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7:魔導師として宮廷入りしたので、あの日の話をしませんか?
火の精霊の加護を受ける者
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ゆっくりとした口調でメルヒオールは話し始めた。
「――当時、俺たちは人を探していました。精霊王の預言にて『次代にて炎を操る民が国を焼き尽くす』と伝えられていたからです。俺たちは来たる戦火を避けるため、火の精霊の加護を強く受けている魔導師を味方につけておこう――そう考えたのです」
「火の精霊……ああ、カスペール家は代々炎を操るのに長けた魔導師を輩出している家系ですものね。対象に含まれるのは当然か……」
アルフォンシーヌはメルヒオールとリシャールが訪ねてきた理由を素直に認められた。
ただその一方で、アルフォンシーヌの一家に国を滅ぼそうと画策している人間がいると彼らに疑われたことについては、あまりいい気分にはなれなかった。
メルヒオールはアルフォンシーヌの背後で小さく頷き、続ける。
「ええ。そして、君を見つけました。これまで出会ったどの魔導師よりも、火の精霊の加護を強く受けている少女――アルフォンシーヌ・カスペールを。君が誰よりも強く火の精霊に愛されていることは、俺にはすぐにわかりました」
あたしが火の精霊に愛されているのは薄々感じていたけど、誰よりも……なの?
アルフォンシーヌは疑問を抱くが、それをうまく説明できなかった。ただ、幼児期は魔法を使わせてはならないと厳重に管理されていたようには思う。だから、指摘がまったく的外れだともアルフォンシーヌには感じられない。つまり、未熟さゆえに魔法を禁じられていた訳ではない可能性がある。
でも、そうなるとあたしは――。
認めたくはないが、メルヒオールの言葉によって導き出されてしまった答えを、アルフォンシーヌは確認せずにはいられない。
「……じゃあ、あたしがこの国を滅ぼしかねない元凶だって……そういうことなんですか?」
声が震えている。お湯が冷えてきたからではない。
もしもそうなら。
リシャールの言葉が記憶から一つ一つ蘇ってくる。惑わすための発言だと思われたそれらが、重要な意味を持って聴覚に響く。リシャールの言葉に、メルヒオールがどんな反応をしていたのかもありありと思い出し――。
胸騒ぎがする。
「最初は可能性の一つとして接触していたのです。しかしアルは、俺たちの前で実際に精霊王とやり合ってくれました。その結果はこの通り。であれば、アルを敵に回すわけにはいかないという判断になるでしょう?」
合理的だと雄弁に語るメルヒオールの説明に、アルフォンシーヌはなるほどと思う。精霊王の怒りに触れたあのときのことについてはそう考えることもできるかもしれない。
素直に納得できた一方で、アルフォンシーヌの心はどんどん冷めていく。
へえ……そっか。あたしは精霊王の脅威となる存在なんだ。
ゴクリと唾を飲み込む。背中がゾクッとした。
じゃあ、あたしに対してメルヒオールさまが興味を持っている本当の理由って――。
そっと目を伏せる。メルヒオールが何を考えながらアルフォンシーヌのそばにいるのか、確信してしまった。
これを訊いてしまったら、あたしは……。
身体が震えていた。真実を問えば、きっと、あたしは今までのように慕えなくなる――そう思うのに、唇は勝手に動き出す。
「ああ……だから、メルヒオールさまはあたしに好意を寄せているふうを装って、あたしを抱くんですね」
声は冷え冷えとしていた。突き放すような声。ついさっきまで愛し合っていたはずなのに。
「――当時、俺たちは人を探していました。精霊王の預言にて『次代にて炎を操る民が国を焼き尽くす』と伝えられていたからです。俺たちは来たる戦火を避けるため、火の精霊の加護を強く受けている魔導師を味方につけておこう――そう考えたのです」
「火の精霊……ああ、カスペール家は代々炎を操るのに長けた魔導師を輩出している家系ですものね。対象に含まれるのは当然か……」
アルフォンシーヌはメルヒオールとリシャールが訪ねてきた理由を素直に認められた。
ただその一方で、アルフォンシーヌの一家に国を滅ぼそうと画策している人間がいると彼らに疑われたことについては、あまりいい気分にはなれなかった。
メルヒオールはアルフォンシーヌの背後で小さく頷き、続ける。
「ええ。そして、君を見つけました。これまで出会ったどの魔導師よりも、火の精霊の加護を強く受けている少女――アルフォンシーヌ・カスペールを。君が誰よりも強く火の精霊に愛されていることは、俺にはすぐにわかりました」
あたしが火の精霊に愛されているのは薄々感じていたけど、誰よりも……なの?
アルフォンシーヌは疑問を抱くが、それをうまく説明できなかった。ただ、幼児期は魔法を使わせてはならないと厳重に管理されていたようには思う。だから、指摘がまったく的外れだともアルフォンシーヌには感じられない。つまり、未熟さゆえに魔法を禁じられていた訳ではない可能性がある。
でも、そうなるとあたしは――。
認めたくはないが、メルヒオールの言葉によって導き出されてしまった答えを、アルフォンシーヌは確認せずにはいられない。
「……じゃあ、あたしがこの国を滅ぼしかねない元凶だって……そういうことなんですか?」
声が震えている。お湯が冷えてきたからではない。
もしもそうなら。
リシャールの言葉が記憶から一つ一つ蘇ってくる。惑わすための発言だと思われたそれらが、重要な意味を持って聴覚に響く。リシャールの言葉に、メルヒオールがどんな反応をしていたのかもありありと思い出し――。
胸騒ぎがする。
「最初は可能性の一つとして接触していたのです。しかしアルは、俺たちの前で実際に精霊王とやり合ってくれました。その結果はこの通り。であれば、アルを敵に回すわけにはいかないという判断になるでしょう?」
合理的だと雄弁に語るメルヒオールの説明に、アルフォンシーヌはなるほどと思う。精霊王の怒りに触れたあのときのことについてはそう考えることもできるかもしれない。
素直に納得できた一方で、アルフォンシーヌの心はどんどん冷めていく。
へえ……そっか。あたしは精霊王の脅威となる存在なんだ。
ゴクリと唾を飲み込む。背中がゾクッとした。
じゃあ、あたしに対してメルヒオールさまが興味を持っている本当の理由って――。
そっと目を伏せる。メルヒオールが何を考えながらアルフォンシーヌのそばにいるのか、確信してしまった。
これを訊いてしまったら、あたしは……。
身体が震えていた。真実を問えば、きっと、あたしは今までのように慕えなくなる――そう思うのに、唇は勝手に動き出す。
「ああ……だから、メルヒオールさまはあたしに好意を寄せているふうを装って、あたしを抱くんですね」
声は冷え冷えとしていた。突き放すような声。ついさっきまで愛し合っていたはずなのに。
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