【完結】恋がしたい? どうぞご勝手に

小倉みち

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弁護士

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 私たちは、知り合いのツテを辿って弁護士を紹介してもらった。


「初めましてーーでは早速ですが」


 老年の、いかにもベテランという顔をした男性は、挨拶もそこそこに話を進める。

「婚約不履行に関しまして、公爵子息ユーリ殿と、その浮気相手である男爵令嬢ヒメナ殿2名に慰謝料請求を行う、ということでよろしいでしょうか?」

「はい」


 私は頷いた。


「だいたい相場はいくらくらいになるのでしょうか?」

「そうですね……」


弁護士はてきぱきとした仕草で、仕事用鞄から1枚の紙を取り出す。

「貴族の方であることを考慮するなら、この程度でしょうか」


差し出された紙には、想像していたのよりも1回り小さい額が書かれていた。


私の認識していた慰謝料というイメージとは、少し違うみたいだ。

私の驚きに気づいたのか、弁護士は言う。

「あくまで今回は、『婚約不履行』ですから」

「……ああ、そうですね。確かに」


裏切られたということにはもちろん変わりないが、私とユーリは結婚しておらず、あくまで当時婚約者という立場であった。

そう言われると、妥当な額に見えてくる。

「それで、今回のウェンディ殿やお2人の立場などを考えると、こうなりますね」


弁護士は、羅列された数値の中から、指差して私に金額を示した。


やはり、だいたい相場と同じくらいのようだ。


つまり、思っていたよりも少ない。


でもまあ、今回の目的はお金が欲しいというものではなく、ちゃんと2人――特にヒメナに反省してほしいということである。


弁護士の提示した額であれば、その反省を促すことは十分に可能であろう。


私はそこで、ふと湧き上がって来た疑問をぶつける。

「すごく基本的な質問にはなるんですけど」

「なんでしょうか?」

「どうして、ユーリとヒメナでは額が違うんですか?」


 相場では、婚約者側と浮気相手側で同数の金額か、それとも婚約者側の方が高くなるように設定されている。


しかし、今回はユーリよりもヒメナの方が、何倍も慰謝料請求額が多い。


「それは当然、身分差ですよ」


弁護士は困ったような顔をする。

「何分前例がないものですから――自分よりもはるかに上の身分の人間から、婚約者を奪うなんて」

「ああ、なるほど……」


私は普段あまり身分差なんて気にしていないけれど、こういうときにものすごく意識する。


やっぱり身分って、この国じゃ重要な項目なんだな、と。
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