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第2章

衣装

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 扉の向こう側に現れたレイモンドを見て、私は驚いた。


「レイモンド様、その格好は……」


 彼は結婚式で、白いタキシードを着る予定だった。

 それなのに今の彼の格好は、いつもの普段着だった。

「……」


 レイモンドは悲しそうな顔で目を伏せる。

「実は」

 レイモンドのかわりに、彼についていた使用人が答えた。

「これを」


 彼が指さしたのは、壁にかけられていたタキシードだった。


 しかし想像していたものと様子が違うのは、きめ細やかなシルクで出来たその衣装が、ビリビリに細かく破られていることだった。

 よくみると、鋭利なもので切り刻まれていることがわかる。


「なっ、なんですか、これ……?」


 私は駆け寄ってそれに触れる。


 どう見てもボロボロだった。

 これは、修復不可能だろう。


 直せたとしても、数時間後の結婚式には間に合いそうもない。


「誰が一体こんなことを……」


 私は呆然とレイモンドの方を見つめる。


 このままだと。

 このままだと、せっかく準備してきた結婚式が。

 楽しみにしていたのに。


「落ち着いてください」

 と、ハンナ。


「こんなこともあろうかと、2着目を用意しております」


 ハンナはレイモンドの部屋の隅にあったクローゼットを開け、中から同じシルクのタキシードを取り出した。


「伯爵様、こちらをお使いください」

「あ、ああ……」
 

 レイモンドは真っ青な顔で、それを受け取る。

「さあ、オリビア様」


 この状況に驚いて動けない私をハンナは急かした。

「この部屋から出ましょう。伯爵様のお着替えがありますので」

「え、ええ。そうですねーーではレイモンド様、また後ほど」

「ええ。では」


 私はお辞儀をし、ハンナと共に部屋を去った。




「あれ、一体どういうことなんでしょうか?」

 部屋を出るなり、私はハンナに尋ねる。

「私にはわかりません。しかし、あそこまでして結婚式をめちゃくちゃにしたい誰かがいるということでしょうね。念の為に2着作っておいて良かった」


 さすがハンナだ。

 有能。


「誰があんなことをしたのかはさておき、このままだとオリビア様も危険です。結婚式まではあまり外に出ず、部屋でゆっくりされた方が懸命かと」

「そうですね」


 ハンナの提案に、私は頷いた。

「そうしましょう」
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