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第029話、オリジナル魔法?
しおりを挟むあの毛にそんな効果が? 俺は疑いつつもエステン師匠の理論に納得もしていた。
「毛についてそんなに考えたことはなかったです、毛の世界って深いですね」
「ワシも毛のことをこんなに考えたのは生まれて初めてじゃよ、途中でバカバカしくも思ったが探究心には勝てんかった、そしてここからが本題なのじゃが……」
まだなにかあるの? 頭の中にネネタンの腕毛が浮かんでは消えを繰り返してるんだけど。 エステン師匠は更なる考察を話していく。
「ネネタンがお前に毛を生やされた後に弟を殴ったら『パワーが増していた』 とワシに話してきてな魔法で調べたところ、わずかだが強化の付与魔法の気配をあの腕毛に感じたのじゃ、そしてお前はさきほど強そうな筋肉をイメージして毛を生やしたと言った」
「あっ!」
「気づいたか? あれはただの毛ではない、二つの証言からあの腕毛には腕の筋肉を強化する効果があったと結論がでる! しかも普通ならもっと効果時間は短い上にそんなに筋力は増強しない」
俺が生やした毛の効果は治癒魔法だけではないのか、そんな効果まであったとは。
「それからあぶら先輩? とか言うやつに使ったのも毛が傷をふさいだだけではない、ちゃんと傷を治す効果のある毛だったのじゃ!」
「じゃあ、院長があんなに嬉しそうなのも、寂しさをうめる効果のある毛!?」
「それは単に髪が増えて嬉しかったんではないか?」
ああ、なるほど。
「ここまでの話を踏まえた上で、お前の『毛を生やす魔法』に治癒魔法のイメージを加えることで、通常よりも強く長い効果が期待できる、そして治癒以外の効果も生み出すことができる! と思われる」
「俺にそんな凄い魔法が?」
「お前のイメージによってはワシが想像つかんような未知の魔法が生まれるかもしれん、お前だけのオリジナル魔法じゃ」
俺はエステン師匠の言葉に震えた、俺の『毛を生やす魔法』が歴史を変えるかもしれないのだ、けれどそれは黒歴史なのではないのかな、どう判断すれば……
「未知の魔法……」
「今からワシの知る魔法をお前に授ける、それとお前の『毛を生やす魔法』組み合わせてみろ」
「はいっ!」
「それと言いにくいから今後は『毛を生やす魔法』→『毛魔法』とでも呼ぼうかの」
***
それから俺はエステン師匠のもと猛特訓をした、ここ数日間は仕事をした後の夕方~夜にこの森へ来て特訓、サラリーマン時代のように寝不足が続いたが心は充実感で満たされていた。 でも一緒にいるのが幼女なのでこの森への行きと帰りはかなりの注意を要した、誰かに見られたら今度こそ通報されてしまう。
あたりは暗くもうすっかり夜もふけた、明日は休日のため今夜はこの森で泊まることにした、目の前には焚き火があり揺れる炎に心が落ち着いていく、今回の特訓を通してエステン師匠とはかなり打ち解けたと思う、俺はずっと疑問だったことを聞いてみることにした。
「エステン師匠はこんなに魔法への知識や技術が凄いのに『聖女』にはなれなかったんですか?」
エステン師匠は少し苦い顔を俺に向けた。 そして夜空を見ながら昔を思い出す出すように話してくれた。
「『聖女』にはなれなかったのではない、ならなかったのじゃ、一度打診はあったが断った」
「それはなぜですか?」
「ワシには向いておらぬ、人を治すのも大事じゃがワシは研究室で人体に関する研究を続けたかった、結果として追い出されたのだから研究も中止にせざるを得なかったのだがな」
「……」
「まぁ、そのおかげでお前というかなり面白い研究対象(モルモット)に出会えたのじゃから人生はわからんもんじゃよ」
そんな話をしていると、暗闇から不審な大きな影が動いてこちらに向かってくる、俺はとっさに手をかざして弱体化の付与付きの『毛魔法』をその影に向かって放つ。
「きゃー★ また~? あれ? 体が重いわ……」
影の正体はネネタンだった、どうやら差し入れを持ってきてくれたようだ、特訓により生まれ変わった俺の毛魔法でネネタンの手足に毛が生え、四肢が重くなり動きが鈍くなっている。
「お疲れさま~★ せっかくネネタン特製の差し入れなのにひどくなーい? また脱毛エステサロンに行かないと、なんか体も重たいんだけど★」
暗闇の中で炎にライトアップされたネネタンはかなり怖い、しかも手足が毛だらけのため新種の魔物のようだ、俺は魔法で生やした毛を解除する、ネネタンの手足から毛がゴッソリと抜けて地面に落ちて消えていった、夜のせいか地面に毛がばらまかれ消えていく様子はかなりホラーのようだった。
「あら? 毛を消せるようになったのね? かなり怖い絵面だけど★」
「特訓の成果ですよ、すみませんでしたつい魔物かと思って攻撃しました、差し入れをありがとうございます」
俺はネネタンに謝って差し入れの箱を受け取った、中身は温かく良い香りのする焼おにぎりだった、凄く美味しそうだ。
「うまいですね、さすがだ!」
「でしょ?★ いつでもお嫁に行けるように料理は昔から鍛えてるんだから★ 今回みたいな野営のお供にわたしは最適よ★」
「お嫁……」
誰かお嫁にもらってくれるといいですね、俺を見つめるその視線がとても気になるので、早く誰かネネタンをお嫁にもらって連れ去ってくれると安心だなぁ。 俺はネネタンから目をそらしながらエステン師匠を見た。
「うまいっ! うまいっ! うまいっ! さすがはネネタンじゃ、とてもうまいっ!」
エステン師匠は*うまいっ!*を連呼しながらひたすら食べている。 気持ちはわかるけどもう少し静かに食べようよ。
「ところで、実は二人に相談があってここまで来たの★」
ネネタンは首を傾けて上目遣いでお願いのポーズで話してきた、普通に話してください背筋がゾワッとするので。 エステン師匠は焼おにぎりを食べながら耳だけ傾けている。
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