパーティの実行委員をしていて、ドレスを着ているのにちょこまかと走り回っていた。ヒールの低い靴は大正解だ。
 次の出し物の準備のために機材を確認しようと走っていたら、廊下の角で思いっきりぶつかった。吹っ飛ばされて、私が身につけていたショルダーバッグも飛んでいく。

「やばっ」

 コンパクトなショルダーバッグにはスマホとカードキーなどが入っているが、それ以外にも見られたら困るオモチャも入れていた。中身がぶちまけられたら人生が終わってしまう。
 私は落ちたショルダーバッグを見やる。蓋が開いていて中身がこぼれている。
 おっと、オモチャは無事だがカードキーはどこだ?

「いてて……」
「お前が吹っ飛ばされるなんて、とんだ弾丸娘だな」

 私がショルダーバッグを拾い上げて中身を確認していると、知った声が聞こえた。

「ん?」

 私はぶつかった相手をやっと見た。
 高身長で暗めの茶髪の男性と、その彼よりはやや背が低い黒髪の男性が私を見下ろしている。

「へえ、緋夏(ひな)じゃないか」

 茶髪の男が私の顔を見るなり名を呼んだ。
 よりにもよって。
 元カレ、渋谷(しぶや)である。

「馴れ馴れしく名前で呼ばないで。もう別れたんだし。仕事中だよ」
「勤務中っちゃあ勤務中か」

 私は立ち上がり、黒髪の男と向き合う。よそゆきの顔を作って彼を見た。

「――品川(しながわ)さん、ぶつかってごめんなさい」
「いや。こちらこそ余所見をしていたからね。鶯谷さんは怪我はない?」

 さすがは営業部トップの成績を誇る品川さんだ。経理部でチャラ男と評判の渋谷とは物腰が違う。

「大丈夫です。……あ、でもカードキーをなくしてしまったみたいで」
「それ、お前もだろ」
「確かに」

 渋谷に指摘されて、品川さんは困った顔をした。
 話を聞くと品川さんはカードキーを触りながら部屋に忘れ物を取りに行くところだったそうな。

「って、緋夏は行かなくていいのか?」
「わ、そうだ!」

 渋谷に言われてハッとする。
 のんきに話し込んでいる場合ではない。私には次の出し物の準備がある。

「しゃーない。俺らが探しておくから、緋夏は先に行け」
「でも」
「一部が終わったら、届けてやるから」

 ありがたいことだが借りを作りたくない。私が品川さんを見れば、彼はにこっと笑った。

「僕たちで探すから、君は君の仕事をまっとうして」
「お願いします!」

 憧れの品川さんに言われたら従うしかない。渋谷は信用できないが、品川さんは信用に値する。
 ってか、品川さんとたくさん喋れてハッピーだな!
 また会えるかもしれないと思うと、なおのこと仕事を全うせねばと気合いを入れ直した。


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