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第3章
図書館
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私は久しぶりに図書館の扉を開く。
中は真っ暗だった。
当然、明かりをつけていれば確実に怪しまれる。
一瞬燭台に火を灯そうか悩んだが、思い切ってそのまま真っすぐに突き進んだ。
暗闇の中を本棚を避けながら進むと、奥の方にかすかな光が見えた。
図書館の司書たちが過ごす部屋だ。
扉の隙間から、小さな明かりが漏れ出している。
私は深呼吸して、その扉をノックした。
「誰だ?」
木の板の向こうから、男の人の声が聞こえる。
だが、クロードではない。
私の知らない人の声だ。
私は息を呑む。
「誰だ?」
男はもう一度訪ねた。
まさか。
クロードの奴、私を――。
いや、それはない。
もし裏切るのであれば、最後までちゃんと仲間のふりをするはずだ。
もしそうするなら、扉の向こう側から話しかけてくるのはクロードであるはず。
「私です」
私は出来るだけ小さな声で答えた。
「誰だ?」
「……セ、セレナです」
「……」
ガチャッと、扉が開く。
部屋の中はほとんど真っ暗だった。
ほんの小さな炎が燭台に宿っているだけで、 それは空間全体を照らすものではない。
しかし、その小ささだからこそ、部屋にいる2人の男の顔の細部がくっきり見えた。
1人は燭台の置かれた長方形の机付近に腰掛けている。
クロードだ。
もう1人は、私を中に入れるべく扉を開けた男だ。
鬱陶しいほどの黒髪に、眼鏡の奥は生気のない瞳。
知らない男だ。
「セレナ様」
クロードは私に微笑みかける。
「こんな夜遅くにお呼び立てして申し訳ありません。私たちが自由に動ける時間帯が今しかなかったものですから」
「いえ。それより、私の我がままに付き合っていただきありがとうございます。こちらこそ、こんな夜更けにお時間を取らせてしまって申し訳ありません」
「まったくだ」
もう1人の男が言う。
「俺には明日仕事があるというのに」
私は少々驚く。
一応は王女である「セレナ」に向かってため口を聞く人間など、今まで見たことがなかった。
「ちょっと、バスティンさん」
クロードは彼をたしなめる。
「彼女は7歳ですよ」
「7歳だろうが王女だろうが、迷惑をかけてくるような人間は嫌いだ」
「バスティン?」
私は男に視線を向ける。
「アイザック・バスティン?」
「違う」
男はぶっきらぼうに答えた。
「アイザック・バスティンは俺の祖父だ」
中は真っ暗だった。
当然、明かりをつけていれば確実に怪しまれる。
一瞬燭台に火を灯そうか悩んだが、思い切ってそのまま真っすぐに突き進んだ。
暗闇の中を本棚を避けながら進むと、奥の方にかすかな光が見えた。
図書館の司書たちが過ごす部屋だ。
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私は深呼吸して、その扉をノックした。
「誰だ?」
木の板の向こうから、男の人の声が聞こえる。
だが、クロードではない。
私の知らない人の声だ。
私は息を呑む。
「誰だ?」
男はもう一度訪ねた。
まさか。
クロードの奴、私を――。
いや、それはない。
もし裏切るのであれば、最後までちゃんと仲間のふりをするはずだ。
もしそうするなら、扉の向こう側から話しかけてくるのはクロードであるはず。
「私です」
私は出来るだけ小さな声で答えた。
「誰だ?」
「……セ、セレナです」
「……」
ガチャッと、扉が開く。
部屋の中はほとんど真っ暗だった。
ほんの小さな炎が燭台に宿っているだけで、 それは空間全体を照らすものではない。
しかし、その小ささだからこそ、部屋にいる2人の男の顔の細部がくっきり見えた。
1人は燭台の置かれた長方形の机付近に腰掛けている。
クロードだ。
もう1人は、私を中に入れるべく扉を開けた男だ。
鬱陶しいほどの黒髪に、眼鏡の奥は生気のない瞳。
知らない男だ。
「セレナ様」
クロードは私に微笑みかける。
「こんな夜遅くにお呼び立てして申し訳ありません。私たちが自由に動ける時間帯が今しかなかったものですから」
「いえ。それより、私の我がままに付き合っていただきありがとうございます。こちらこそ、こんな夜更けにお時間を取らせてしまって申し訳ありません」
「まったくだ」
もう1人の男が言う。
「俺には明日仕事があるというのに」
私は少々驚く。
一応は王女である「セレナ」に向かってため口を聞く人間など、今まで見たことがなかった。
「ちょっと、バスティンさん」
クロードは彼をたしなめる。
「彼女は7歳ですよ」
「7歳だろうが王女だろうが、迷惑をかけてくるような人間は嫌いだ」
「バスティン?」
私は男に視線を向ける。
「アイザック・バスティン?」
「違う」
男はぶっきらぼうに答えた。
「アイザック・バスティンは俺の祖父だ」
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