前前世、前世で私を殺した婚約者と、今世もまた婚約するそうですが

小倉みち

文字の大きさ
51 / 81
第4章

準備

しおりを挟む
 私はあの男の誕生会に出席するため、クロードとバスティンの両者と距離を置き、陛下に言われた通りに行動する。


 授業終わり、兄に手配してもらった針子たちによって、私の身体のサイズが測られていく。


 前回のパーティの際は、すでに私の衣装がいくつも作られていたけれど。

 あれは恐らく、「セレナ」が長い間眠っていたときに採寸して製作したのだろう。


 今回採寸することになったのは、身体が弱いとはいえ、「セレナ」の身体が少し成長しているに違いないと踏んだからだろう。

 私は数人の針子たちが忙しなく動く様子をじっと見つめ、何も言わなかった。


 彼女たちが自分の仕事を全うしたのは、もう夜もすっかり更けた時間帯。


 知らない人間に囲まれ、精神を削り疲れ切った私は、自分のベッドにもぐりこみ、泥のように眠った。


 アイザック・バスティンの本を開くことさえ出来なかった。


 もちろんそれで話が終わるはずもなく、次の日はドレスのデザインを決めていく。


 ドレスのデザインは、宮廷所属のクチュリエが担当する。


 外部に発注するよりも、より宮廷のマナーや常識に詳しいデザイナーが適当であるという判断だ。


 むろん、そこに私の意見を取り入れないというわけにもいかないので、デザイナーに向かって自分の要望を伝える。


 要望も何も、7歳の少女である「セレナ」に、ドレスの細かなこだわりなどあるはずもなく、

「可愛いドレス」

「ピンク色の」

 という2つの子どもらしい(少なくともそう私は思っている)意見を主に主張し、あとは早口で自分の眼に自身のあるデザイナーの意見に、あいまいな笑みで頷くだけだった。


 懐かしい気持ちになるのは、1回目の「私」が、当時の夫であるあの男の心を取り戻そうと、美しいドレスの製作に躍起になっていたからだ。


 今にして思えば、そんなことをしても、もう彼の気持ちが私に向くことはなかっただろうけど。

 ただむやみに浪費し、それが宮廷内での私の失脚を彩る華であったことに、私は全く気づいていなかった。


 デザインを決めたら、今度はそれの許可を国王に求める。


 兄が妹に対し適度に無関心であれば、きっと即座に許してくれたであろう、それなりに良いデザインだったはずだが、国王陛下は、私たちの提示したデザインをことごとく却下した。


 まるで、私の決めたことを全否定したいがために、このような会に出席しろと命じたのかという気にさえなってくる。


 あんなに自信ありげだったクチュリエも、最後の方には死んだ魚のような目で、私の部屋に訪れていた。


 ようやくデザインが正式に決まったのは、本来の予定である日にちより、1週間も過ぎていた。


 針子たちは超特急で私の衣装を作り、ドレスが出来るまで、私は教師によって、隣国のマナーを叩き込まれた。


 私は憂鬱な誕生日会までの1ヵ月間を、このように過ごしたのだ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

私は貴方を許さない

白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。 前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。

私たちの離婚幸福論

桔梗
ファンタジー
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。 しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。 彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。 信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。 だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。 それは救済か、あるいは—— 真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。

処理中です...