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第028話、深い毛の話?
しおりを挟む翌日、特に大きな変化もなく仕事を終え街を散策していると、エステン師匠が俺を見つけ声をかけてきた。 鼻息が荒くやる気に満ちた表情をしている、また変なことをツルンさんから吹き込まれたのではないかと不安を感じながら対応する。
「おおっ、待っておったぞ! 仕事は終わったな?」
「どうかしましたか? お酒を飲み過ぎてお腹をボリボリしながら寝てたのは誰にも言ってませんよ」
「そんなことは心配しておらん! ワシに対してどんどん遠慮がなくなってきておらんか? もっと優しくせい」
「気のせいですよ師匠」
「実はお前にいくつか聞きたいことがあってな、どうじゃ少しその辺まで付き合ってくれんか?」
どうやら変な話ではなさそう、エステン師匠が妙に目をキラキラしているのが気にはなるけど。
「なんでしょう? 俺の好みはもっと大人の女性です、ロリでもオネェでもSM好きの女性でもありませんよ」
「そんなことは聞いておらん、お前の性癖なんぞ興味はない! 聞きたいのはお前の魔法についてじゃ、ネネタンの腕に毛を生やしたな?」
「ああ、その件ですか…… わかりました、どこに行きます? 『居酒屋 のんだくれ』ですか? ネネタンさんに謝りますよ」
「そこでもよいが試したいこともあるから広い所に行きたい、ついてこい」
***
俺はエステン師匠の後をついていった、木や草しかない森を会話をしながら進んでいる、エステン師匠は迷わずにどんどん進んでいるけどよく行く場所なのだろうか。
「それでネネタンさんはまだ落ち込んでましたか?」
「いや、『脱毛エステサロンに言ってくるわ』と言ってたな、そんなに気にはしておらんようじゃったぞ」
「それなら良かった、なら用件はなんですか?」
話しているうちに目的の場所に到着した、少しひらけており周りは木々に囲まれ街からは見えにくく人気のない場所だ、嫌な予感がしてきたやはりツルンさんに変なことを吹き込まれてるのでは? そんな心配をしている俺にエステン師匠は顔を向き直して真面目な顔で話し出した。
「お前は自分の魔法についてどう思う? ネネタンの腕に毛を生やす時になにか考えてたか?」
質問の意図が読めないな、毛を生やしたことがそんなに気になるのか? たしかに珍しい魔法だとは思うけど。
「なにか? と言われても特になにも、あえて言うなら『良い筋肉だな』くらいかな」
ネネタン自身には興味はないが、あの筋肉は見習う必要があるな、俺はまたまだ鍛え足りていない更なる筋トレをしなければ。 俺が筋肉について思いをはせているとエステン師匠はブツブツとなにかを呟いている。
「なるほど…… それが原因か…… 次の質問じゃ」
「?」
「今までに生やした毛はどんな効果があった?」
なんなのだろう、変な質問だけどエステン師匠は真面目な顔をしている、茶化すような雰囲気ではないな。
「どんな効果? 効果なんてありませんよ、ただ毛を生やしただけですし…… そういや胸を怪我したあぶら先輩に胸毛を生やした時は、毛が傷をふさいで出血を止めた効果がありましたけど」
そういえば今まで忘れてたな、あの胸毛はまだ生えているのだろうか、ネネタンと同じように脱毛エステサロンとかに行ったのかな。
「ん~ その時はなにを考えた?」
「えーと、怪我人をたくさん治療している最中だったので、たぶん傷を治すことを考えたような……」
「ふむふむ…… それで終わりか? 他に毛を生やしたのは?」
えーと、院長の頭にも毛を生やしたっけ。 その時に考えてたのは。
「あとは、、、 治癒院の院長に対して頭に向かって魔法で毛を生やしたけど、その時は『頭が寂しそうだな』としか思ってませんよ、毛を生やしたら院長は笑顔になりましたけど」
「それは関係なさそうじゃな」
「質問の意味がいまいちわからないんですけど、それがどうかしたんですか?」
俺は疑問でモヤモヤする、エステン師匠は人差し指を立てて頭の良さそうな探偵のような雰囲気で説明しだした。
「ここからはワシの推測じゃが、お前の『毛を生やす魔法』 それはただ毛を生やしているだけではない」
いや毛を生やしただけですか、なにか?
「どういうことですか?」
「うむ、実はそろそろお前に治癒魔法の特訓をしようと思っていたのじゃが、どうもお前には更なる可能性があるみたいでな、ワシなりにいろいろ考えおるのじゃよ」
ん? なんか話が変わったかな、その可能性が毛の話?
「俺に更なる可能性? それが『毛を生やす魔法』?」
なんだろう、こんな森の中で幼女の外見をした女の子と毛について話をしている、人に見られたらなんて説明したらいいのだろうか、エステン師匠は気にしていない様子だけど。
「まず、ワシの考えを話そう」
「はい聞きましょう」
「まずは男と女についてじゃ」
やはりそんな話か? きっとツルンさんだな実はどこかに隠れているのか、俺はあたりをキョロキョロしてからエステン師匠に聞いてみる。
「……エッチな話ですか? だからこんな人気のない広場に?」
「違うわいっ! 真面目な話じゃ、ちゃんと聞け! ん"ん"っ! まず女は毛が嫌いじゃ、髪の毛は例外として他の部位の毛についてはひどく拒否反応を起こす、たとえば『スネ毛、ウデ毛、ワキ毛、○○の毛』」
その外見であまりそういうことを言わないで欲しい。 見た目は可愛い女の子なのに、なんで話すと残念なんだ。
「やっぱり下ネタありのエッチな話じゃないですか」
「だから違うと言っておるっ! 話を続ける、次に男の場合は毛に対して肯定的なことが多い、『毛深い=男らしい』という意見も少なくはない、好んでヒゲを生やしたり胸毛をアピールする男もいる」
「まぁ、たしかにそういう男性はいますね、それがエステン師匠の好みなんですか?」
「そういう話ではないっ! つまり、女にとって毛はマイナスイメージ、男にとってはプラスイメージとなる」
「ああ、なるほど」
なんの話かさっぱりわからん、俺の頭が柔軟ではないからか、エステン師匠は話を続ける。
「そして今までは毛を生やす魔法なんてものは誰にも使えなかった、魔法使いも治癒師もじゃ、試した者はおるようじゃが実際には効果はなかった」
俺は冗談で適当にやったら使えたのだが、言ったら怒られるかな。
「そうなんですか? そんなに難しいとは思いませんでしたけど」
「そこなのじゃ! なぜ今までの治癒師や魔法使いは使えず、お前だけが使えるのか? 『毛を生やす』というのは分類的には回復魔法になると思われる、じゃから通常の魔法使いには使えん」
「なら治癒師なら使えるのでは?」
「そこで先程の男女の話に戻る、女は毛を嫌っておるそれも無意識の中で拒否しておるのじゃ 『毛を生やす』というマイナスのイメージと『回復』というプラスのイメージ、お互いが作用し合い、その結果なにも起こらない、というわけじゃ」
「それなら俺だけが使えるというのは……」
「お前が世にも珍しい『男の治癒師』だからじゃ、魔法はイメージが大事! 男であるがゆえの毛に対するプラスイメージ+治癒に対するプラスイメージ、それが相乗効果を生み、結果としてより強力な魔法となる」
エステン師匠はどや顔で結論を話した。
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