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6:魔導師として宮廷入りしたので、やれることだけやってみます!

十三年前の儀式 2

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 朝起きたときになんとなく肌に触れるように感じ取るその魔力が、そこに固まっているようにアルフォンシーヌには思えた。大地に、風に、水に、炎に、そっと混じっている魔力の片鱗、それを掻き集めたようなもの。

 精霊王だ。

「小僧、呼んだのはお前だな? この私に何のようだ」

 問われると、メルヒオールはチッと小さく舌打ちをして、奥歯を噛み締める。決意を固めるかのような間があって、しっかりと光の塊を見上げて口を開いた。

「よく聞け、精霊王よ。俺は王にはならない。どうして兄上ではいけないのです? 兄上が国を治めれば、この国は平穏のまま次世代へ受け継がれるはず。父上がそうであるように」

 メルヒオールの必死な訴えが始まるとすぐにリシャールが止めに入ったが、さっと振り払われた。リシャールは弾かれて地面に叩きつけられる。
 話は続く。

「ですが、俺が王になれば、この国は戦場になる。俺のこの強すぎる力は戦さのためにあるようなものだ。たとえ俺が望まなくとも、この力のために周囲は狂わされる。これまでの歴史がそう伝えている。例外なんてない。あなたは俺に戦場に立てと、この国を守るための武器になれというのですか? この国を焼き、聖水を干上がらせるかもしれないというのに」

 彼の運命を呪う痛切な声に、アルフォンシーヌは胸を打たれる。

 メルお兄さまはそんなことをずっと考えていたの?

 構ってくれる彼はいつも優しくて穏やかで、陽だまりにいるような心地にさせてくれる。アルフォンシーヌのわがままにも、笑顔で何度も付き合ってくれた。だからきっとこの人は幸福の中を進んでいくのだろうな、なんて思っていたのに。
 そんな調子でなんでも受け止めてくれる彼にも、受け止めきれないもの――それが王となることとその意味。

「愉快なことを言いだす末裔もいたものだ」

 精霊王は一笑した。

「お前が王にならなければ国は滅ぶ。民が放つ炎に焼かれ、消え果てる。炎を従えることができるのは、風の加護を持つお前だけなのだ」

 メルヒオールは苦痛に顔を歪ませ、首を小さく振ったのちに光の塊をキッと睨みつけた。

「もう一度告げる。俺は王にはならない。炎が国を滅ぼすというのなら、俺は魔導師として国に仕え、必ず食い止めます。そういう方法だってあるはずだ!」

 噛みつくように告げる荒々しいメルヒオールを、立ち上がったリシャールが背後から抱き締めた。

「もういい、メル。私はメルこそ相応しいと思っているのです。ここで殺されて、王位を譲る運命を受け入れている。今さら覆すことなどできはしない」
「そんなのおかしい! 人身御供になるために生まれてきた? はっ、馬鹿げているでしょう! 俺は兄上の屍の上に立つ政治なんてごめんだ!」

 オウイヲユズル? ヒトミゴクウ?

 殺すだの屍だの物騒な言葉が彼らの口から飛び出しているのは、激しい風雨の中でもアルフォンシーヌは聞き取れた。
 また、この状況になって、やっと彼らが王位継承権を持つ人間であることを理解した。

 取っ組み合ってもめ始めた二人に、精霊王が告げる。

「言い分はそれだけか?」
「ああ、それだけだ」

 はっきりと答えたのはメルヒオールだ。声に迷いはない。

「まったく……人とは愚かだ。救いの道を示してやっているのに、それを拒む……いいだろう。これもまた一つの道」

 精霊王の優しげな声に、二人の顔が明るくなる。
 だが、空気は一変した。
 肌がざわっとして、アルフォンシーヌは本能的に叫んだ。

「だ、だめぇぇぇっ!」

 何が起こるのか、感じたのだ。
 よくないことが、ここで起きる。
 輪郭を持たない光の塊が、嘲笑を浮かべた気がした。そんなもの、見えるわけがないのに。

「ならば、ここでお前たちの道を断つのも構わぬな? 還らぬ者となり、自らの過ちを悔いながら国の末路を見守るがいい」

 稲妻が落ちる。
 視界が光に包まれる。

 助けたい、大好きな彼らを助けねばならない。ここにあたしがいるのは、それができる可能性があるから――。

 アルフォンシーヌは精一杯手を伸ばし、内から湧き上がる呪文を発する。真紅の炎が自身から噴き出るのを意識し……そこからの記憶は途切れている。
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