前前世、前世で私を殺した婚約者と、今世もまた婚約するそうですが

小倉みち

文字の大きさ
18 / 81
第2章

気絶

しおりを挟む
「……は?」

「大丈夫です」

「まさか、こん……」

「ええ……」


 ……。

 ……。

 ……う、うう。


 頭がズキズキと痛む。


 既視感。


 ぼんやりとする頭の中で考えた。


 前にもこんなことがあった気がする。


「まさかあそこで、セレナ様の持病が」

「今までちゃんとコントロール出来ていたのに」

「隣国の王子で良かったのか、幸か不幸かですが」

「聞けば、場面に居合わせたものによると、ルーカス王子がセレナ様の心を不安定にさせた、と」

「確か、何度も『リリ』と別の女の名前を言っていたようで」


 リリ。

 璃々。


 ーーそうだ。

 思い出した。


 私はあの男にそう呼ばれ、それが嫌でーー。


 身体から電流が走って、その場で気絶したのだ。


 既視感があるのは、転生した直後にも、似たようなことがあったから。


 私は少し身動ぎをし、体を伸ばした。


「……! セレナ様がお目覚めに!」

「しーっ、静かに。……おはようございます、セレナ様。お加減はいかがでしょうか?」


 私は目をゆっくりと開けた。


 眩しい光に目が眩み、一瞬で瞼を閉じたが、前回と違って、男2人、女1人が私の顔を覗き込んでいることがわかった。


「大丈夫です……」

 私は声を出したが、思ったよりもカスカスしていて驚いた。


「すみませんでした」

「いえ、私どもに謝罪することではありませんよ」

 と、女が答える。

「セレナ様は疲れていらっしゃったのでしょう。陛下にはもう報告してありますので、ゆっくりとお休みになってください」


 私は目を擦った。


 よくよく見れば、前回と同様の病室らしき場所だった。

「あの」

 私は尋ねた。

「パーティの方はどうなりましたか?」


 男のうちの1人が答えた。


「パーティは2日間開催されますので、まだ大丈夫ですよ。セレナ様が倒られてからまだ数時間しか経っておりませんし」

「ああ、そうですか」


 良かったと、胸をなでおろす。


 もしこれで陛下に命じられた仕事をこなせなければ、彼に殺される可能性だってあるのだ。


 私はあの人を信用していない。


 それなら、出来るだけ向こうの指示に従っている方が安全だと思う。


「では、セレナ様がお目覚めになられたことを、陛下に報告いたします」


 もう1人の男はそう言って、部屋から立ち去った。


「陛下がどうおっしゃるかはわかりませんが、きっと今日はもうパーティへの参加は禁止なさるでしょう。セレナ様はしばらくお休みくださいますよう」

「……ありがとうございます」

「それでは、私たちもこの部屋を出ますので」

 そう言って扉の方に向かう2人に、私はふと湧き上がって来た疑問を投げつける。

「どうして私は倒れてしまったんですか?」


「……」

 2人は困ったような顔でお互いの顔を見合わせた。

「お疲れなんですよ」

 女が答える。

「でも倒れる直前に、私の身体に電流みたいな何かがが走った気がして」

「……気のせいではないでしょうか」


 私はため息をついた。


 このこともどうせ、国王から言わないようにと命令されているのだろう。


 これ以上聞いても答えが返ってこないだろうから、

「そうですね。きっと気のせいでしょう」

 と返事をした。


 私の言葉を聞いた彼らは、明らかにほっとしたような表情で、

「では、失礼します」

 と言って、部屋から出て行った。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

私は貴方を許さない

白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。 前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。

私たちの離婚幸福論

桔梗
ファンタジー
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。 しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。 彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。 信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。 だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。 それは救済か、あるいは—— 真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。

処理中です...