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第1章

荷車

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 農家のおじさんに、馬車の後ろに乗せてもらう。


 馬車というか、どちらかと言えば荷車に近い気がする。

 馬車のように、人間が快適に過ごせるために最善を尽くした形状ではなく、木材で出来た四角い箱の中に、同じ素材で出来たベンチをつけた代物だ。


 そのベンチには当然のことながら、馬を操るおじさんが座るので、私は必然的に、その後ろの荷物置き場に乗せてもらうことになる。


 私はボストンバッグを下に置き、その上に座った。


「お嬢さん、大丈夫か? そろそろ出発するぞ」

「あっ、はい。大丈夫です。ありがとうございます」

「きちんと掴まってろ。危ないからな」

「はい」


 おじさんの言う通り、しっかりとどこかに捕まっておくべきだった。


 出発した途端、ガタガタと荷車が揺れて、私は危うく吹き飛ばされそうになった。


 慌てて、荷車の端を掴む。


 安定性は最悪だった。


 これじゃ歩いた方がマシなんじゃないかと思ったけど、でも結局今の身体の状況じゃ歩けないので、私はただひたすら耐えるのみだった。


 この時間が永遠に続くのではないかと思ってしまうくらい、ガタガタと揺れる。


 身体が上に吹っ飛ぶくらいの強い衝撃が3回続いたのち、ようやく荷車は止まった。


「お疲れさん。着いたぞ」

「あ、ありがとうございます……」


 私は心身共にボロボロになっていた。


「荷物、持てるか?」
 
「ええ、大丈夫です。ありがとうございます」


 ただ、今着ているドレスだと箱から外に出ることが難しかったので、おじさんの手を借りて降ろしてもらう。


「良い服着てんな、お嬢さん」

 おじさんは感心したように言った。


「うちの家の見栄ですよ」


 私は肩をすくめる。

「自分たちの家がおかねもちであるということを、知らしめたいだけなんです」

「へえ。でも俺からすれば、そういう服を買ってもらえるだけ、幸せなんじゃないかと思うが」


 どうだろう。


 私は幸せなのだろうか。

 確かに何不自由ない、湯水のようにお金を使っても生きていけそうな家に生まれたけれど。


 結局あの人たちは、私のことをちゃんと愛してくれなかった。


「じゃあお嬢さん、俺ん家はあそこだ。俺の奥さんと子どももいる。多分飯は出来てるから、あんたも食べてけ」

「何から何まで、本当にありがとうございます」
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