公爵令嬢は、婚約者のことを諦める

小倉みち

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第1章

準備

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 久しぶりにしっかり寝たおかげか、いつも頭にかかっていた靄が取り払われたかのようにすっきりした気分だった。


 早起きは三文の徳ということわざが、かつて私の住んでいた世界にあったが。

 だからと言って、早起き過ぎるのも考え物だ。


 すっきりした目覚めと共に、私は優雅に朝食を取る。


 ジェニーが、

「早くしないと、ご準備が進みませんよ」

 と言い出すまで、私はエッグベネディクトを口に運びながら、ぼんやりと日の光を眺めていた。


「お嬢様」

 ジェニーは心配そうに私に声をかける。

「何?」

「その、お体の調子がお悪いのですか?」

「なんの話?」

「いえ、その……。昨日とは随分と、というか、180度命令が違うもので」


 ジェニーの言う命令とは。


 毎朝4時に起こせ、というものだけでなく。


 黄金に輝く髪を1時間以上もかけて縦巻きロールにし、夜までその髪型が崩れないように、がっつりヘアスプレーをかけまくること。

 化粧を2時間かけて完璧に仕上げること。

 細く美しくなるため、朝食は毎日抜くこと。


 このことだろうと思う。


 確かにあのころは、そうすればマートンが私を見てくれると本気で思い込んでいた。


 でも、前世を思い出した今では、これらの命令は黒歴史に等しい。


 縦巻きロールとか悪役令嬢の典型的な髪型だし、ヘアスプレーのせいで髪はベッタベタだった。

 化粧は余りにも濃すぎたし、肌荒れとそれを隠すためのファンデーションという、負の循環状態。

 
 それに、朝食抜きと慢性的な睡眠不足のせいで、私は毎日イライラしっぱなしだった。


 思えば、私は変な方向に努力を重ねていたのだろう。


 それに気づいたのが、マートンを諦めた今だというのは、少々物悲しさもあるけれど。


「熱はないわ。風邪も引いてないの」

 私はジェニーに言った。

「ただ、気が変わったの」

「そ、そうなんですか……」

「あなたにも迷惑をかけて申し訳ないと思ってるわ。ごめんなさいね」

「い、いえ。とんでもございません。私はお嬢様が快適に過ごせるなら、なんでも構いませんし……」
 


 
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