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第1章

部屋

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 ハンナは私を2階の突き当たりの部屋に案内した。


「こちらでございます」

「ありがとうございます」


 私はハンナに扉を開けてもらい、中に入る。

「お荷物はこちらへ」


 ハンナは私の荷物を取り、チェストの上にボストンバッグを置こうとして、固まる。


「あっ、すみません」


 私が地面に置いたり、椅子の代わりにしたりして、ボストンバッグの底はすっかり土で汚れてしまっていた。


「中身だけ取り出しても?」

「ええ。お願いします」


 ハンナは結構重いはずの旅行鞄を片手で持ち、チャックを開けて中身を取り出していく。


 中から出てくるのは、服に下着に必要最低限の化粧品。


 全てを出し終えたあと、ハンナは少し眉尻を下げた。


「お荷物はこれだけなんですか?」

「ええーーもしかして、ご迷惑をおかけすることになりますかね?」


 荷物が少ないと、何か買い足すものがあるかもしれない。


 宝石やドレス、その他諸々。


 それは全部このアンダーソン家からの出費になるのではないかと、心配しているのかもしれない。


「公爵家からはいくらかお金を渡されておりますので、あまりお気になさらないでください」

「あっ、いえ……」


 ハンナは戸惑ったような表情を浮かべた。

「そう言うわけではないのですが。いえ、なんでもございません」


「すみません、なんか」


 気まずい空気が流れる。


「で、では、こちらの鞄は洗濯させていただきます。ご夕食の方は?」

「あっ、テオさんのところでいただいたので、今日は」

「かしこまりました。ご入浴のご準備が整いましたら、またお伺いいたしますので、しばしお待ちくださいませ」

「はい、ありがとうございます」


 ハンナは私に頭を下げ、部屋から立ち去ろうとしたが、扉付近で立ち止まり、振り返った。


「どうされましたか?」

「あの……」


 ハンナはなんて言えば良いのかわからないというふうな表情で、口ごもる。


「本当に、旦那様と結婚なされるのですか?」

「えっ? ええ、はい」


 私は頷く。

「……そうですか。ありがとうございます」


 失礼します、と今度は本当に部屋から出て行った。



 ……えっ?


 もしかして、あんまり歓迎されてない?
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