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登校
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私とユーリの婚約破棄について、これ以上の話がなされることはなかった。
私が、この婚約破棄の申し入れ以外で彼に対し何もしたくないと固辞したのが理由だろう。
私はもうきっぱりユーリとは距離を起きたかった。
彼を許すとはいえ、私だって傷ついているのだ。
彼は彼なりに幸せになってくれれば良いし、私は私なりに幸せになる。
ーーだから、私は婚約破棄をする。
これ以上、私はユーリに対して、なんの働きかけもしたくない。
次の日、私は1人で登校し、教室に入る。
「おはよう、ウェンディ」
「おはよう、マーサ」
マーサは私の隣の席だ。
彼女はいつも通りに私に挨拶し、私の机に両手をついた。
「で、結局どうなったの?」
どうなった、とは。
昨日のことを聞いているのだ。
「結局、婚約破棄は出来たの?」
「ええ。昨日はちょうどユーリの両親も私の家に来てたの。だから、ちょうど良かったわ」
「……へえ」
マーサは意地の悪い笑みを浮かべた。
「直接言ったんだ?」
「まあ、そうなるわね」
「結構えぐいことするわね、あんた」
「えぐいかな?」
どうせ私が両親だけに伝えても、ユーリの両親には遅かれ早かれ伝わるのだ。
だから直接言おうが間接的に言おうが、変わらないと思う。
「ちなみにさ」
マーサはにっこにこで言った。
「今日、ユーリ子息とすれ違ったんだけど」
「ユーリと?」
「そう。あの綺麗な顔に、ばっちり痣出来てたわ。真っ青なやつ。しかもまん丸だったわ」
「えっ」
「直接ぶん殴られたのね。目のところに、がっつりついてたわよ」
「あらまあ」
ユーリの父親は厳しいと聞いていた。
おそらく、その痣はおじ様がつけたのだろう。
「大丈夫かしら? 目のところよね?」
「ええ」
「目が見えなくなってなきゃ良いけど」
「あんたねぇ」
マーサがため息をつく。
「良い子過ぎるわよ。心配してあげる必要ないのに」
「でもまあ、可哀想でしょ」
おじ様はかなり屈強な人だ。
騎士団出身で、今も身体を鍛えている。
そんな人にぶん殴られたと聞けば、そりゃ同情くらいするだろう。
「めっちゃくちゃ機嫌悪かったわよ、あいつ」
「ああ、そうなの?」
「あんたがチクったって、周囲の人間に言いふらしてた」
「別にチクったわけじゃないんだけどな」
私が家に帰ったとき、たまたまユーリの両親がいたのだ。
別に積極性を持って2人に告げ口をしたわけじゃない。
「向こうはそう思ってなさそうだけどね」
マーサは肩をすくめた。
「でもまあ、良かったじゃない。これであんたは自由よ」
「ええ、本当に良かった」
マーサが席につき、あとは担任が来るのを待つばかりだ。
ガラガラガラ。
扉が開かれる。
教室のざわめきが瞬時に消える。
先生が来たのか。
全員がそう思って身構えたが、どうやら違うみたいだ。
顔を青く腫らせた男子生徒が、真っ直ぐに私の机に向かってきた。
「ウェンディ、良くも俺の両親にチクったな!」
私が、この婚約破棄の申し入れ以外で彼に対し何もしたくないと固辞したのが理由だろう。
私はもうきっぱりユーリとは距離を起きたかった。
彼を許すとはいえ、私だって傷ついているのだ。
彼は彼なりに幸せになってくれれば良いし、私は私なりに幸せになる。
ーーだから、私は婚約破棄をする。
これ以上、私はユーリに対して、なんの働きかけもしたくない。
次の日、私は1人で登校し、教室に入る。
「おはよう、ウェンディ」
「おはよう、マーサ」
マーサは私の隣の席だ。
彼女はいつも通りに私に挨拶し、私の机に両手をついた。
「で、結局どうなったの?」
どうなった、とは。
昨日のことを聞いているのだ。
「結局、婚約破棄は出来たの?」
「ええ。昨日はちょうどユーリの両親も私の家に来てたの。だから、ちょうど良かったわ」
「……へえ」
マーサは意地の悪い笑みを浮かべた。
「直接言ったんだ?」
「まあ、そうなるわね」
「結構えぐいことするわね、あんた」
「えぐいかな?」
どうせ私が両親だけに伝えても、ユーリの両親には遅かれ早かれ伝わるのだ。
だから直接言おうが間接的に言おうが、変わらないと思う。
「ちなみにさ」
マーサはにっこにこで言った。
「今日、ユーリ子息とすれ違ったんだけど」
「ユーリと?」
「そう。あの綺麗な顔に、ばっちり痣出来てたわ。真っ青なやつ。しかもまん丸だったわ」
「えっ」
「直接ぶん殴られたのね。目のところに、がっつりついてたわよ」
「あらまあ」
ユーリの父親は厳しいと聞いていた。
おそらく、その痣はおじ様がつけたのだろう。
「大丈夫かしら? 目のところよね?」
「ええ」
「目が見えなくなってなきゃ良いけど」
「あんたねぇ」
マーサがため息をつく。
「良い子過ぎるわよ。心配してあげる必要ないのに」
「でもまあ、可哀想でしょ」
おじ様はかなり屈強な人だ。
騎士団出身で、今も身体を鍛えている。
そんな人にぶん殴られたと聞けば、そりゃ同情くらいするだろう。
「めっちゃくちゃ機嫌悪かったわよ、あいつ」
「ああ、そうなの?」
「あんたがチクったって、周囲の人間に言いふらしてた」
「別にチクったわけじゃないんだけどな」
私が家に帰ったとき、たまたまユーリの両親がいたのだ。
別に積極性を持って2人に告げ口をしたわけじゃない。
「向こうはそう思ってなさそうだけどね」
マーサは肩をすくめた。
「でもまあ、良かったじゃない。これであんたは自由よ」
「ええ、本当に良かった」
マーサが席につき、あとは担任が来るのを待つばかりだ。
ガラガラガラ。
扉が開かれる。
教室のざわめきが瞬時に消える。
先生が来たのか。
全員がそう思って身構えたが、どうやら違うみたいだ。
顔を青く腫らせた男子生徒が、真っ直ぐに私の机に向かってきた。
「ウェンディ、良くも俺の両親にチクったな!」
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