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2:魔導師として宮廷入りしたので、研修生には課題があります。
愛弟子が世話になったようですね
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両目をきつく閉じて犯される覚悟をし――。
「ひゃあっ!」
横から激しい風が巻き起こり、アルフォンシーヌの小柄な身体が宙を舞う。強風に耐えきれず、蔓が切断されたらしい。
状況を飲み込めないままに体勢を立て直そうと意識したとき、アルフォンシーヌは何かに抱きとめられた。消化液や体液でぬめつく裸体をさっと柔らかな布が包み込む。
「俺の愛弟子が世話になったようですね」
アルフォンシーヌの近くから聞こえるのは愛おしい人の声――メルヒオールのものだ。声には静かな怒りが感じられる。
「ちっ。あと少しのところをっ!」
ラウルは大きな舌打ちをし、二人と向かい合うように身体を動かす。――と同時に、方々から蔓がメルヒオールたちに襲い掛かった。呪文を唱える隙を与えない絶妙なタイミング。邪魔が入ることを想定して罠を張っていたのかもしれない。
アルフォンシーヌは身体の自由がきかないなりに応戦しようと、短縮の印を結ぼうとするが当然ながら間に合わない。
まずいっ!
蔓によって包囲されてしまった瞬間、メルヒオールを軸に旋風が巻き起こった。
周りを埋めていた蔓は吹き飛ばされ、その形が微塵に変わり消え果てる。吹き飛ばしつつ、細かく刻んだのだと気づいたとき、アルフォンシーヌを支えるメルヒオールがふっと笑った。
「師範代に研修生が勝てるとでも?」
余裕の表情で言い切る彼は傷も汚れもない。太陽の光のように輝く金髪も、誰もが羨む冷ややかな美貌もいつものまま。眼鏡だってそのままだ。
「メルヒオールさま……」
やっぱりこの人はすごい。複数いる師範代の中でも上位に入る優秀な魔導師と噂されるだけの実力はあるのだ。
助けに来てくれたとわかるとアルフォンシーヌは安堵した。彼がそばにいてくれるなら大丈夫だと信じられたから。
メルヒオールはラウルに視線を向けたまま、抱きとめていたアルフォンシーヌをゆっくり下ろす。
「へえ。ずいぶんと過保護じゃないですか。あなたらしくない。――ああ、そうか。アルフォンシーヌの相手はあなたなのですね」
この状況であれば、アルフォンシーヌとメルヒオールの関係が師弟関係にとどまらないことくらいわかるのだろう。
ラウルが弱みを掴んだとばかりに笑うと、メルヒオールもまた笑った。
「最近やたらと城外研修の時間がかかっているようでしたので、何か企んでいるとは予想していましたが――君がこんな植物園を作っていたとはね。驚きましたよ」
メルヒオールはラウルの脅迫じみた言葉に動揺する様子を見せなかった。それどころか、たんたんとした調子で指摘をはじめる。
期待通りにならず、不満なのはラウルの方だ。
「おいおい。師弟で関係しちゃいけないっての、忘れたわけじゃないんでしょう? ここは取り引きをして穏便にいきましょうよ」
ラウルはゆするつもりでいるらしいが、メルヒオールはどこ吹く風である。
メルヒオールさまは、何を考えて……?
受け取った彼のローブに身体をしっかり包み込む。その中で疼く身体を鎮めようと意識しながら、アルフォンシーヌは二人の言動を見守っていた。
「取り引き? どうしてそんなものが成立すると思っているのやら」
メルヒオールは腰に括りつけていた一枚の巻物を取り出し、開いて中身をラウルに向けた。
「俺は許可の降りていない違法植物を回収するためにここに入り、その道中で弟子が犯されそうになっているのを見つけただけ。ここの植物を栽培している人間が特定できれば逮捕せよとの命令をいただいているのです」
紙を見たラウルの顔がみるみるうちに青くなっていく。そんな反応を見るに、どうやら取り出された巻物は指令書のようだ。
指令書――それは宮廷魔導師に与えられる極秘任務の内容をしたためたもののことだ。師範代ともなると、時折このように国の上層部から指令書を受け取り、単独あるいは複数人で国内外の厄介ごとに対処している。
つまり、メルヒオールはその任務中なのだ。
「君が管理人なんですよね。出頭をお勧めしますよ」
さらりと告げて、メルヒオールは手袋をしたままの片手を差し出す。連行しようというのだろう。
だが、ラウルは素直に応じなかった。
「ひゃあっ!」
横から激しい風が巻き起こり、アルフォンシーヌの小柄な身体が宙を舞う。強風に耐えきれず、蔓が切断されたらしい。
状況を飲み込めないままに体勢を立て直そうと意識したとき、アルフォンシーヌは何かに抱きとめられた。消化液や体液でぬめつく裸体をさっと柔らかな布が包み込む。
「俺の愛弟子が世話になったようですね」
アルフォンシーヌの近くから聞こえるのは愛おしい人の声――メルヒオールのものだ。声には静かな怒りが感じられる。
「ちっ。あと少しのところをっ!」
ラウルは大きな舌打ちをし、二人と向かい合うように身体を動かす。――と同時に、方々から蔓がメルヒオールたちに襲い掛かった。呪文を唱える隙を与えない絶妙なタイミング。邪魔が入ることを想定して罠を張っていたのかもしれない。
アルフォンシーヌは身体の自由がきかないなりに応戦しようと、短縮の印を結ぼうとするが当然ながら間に合わない。
まずいっ!
蔓によって包囲されてしまった瞬間、メルヒオールを軸に旋風が巻き起こった。
周りを埋めていた蔓は吹き飛ばされ、その形が微塵に変わり消え果てる。吹き飛ばしつつ、細かく刻んだのだと気づいたとき、アルフォンシーヌを支えるメルヒオールがふっと笑った。
「師範代に研修生が勝てるとでも?」
余裕の表情で言い切る彼は傷も汚れもない。太陽の光のように輝く金髪も、誰もが羨む冷ややかな美貌もいつものまま。眼鏡だってそのままだ。
「メルヒオールさま……」
やっぱりこの人はすごい。複数いる師範代の中でも上位に入る優秀な魔導師と噂されるだけの実力はあるのだ。
助けに来てくれたとわかるとアルフォンシーヌは安堵した。彼がそばにいてくれるなら大丈夫だと信じられたから。
メルヒオールはラウルに視線を向けたまま、抱きとめていたアルフォンシーヌをゆっくり下ろす。
「へえ。ずいぶんと過保護じゃないですか。あなたらしくない。――ああ、そうか。アルフォンシーヌの相手はあなたなのですね」
この状況であれば、アルフォンシーヌとメルヒオールの関係が師弟関係にとどまらないことくらいわかるのだろう。
ラウルが弱みを掴んだとばかりに笑うと、メルヒオールもまた笑った。
「最近やたらと城外研修の時間がかかっているようでしたので、何か企んでいるとは予想していましたが――君がこんな植物園を作っていたとはね。驚きましたよ」
メルヒオールはラウルの脅迫じみた言葉に動揺する様子を見せなかった。それどころか、たんたんとした調子で指摘をはじめる。
期待通りにならず、不満なのはラウルの方だ。
「おいおい。師弟で関係しちゃいけないっての、忘れたわけじゃないんでしょう? ここは取り引きをして穏便にいきましょうよ」
ラウルはゆするつもりでいるらしいが、メルヒオールはどこ吹く風である。
メルヒオールさまは、何を考えて……?
受け取った彼のローブに身体をしっかり包み込む。その中で疼く身体を鎮めようと意識しながら、アルフォンシーヌは二人の言動を見守っていた。
「取り引き? どうしてそんなものが成立すると思っているのやら」
メルヒオールは腰に括りつけていた一枚の巻物を取り出し、開いて中身をラウルに向けた。
「俺は許可の降りていない違法植物を回収するためにここに入り、その道中で弟子が犯されそうになっているのを見つけただけ。ここの植物を栽培している人間が特定できれば逮捕せよとの命令をいただいているのです」
紙を見たラウルの顔がみるみるうちに青くなっていく。そんな反応を見るに、どうやら取り出された巻物は指令書のようだ。
指令書――それは宮廷魔導師に与えられる極秘任務の内容をしたためたもののことだ。師範代ともなると、時折このように国の上層部から指令書を受け取り、単独あるいは複数人で国内外の厄介ごとに対処している。
つまり、メルヒオールはその任務中なのだ。
「君が管理人なんですよね。出頭をお勧めしますよ」
さらりと告げて、メルヒオールは手袋をしたままの片手を差し出す。連行しようというのだろう。
だが、ラウルは素直に応じなかった。
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