君の名をよばせて

雨ましろ

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気遣い

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「じゃあ、今日は失礼します。また明日会社で」
「うん。おやすみなさい」
真辺が去った後、僕は泣いた。
田丸にひどいことをしてしまった。
田丸が悩んでいたにちがいないのに、僕は何も知らずにのうのうと生きていた。
こんなことになるんだったら、もっと田丸と向き合っていればよかった。


田丸のこと深く考えもしなかった。
田丸が苦しい思いをしているときに気づいてあげられなかった自分が情けなかった。


それから数日後のことだった。
僕は深夜のバイトに出ることにした。時間帯からして仕事は限られていた。
しかたなく、高時給のホストの仕事。
その日はたまたま常連もいなかったし。
働く気になっていた。
田丸の支払った慰謝料を僕が支払うこと、それがせめてもの罪滅ぼしだと思った。
しかし、慣れない酒を飲むのは疲れる。
しかも、酔っぱらいが絡んでくるから余計につかれる。
「おい、お前。オレと飲めよ」
完全によっている男の客。
「いや、遠慮して」
「なんだと」
「すみません」
お客にとりあえずとりあえず謝ってもゆるしてもらえず。


「すみませんじゃないだろう」
酔っている様子で困った。
「ごめん」
「ふざけんな」
何を言っても無駄かも。
「本当に勘弁してくれ」
ホストって男女にサービスする時代なんだな。
男好きは珍しい客だったけれど。
僕のこと気に入ってくれたわけ。
「こっちこい」
「いや、放せよ」
僕は全力で拒否った。
「うるさい」
完全に力負けしそう。僕よりつよい。
「痛い」
酔っていてもつかむ腕に力がはいるんだ。
「おとなしく言うこと聞け」
「離せったら」
「なんだ、この野郎」
ゆうこと聞かないと殴られても仕方ないのか。
そんなばかなぁ。
「うわぁ~」

そのとき、僕を助けてくれたのは田丸だった。
「大丈夫?」
「田丸……ありがとう」
「なんだよ、男がいたのかよ。なら早く言えよな」
「すみません」
「じゃあな、ほかの子よんで」
男の客は去っていった。

「助けてくれて、ありがと」
おたおたしてしまう。田丸には秘密でホストのバイトをしていたんだけれど。
なんでお店わかったんだろう。
夜の仕事をしていることがばれてしまった。
「気にするな。それより、最近顔色が悪いけれど、ここで働いて大丈夫なのか?」
事情は話してないけれど、バイトがばれてしまったし。
「ああ、平気だよ。心配かけてごめん」
「何かあったのなら、話してほしい」
「何もないよ」
田丸の支払った慰謝料を僕が返そうと思っているだなんて言えない。
「本当か?」
「うん」


「それならいいけれど」
「田丸は優しいね」
きっと僕を心配して店に駆けつけてくれたんだと思う。
怒られると思ったけれど、僕を気遣ってくれて。
僕にはもったいないほどの恋人。
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